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2019年足立区長選挙・足立区議会議員選挙レポート

 東京都内においては令和最初の選挙である足立区長選挙・足立区議会議員選挙が5月19日告示された。

■なぜこの時期に足立区で選挙なのか?

 足立区長選挙・区議会議員選挙は、毎回統一地方選挙から約1ヶ月遅れて実施される。法令によると統一地方選で実施することが出来るのは3月1日から5月31日に任期満了となる首長・議会議員だけである。ところが、足立区の場合区議会議員は5月17日が任期満了であるのに対し、区長の任期満了は6月19日となっている。そのため、区議選は統一地方選と同日に実施可能だが、区長選は別でやらざるを得ない。区長選と区議選を別に行うと8千万円余計にかかるため、区議選は区長選挙と同日程で実施される。

 こうなった原因は1999年まで遡る。1996年に実施された足立区長選において、保守系候補が分裂。当時の全国的な共産党ブームもあって共産党推薦の吉田万三候補が当選した。しかし、吉田区長は区議会においてほぼオール野党という中、区政運営に苦労。1999年の統一地方選挙を目前に、野党による不信任案が可決されてしまう。
 吉田区長は議会を解散することで対抗したが、新しい議会でも少数与党の状況は変わらず、再び不信任が可決されて吉田区長は失職。出直し選挙でも破れてしまった。野党が不信任を提出したのが統一地方選の直前で、この時の区議会出直し選挙は統一地方選と同日(4月25日)に実施されていることから、政治家の狡猾さを感じさせるものであるのだが、出直し区長選が実施されたのは区議選から約2ヶ月後の6月20日だった。

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■足立区長選挙立候補者 

 今回の足立区長選挙に立候補したのは次の通り。

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近藤 弥生 60 無所属・現(自民党、公明党推薦)
大島 芳江 69 無所属・新(共産党推薦)

 現職の近藤弥生区長に、共産党推薦で元都議の大島芳江候補が挑む。

■足立区議選立候補者

 一方、定数45の区議会議員選挙の候補者は次の通り。足立区議会はすでに5月17日に任期満了となっているのだが、便宜上ここでは前職を現職として扱うことにする。

横尾 忠司 33 無所属・新
吉田 幸司 60 公明党・現
松原 一徳 49 無所属・新
佐藤安里紗 32 無所属・新
額賀 和子 55 共産党・現
西之原恵美子 59 共産党・現
佐野智恵子 55 公明党・現
伊藤 信之 40 自民党・現
瀬沼  剛 76 自民党・現
町側 尚則 52 自民党・新
窪田 美幸 53 公明党・現
鈴木  明 65 立憲民主党・現
高山 延之 63 自民党・現
多田 太郎 38 自民党・現
佐々木雅彦 62 公明党・現
長澤 興祐 38 自民党・現
横田  祐 58 共産党・新
土屋 典子 38 無所属・現
金田  正 47 自民党・現
山中智恵子 50 共産党・現
鯨井  実 40 自民党・現
長井 昌則 56 公明党・現
名取 鉄朗 55 自民党・新
仁内  和 34 自民党・現
田方 直昭 54 公明党・現
谷古宇恵美 53 緑の党・新
飯倉 昭二 59 公明党・現
渡辺 英章 52 自民党・現
古性 重則 69 自民党・現
新井 英生 57 自民党・現
鹿濵  昭 62 自民党・現
中島晃一郎 31 都民ファーストの会・新
秦野 昭彦 56 共産党・現
松丸  誠 61 立憲民主党・現
米山 泰志 53 国民民主党・現
児玉 紀子 66 共産党・新
北川 秀和 50 共産党・新
岡安 隆志 55 公明党・現
白石 正輝 77 自民党・現
長谷川貴子 46 無所属・現(国民民主党推薦)
口石 竜三 50 維新の会・新
小泉  博 64 公明党・現
逸見 圭二 38 無所属・現
渋谷 竜一 27 無所属・新
銀川裕依子 33 立憲民主党・新
石毛 一昭 49 公明党・新
浅子 惠子 67 共産党・現
杉本  優 34 自民党・新
渕上  隆 64 公明党・現
工藤 哲也 48 自民党・現
片野 和恵 60 無所属・新
水野亜由美 39 公明党・新
吉岡  茂 56 自民党・現
小椋 修平 45 立憲民主党・現
市川 伯登 51 無所属・現
大竹小夜子 49 公明党・現
加陽麻里布 26 NHKから国民を守る党・新

