見出し画像

2018年杉並区長選挙・区議会議員補欠選挙レポート

 立川市議会議員選挙が投開票された6月17日。杉並区長選挙、杉並区議会議員補欠選挙が告示された。

画像1

 杉並区長選挙には、現職の田中良区長が3選出馬している。6月に行われたお隣の中野区の区長選挙では現職の田中大輔区長が落選した。現職の区長が落選するというのは非常に珍しい事態である。区長公選制が復活した1975年以降では、1975年の世田谷区長選、1991年の新宿区長選、1999年の杉並区長選のみで、この中野区が4例目となる。
 このところ、杉並区の田中良区長の評判はすこぶる悪い。これならば野党勢力の戦い次第では現職落選もあり得るのではないか…。

◼️杉並区長選立候補者

 6月17日に告示され、候補者は次の通り。

南  俊輔 33 無所属・新
田中  良 57 無所属・現
三浦 佑哉 34 無所属・新(共産党、新社会党、緑の党推薦)
木梨 盛祥 68 無所属・新

 中野区と異なり杉並区では野党共闘が不調に終わってしまった。野党共闘の中心となるはずの立憲民主党は自主投票となり、議員たちの多くは自主的に田中良区長の支援に回っている。田中区長は自民党、公明党を始め社民党や生活者ネットワークなどの支持も受けており、実質的に与野党相乗りとなっている。
 一方の共産党は34歳の弁護士・三浦佑哉候補を推薦。新社会党、緑の党の推薦の他、立憲民主党の一部の議員や、自由党の山本太郎参院議員の支援も受けている。
 木梨盛祥区議は当選10回のベテラン区議。2014年、区議会で田中区長の政治資金パーティをめぐる問題を話題にした木梨区議が「腐りきった田中区長」と発言したところ、その発言の撤回・謝罪を求め「木梨もりよし議員の発言に対する警告決議案」が提出される事態となった。その因縁の対決が区長選で再発する。ちなみにタレント木梨憲武は従弟に当たるという。
 南俊輔候補は、過去に中野区議会議員選挙に立候補し惨敗したこともある。4候補中唯一杉並区在住ではなく、埼玉県飯能市に住んでいる。

◼️田中良区長経歴

 田中区長の経歴を紹介すると、テレビ局勤務を経て29歳の時に1990年総選挙に東京4区(渋谷、杉並、中野)から保守政党の進歩党公認で立候補。あの真理党の麻原彰晃尊師と同じ選挙区だ。候補者乱立もあり惨敗に終わる。
 しかし、翌1991年の杉並区議会議員選挙に進歩党から立候補してトップ当選。1993年に日本新党に移って都議選に立候補、新党ブームにも乗ってトップ当選を果たす。以降5期連続で都議に当選。その間に新進党、刷新クラブを経て民主党に所属する。2009年には都議会議長にも就任している。2010年に山田宏・杉並区長が日本創新党を結成し参院選出馬のために区長を辞任すると、民主党、社民党、生活者ネットワークの推薦で杉並区長選に立候補した。自民党と山田前区長は千葉奈緒子・杉並区議を擁立したが、千葉候補が田中候補の元妻だったことから、元夫婦対決として話題となった。

 投票結果は、

当102,990(44.10%)田中  良 無所属・新(民主党、社民党推薦)
   84,498(36.18%)千葉奈緒子 無所属・新(自民党推薦)
   22,289(  9.54%)沢田 俊史 共産党・新
   19,306(  8.26%)藤岡 隆雄 無所属・新(みんなの党推薦)
  4,450(  1.90%)土田 三盛 無所属・新

 田中候補が当選し、杉並区長に就任した。

 2014年の区長選では田中区長は自民党の支援も受けた。革新系の首長が当選後政権与党に接近するということはよくあるが、田中区長も例外でない。

当56,342(45.0%)田中  良 無所属・現
 33,064(26.4%)佐々木 浩 無所属・新
 19,775(15.8%)堀部  康 無所属・新
    14,961(12.0%)山崎 一彦 無所属・新(共産党推薦)
         989(  0.8%)根上  隆 無所属・新

