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2018年品川区長選挙レポート

普天間基地の辺野古移転を巡って争われた沖縄県知事選挙。
“オール沖縄”の玉城デニー代議士の勝利で終わったが、その選挙の陰で品川区長選挙も投開票されていた。
あまり話題にはならなかったが、明確な争点があるという点では注目の選挙であった。

今回の品川区長選の争点の1つに「羽田空港新ルート」があった。
東京オリンピックを前に羽田空港に発着する国際線の便数を増やすため、品川区などの上空を飛ぶ新たな飛行機の発着ルートを導入するというもので、
騒音や落下物の危険性の問題が指摘されていた。

浜野健・現区長が新ルート導入を事実上認めているのに対し、野党各党は反発。
元市議の佐藤裕彦候補が立候補を表明した。
そして市民団体「みんなの品川をつくる会」を通し、都民ファーストの会、立憲民主党、共産党、自由党の野党各党が佐藤候補の推薦を決定。
佐藤候補はもともと自民党都議であったが、まさに“呉越同舟”ともいえる異常な相乗りが生まれた。
沖縄県知事選挙でも、保守から革新までもが玉城デニー候補を推す“オール沖縄”が実現したが、ここでも“オール品川”が誕生したのである。

9月23日に告示され、次の候補者が立候補した。


佐藤 裕彦 60 無所属・新(立憲民主党、共産党、自由党、都民ファーストの会推薦)
西本 貴子 57 無所属・新(自由を守る会推薦)
浜野  健 71 無所属・現(自民党、公明党推薦)

第3の候補として、同じく新ルートに反対する西本貴子区議が辞職して立候補。
上田令子都議率いる地域政党・自由を守る会が支持を表明した。
上田都議は都民ファーストの会の旗揚げメンバー。
2017年10月に都民ファーストの会を離党しているが、その彼女の立ち上げた自由を守る会と古巣の都民ファーストの会が正面切って対決するというのも注目であった。

浜野区長は今回4選を目指す。
区長選挙ではここ2回ほど、現職の浜野区長に対して共産党単独推薦の候補者しか立候補せず、事実上の新任投票となっていた。
そのため前回2014年の区長選の投票率はわずか23.22%に留まっていた。

前回の区長選の結果は次の通り。

当選51,378 浜野  健 67 無所属・現(自民党、民主党、公明党推薦) 
  17,427 原田 泰雄 74 無所属・新(共産党推薦) 

今回は有力な対立候補の立候補で、選挙戦が盛り上がることが予想される。

その品川区長選をウォッチしに出かけた。

佐藤裕彦候補が大森駅前で街宣を行うというので出かけた。
さっそく道の先に佐藤候補の街宣車を発見したのだが、なんと遅くなってしまったため街宣が終わってしまったようだった。

なんともツイていない。
街宣車の窓越しに佐藤候補に声をかけて握手をするのがせいぜいであった。

それでは他の候補者の街宣を見たいところだが、
今回の品川区長選挙、各候補者ともネットを活用しているとはいい難いようで、ほとんど街宣の予定がわからない。

そこで、とりあえず品川区で最大規模の駅である大井町駅に移動した。
すると、誰かの声が聞こえてくる。
自民党の区議候補の芹沢裕次郎候補だ。

今回の品川区長選挙と同時に定数2で区議会議員補欠選挙が実施されている。
沢田洋和元区議と阿部祐美子元区議が2017年都議選に立候補のために辞職したことに伴うもの(共に落選)だが、今回当選しても任期は来年4月までの半年でしかない。
それでも5名が立候補している。

立候補者は次の通り。

芹沢裕次郎 28 自民党・新
高野 洋介 27 無所属・新
吉田あつみ 60 自由党・元
西村柳一郎 40 無所属・新
奥野 晋治 62 共産党・新

自民党の芹沢候補と無所属の高橋洋介候補と、20代の候補が2人立候補している。
野党側は共産党の奥野晋治候補と、自由党の元区議の吉田あつみ候補が立っているが、立憲民主党と都民ファーストの会が候補者を立てていない。
そうなると組織力に勝る自民党と共産党の候補者が有力であろうか…。

芹沢候補の演説をしばらく聞いていたが、平成生まれだということを盛んにアピールしていた。

この週末の気がかりな点は台風24号の動き。
30日夜にも関東を直撃が予想され、JRがすべての電車を20時までに終了させるとの話であったが、どうやら投票は無事行われたようである。
投票率は歴史的な低投票率だった前回2014年の23.22%は上回ったが、それでも32.71%と低かった。

当選49,965 浜野  健 無所属・現
  37,607 佐藤 裕彦 無所属・新
  16,240 西本 貴子 無所属・新

結果は浜野健・現区長が野党統一候補の佐藤裕彦元都議、西本貴子前区議を抑えて4選を決めた。
浜野区長は次点の佐藤候補に1万2千票以上の大差をつけて圧勝という形だが、得票率は48.13%で過半数まではいかなかった。
羽田空港新ルート反対派の票が佐藤候補と西本候補に分裂したことに救われたという形である。

それにしても、都民ファーストの会が2017年都議選で品川区選挙区において4議席中上位2議席を独占していたことを考えると、
今回の佐藤候補は惨敗と言ってもいいだろう。

都民ファーストの会を創設した小池百合子都知事が、先週末沖縄県知事選挙の佐喜真淳候補(自民党、公明党、維新の会、希望の党推薦)の応援のために沖縄を訪問したことが話題になっていた。
それに引き換え、今回の品川区長選挙では都民ファーストの会が佐藤裕彦候補を推薦しているというのにも関わらず、小池都知事は品川区においては目立った行動を起こしていなかった。
同じ日に行われる選挙で、沖縄では与党候補を応援し、品川区では野党候補を推薦するという形となったのも問題であるのだが、
結果的にはどちらの候補者も落選という結果に終わった。
都民ファーストの会ばかりか小池百合子都知事の威光が衰えていることを如実に示しているように感じる。


一方、同日に行われた品川区議会補欠選挙。

当選34,377 芹沢裕次郎 自民党・新
当選25,354 奥野 晋治 共産党・新   
  14,873 西村柳一郎 無所属・新
  14,207 高野 洋介 無所属・新
  10,814 吉田あつみ 自由党・元

自民党と共産党公認候補が順当に当選を決めた。


昨年の都議選の結果と今回の結果を見比べると面白いことがわかる。
都議選で品川区で候補者2人が共倒れし議席を失った自民党候補者の得票の合計は35,353票。
また、当選した共産党候補者の得票は23,126票だったが、今回の区議補選ではほとんどそのまま芹沢候補と奥野候補の得票となっている。
一方、都民ファーストの会の得票は計60,852票、民進党候補の得票と合わせると78,464票になるが、区議補選の残りの3候補の得票を合わせても39,858票に留まっている。

今回候補者を立てなかった公明党の票は26,184票なので、それを除いた票は13,674となる。
そこに共産党の23,176票を足すと36,850票となり、区長選の佐藤候補の票とほぼ一緒になる。

このことから分かることは、都議選で都民ファーストの会を支持した人たちの大半が今回の区長選・区議補選で棄権してしまったということである。
そうすると、あの都民ファーストの会の躍進というのも、小池百合子都知事の引き起こしたブームに乗っかって多くの有権者が投票所に足を運んだことによるのではないだろうか。
羽田空港の新ルートという明確な争点があったにも関わらず、区長選がさほど話題になっていなかったのは、佐藤候補にとっては大きな誤算だったといえるのではないだろうか。

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