 任期満了前の各会派の人数は自民党15(前回当選17)、公明党12(同13)、共産党7、立憲・民主の会4(立憲民主党3、国民民主党1)、無所属4、欠員3となっていた。
 今回の立候補者数は定数45に対して57人。その内訳は、自民党18、公明党13、共産党8、立憲民主党4、国民民主党、日本維新の会、都民ファーストの会、緑の党、NHKから国民を守る党各1、無所属9。
 自民党と共産党は前回当選者より1名多い候補者を擁立した。
 公明党は前回は14人を立てていたが、今回は候補者を1人減らした。それは前回選挙で候補者1名がわずか2票差の次点で落選していたことによるのだろう。公明党の候補者が落選するというのは珍しい事態である。

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 前回4人が当選した旧民主党は、鈴木明区議と小椋修平区議が立憲民主党、米山泰志区議と長谷川貴子区議が国民民主党(長谷川候補は推薦)でそれぞれ立候補した。また、前回は維新の党で当選した松丸誠区議も今回は立憲民主党に移籍しての出馬。維新の候補者が立憲民主党から立候補するという事態は統一地方選でも見られたが、このところ都内で維新の会の支持が落ちていることを考えると、この流れは今後も増えてくるのではないだろうか?

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 都議会足立選挙区6議席中2議席を保持している都民ファーストの会は新人の中島晃一郎候補1人を立てた。

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 その一方で、前回は自民党で当選し、都民ファーストの会から都議会に転出した馬場信男前区議が後継として渋谷竜一候補を立てている。都民ファーストの会は渋谷候補には推薦を出していないため、党内に何らか事情があったのではないかと思わずにはいられない。

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 また、緑の党が谷古宇恵美候補を擁立した。この「緑の党」いわゆる「緑の党三橋派」と呼ばれる新左翼政党で、2013年参院選に候補者を立てた環境政党「緑の党グリーンズジャパン」とは別団体である。太田区議会に現職の野呂恵子区議がいるのだが、ここ足立区ではなかなか議席に届かない。
谷古宇候補はこれで4度目の挑戦となる。

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■N国党の立候補トラブル

 NHKから国民を守る党は26歳の司法書士・加陽麻里布(かよう・まりの)候補を立てているが、加陽候補の立候補に当たって選管との間でトラブルがあったらしい。

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 というのも、加陽候補は足立区ではなく墨田区在住なのである。公職選挙法では、被選挙権を持つためには、25歳以上でその市区町村の選挙権を持っていることが条件である。その市区町村の選挙権を持つためにはその地域に引き続き3ヶ月以上在住しなくてはならない。NHKから国民を守る党の立花孝志代表は、被選挙権というものはあくまで「当選することができる権利」であって、立候補自体は妨げられないと解釈している。これは、先の統一地方選挙の兵庫県議選、兵庫県播磨町議選において、NHKから国民を守る党の候補者が被選挙権がないまま立候補し、得票が無効となったが選挙活動自体は続けることが出来たことがあったことを受けている。つまり、公職選挙法への問題提起という目的があるらしい。
 結局、加陽候補は足立区内のカプセル・ホテルの住所を書類に書くことで立候補を受理してもらうことが出来たようなのだが、明らかに居住実績がないため、後々問題になることは確実である。
 いずれにせよ、明らかに投票したら無効票になるとわかっている人物を候補者として提示する行為であるのだから、これは有権者への背信行為に当たるのではないか。党や立花代表の良識を疑う。
 
 足立区は犯罪発生率、住民の所得がいずれも23区中ワースト1位だという不名誉なデータがある。それだけに区の抱える問題も多く、選挙もそれなりに盛り上がりそうである。

■足立区長選・区議選ウォッチ

 その足立区長選挙・区議会議員選挙をウォッチした。
 まずは北千住の駅で下車して候補者を探した。ところが、候補者の姿はどこにもない。仕方がないので、隣の綾瀬駅に向かった。
 綾瀬駅で電車を降りるとホームにまで街宣の声が聞こえてくる。西口前で共産党の候補者が演説会を行っていたようなのだが、タイミング悪くちょうど終わったところだった。

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 しかし、東口に向かうと無所属の松原一徳候補がビラを配っている。

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 さらに、東口前には立憲民主党の鈴木明区議の姿もあった。

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 しばらくすると、近藤弥生区長の街宣車が駅前を通過していった。

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 西口に戻ると、無所属の逸見圭二区議が街宣を開始。38歳と若いがすでに3期務めたベテラン。

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 議員特権の見直しなどについて熱く語っていた。

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 再び北千住駅へ。
 東口には公明党の飯倉昭二区議の姿があった。

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 また、区長選の対立候補である共産党推薦の大島芳江元都議の街宣車がある。このあとここで街宣を行うようだ。

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 しばらくすると、大島候補がやって来た。

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 さすがは共産党の組織力。この選挙に力を入れていることが分かる。

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 もっとも、演説では憲法改正反対や消費増税反対など国政の問題を多く語る。確かに密接な関係があるのかもしれないが、区政選挙で国政のことばかり語る共産党の姿勢もどうかと思う。

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 応援演説に立ったのは吉田万三・元区長。

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 区長時代に子供の医療費無料を拡大した実績を語っていた。
 最後に西口へ移動すると、NHKから国民を守る党の加陽麻里布候補が街宣を始めた。

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 例によって「NHKをぶっ壊す」ワンイシューで戦っているのだが、加陽候補は被選挙権がないため、投票しても無効票になる。しかも演説の中では、一言もそのことについては触れなかった。

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 国政進出を目指しているNHKから国民を守る党にとっては、こうした行いは却って票を減らすことに繋がるのではないかと思う。

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■足立区長選・区議選投票結果

 足立区長選挙と区議会議員選挙の投票日は5月26日。投票率は共に42.89%で、前回の46.07%を下回った。即日開票ではなく、翌日に開票された。
 果たして結果は…。

 区長選。

当選189,190近藤 弥生 無所属・現
   44,495大島 芳江 無所属・新

 現職の近藤弥生区長が大島芳江元都議を大差で下し4選を決めた。

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 一方の区議選。

当選8,018銀川裕依子 立憲民主党・新
当選7,194逸見 圭二 無所属・現
当選5,905長澤 興祐 自民党・現
当選5,786古性 重則 自民党・現
当選5,691鯨井  実 自民党・現
当選5,612小椋 修平 立憲民主党・現
当選5,607金田  正 自民党・現
当選5,514瀬沼  剛 自民党・現
当選5,441水野亜由美 公明党・新
当選5,395額賀 和子 共産党・現
当選5,184多田 太郎 自民党・現
当選5,124小泉  博 公明党・現
当選4,969鹿濵  昭 自民党・現
当選4,862浅子 惠子 共産党・現
当選4,640白石 正輝 自民党・現
当選4,521飯倉 昭二 公明党・現
当選4,504大竹小夜子 公明党・現
当選4,451山中智恵子 共産党・現
当選4,426岡安 隆志 公明党・現
当選4,417長谷川貴子 無所属・現
当選4,406鈴木  明 立憲民主党・現
当選4,360渡辺 英章 自民党・現
当選4,350渕上  隆 公明党・現
当選4,320市川 伯登 無所属・現
当選4,307杉本  優 自民党・新
当選4,266伊藤 信之 自民党・現
当選4,184窪田 美幸 公明党・現
当選4,152佐々木雅彦 公明党・現
当選4,090吉田 幸司 公明党・現
当選4,031北川 秀和 共産党・新
当選3,971田方 直昭 公明党・現
当選3,965佐野智恵子 公明党・現
当選3,877長井 昌則 公明党・現
当選3,848吉岡  茂 自民党・現
当選3,847石毛 一昭 公明党・新
当選3,833秦野 昭彦 共産党・現
当選3,807新井 英生 自民党・現
当選3,670横田  祐 共産党・現
当選3,649西之原恵美子 共産党・現
当選3,646渋谷 竜一 無所属・新
当選3,359工藤 哲也 自民党・現
当選3,356土屋 典子 無所属・現
当選3,179仁内  和 自民党・現
当選3,045高山 延之 自民党・現
当選2,955中島晃一郎 都民ファーストの会・新
  2,905口石 竜三 維新の会・新
  2,838名取 鉄朗 自民党・新
  2,755佐藤安里紗 無所属・新
  2,730児玉 紀子 共産党・新
  2,482米山 泰志 国民民主党・現
  1,917町側 尚則 自民党・新
  1,470片野 和恵 無所属・新
  1,460松丸  誠 立憲民主党・現
  1,168谷古宇恵美 緑の党・新
   806松原 一徳 無所属・新
   445横尾 忠司 無所属・新
    0加陽麻里布 NHKから国民を守る党・新

 自民党は16人が当選。現有15議席は越えたが、前回の17議席は下回った。一方の公明党は13人全員が当選。今回は候補者を絞ったことが効を制した。両党は29議席で区議会過半数を維持した。
 かつて与党であったこともある共産党は前回と同じ7議席であった。与党時代は10数議席を保持していたのだが…。

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 立憲民主党は銀川裕依子候補がトップ当選したのを始め、3人が上位当選したが、松丸誠区議は落選した。松丸区議はもともと維新の会から立憲民主党に移籍している。やはりその辺りが無節操な行動に思われたのかもしれない。あるいは維新の会の候補者である口石竜三候補も次点で落選しているから、支持が割れてしまったのだろうか。

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 国民民主党は公認の米山泰志区議が落選した。また、推薦の長谷川貴子区議は当選したが、前回は民主党公認で7,628票で2位当選だったのに比べると、3,200票も得票を減らしている。民主党時代の両者の得票の合計は13,907票だったのが、今回は6,899票とほぼ半減している。
 前回民主党で今回立憲民主党に所属していた小椋区議と鈴木区議の票の合計が9,144票から10,018票と微増にすぎなかったの、新人の銀川候補が国民民主党の票を相当吸い上げてしまったように感じる。

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 また、都民ファーストの会の中島晃一郎候補は当選したものの、次点にわずか50票差の最下位当選とギリギリだった。足立区西部は衆議院東京12区に属しているが、その12区には選挙区改定の際に東京10区から豊島区の一部が編入されている。そしてその東京10区こそが衆議院議員時代に小池百合子都知事が地盤としていた地域なのである。足立区はいわば都民ファーストの会のお膝元とも言える地域なのだが、そこでさえも1人を当選させるのがやっとである。都民ファーストの会の馬場信男都議の後継の渋谷竜一候補も当選しているが、こちらの票を合わせても、都議選で都民ファーストの会が獲得した8万票には遥かに及ばないのだから、都民ファーストの会の凋落ぶりが著しいというのは決して間違いではない。
 その他、諸派では緑の党の谷古宇恵美候補が4度目の挑戦で及ばなかった。

■得票0票

 NHKから国民を守る党の加陽麻里布候補は投票無効とされ、得票は0票となった。実際には5,548票を獲得していたが、これは全体の8位に相当する。ギリギリ当選することの多いN党にしてはかなりの躍進である。N党の立花孝志代表は、最下位当選の中島候補の当選無効の裁判を起こすと表明しているが、もともと当選資格の無いことがわかっての立候補であるのだから、さすがに結果を覆すのは難しいのではないだろうか?

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 足立区は東京23区で最も平均所得が低く、NHKの受信料への批判も多いであろうから、まともに戦っていれば当選する可能性は高いとみていた。貴重な票を立花代表の無謀な挑戦のために無駄にしたのであれば、まったく許せないことである。また、N党も前々から被選挙権の無い候補者を擁立することを明言していたのだから、選挙管理委員会としても何か打つ手はあったのではないだろうか?

 そういった意味では何とも後味の悪い足立区議選の結果であった。

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