 結果、低投票率となったが、田中区長が大差で再選であった。
 このところ田中良区長には、あまりよろしくない噂がいろいろあるようだ。例えば、田中区長の政治資金パーティーの件。民主党都議時代、田中区長は石原慎太郎都知事の政治資金パーティーを疑問視する質問を行っているという。それが、自身が区長に就任すると、自ら政治資金パーティーを開催し続けているというのだ。しかもパーティの発起人となっているのが、区から補助金を受ける団体の責任者であったという。
 また、田中区長には公用車の不正使用疑惑もある。公用車を使って深夜に新宿まで行っていたという。さらに2016年には目黒区長選の候補者の応援に使用したという。
 さらにパワハラ・セクハラ問題もある。議会の場で自民党吉田あい区議の質問に対して、激しく机を叩いて恫喝。さらに、その女性議員のことを「大変好意を持っておりますので」と発言したというのだ。
 こうした疑惑が本当ならば、田中区長の資質には大いに疑問符がつくことになる。有権者にはまずは人物本意で候補者を選んでもらいたいと思うのだが、今回の区長選挙においても田中区長は与野党相乗りのオール与党での支援体制で、圧倒的優に立っている。
 そんなわけで杉並区長は選挙ウォッチャー的にはさほど盛り上がらないのだが、同時に告示された定数2の杉並区議会議員補欠選挙のほうはかなり面白そうである。

◼️杉並区議補選立候補者

 2017年3月に共産党の原田暁区議が都議選立候補のため辞職(その後、当選)、6月に小泉靖男区議が亡くなったことから生じた欠員を補充する。なお、区長選に立候補した木梨区議の場合は、区長選立候補による自動失職のため今回は補選の対象とならない
 6人の候補者が立候補した…

野垣 暁子 37 共産党・新
生田 尚史 48 無所属・新
関口健太郎 26 立憲民主党・新
小川宗次郎 52 自民党・元
奥山 妙子 61 無所属・元
佐々木千夏 45 NHKから国民を守る党・新

画像2

 自民党は小川宗次郎元区議を公認した。杉並区は自民党の石原伸晃代議士の地元でもあり、自民党の牙城とも言えるのだが、この小川元区議はもともとは民主党区議。それも区の幹事長を務めたほどの大物である。それが、かつてのライバルである自民党から立候補するというのは、有権者としてもなかなか理解しにくいのではないだろうか。
 小川元区議は田中区長の側近であったから、自民党に接近している田中区長の口利きで自民党入りが実現したのだろう。
 共産党は37歳の野垣暁子候補を擁立。今回の欠員にうちの1つは共産党のものなので、ここは何とかして議席を維持したいところ。
 また、立憲民主党も関口健太郎候補を擁立している。長妻昭・元厚労相の秘書で、まだ26歳である。
 また、奥山妙子元都議は、もともとは緑の党の所属。2015年の区議選で落選しており今回に再起を期している。山本太郎参院議員が支援する。
 さらに生田尚史候補は、地域政党「自由を守る会」の推薦。自由を守る会は、都民ファーストの会を離党した上田令子都議が率いている。自由を守る会は、都民ファーストの会の凋落を他所に、葛飾区議選、町田市議選で支援した候補をそれぞれ2人ずつ当選させるなど、なかなかの選挙巧者。今回も台風の目になりそうだ。
 そして、やはり不気味な存在がNHKから国民を守る党の佐々木千夏候補。さすがに当選は厳しいだろうが、どれだけの票を集めるかが注目される。佐々木候補の肩書きはディプロマミルで有名なイオンド大の催眠学部教授で、新宗教の日本平和神軍の総統第二秘書で中佐だという。経歴だけ見るとなんとも胡散臭い。とはいえ、N党は先日の立川市議選でも当選者を出し、勢いに乗っているだけに油断ならない。

◼️杉並区長選・区議補選ウォッチ

 そんな杉並区長選、区議補選の様子をウォッチしてきた。

画像3

 荻窪駅で下車して北口へ向かうと、自民党の小川宗次郎候補が駅前で挨拶をしていた。すぐ近くでは自民党区議団が街宣を行っているのだが、小川候補はそこには加わらずひたすら挨拶に徹している。しばらく見ていたが、一向に演説を始めなかったので、次の場所へ移動した。

画像4

 阿佐ヶ谷駅では、改札を出ると北と南から声が聞こえてくる。どうやら2つの陣営が同時に街宣中のようだ。
 南口には田中良区長がいた。結柴誠一区議が司会を務め、次々と区議会各派の議員がマイクを握る。
 結柴区議は中核派出身で、かつては「都政を革新する会」に所属していたこともあるガチガチの左派議員。それが、自民党と共闘しているのだから、田中区長のオール与党体制ぶりが際立つ。

画像5

 公明党、立憲民主党、生活者ネットワークと、共産党を除くほぼすべての会派の区議が応援演説に立った。

画像6 

 ただ田中区長自身は、この後個人演説会があるからとかで、待機児童の問題について1点だけ話すのみであった。

画像7


 田中区長の後ろを三浦佑哉候補の選挙カーが通り過ぎる。まさにニアミス。

画像8


 北口には立憲民主党の区議候補・関口健太郎候補がいた。

画像9

 もともと関口候補は“ミスター年金”長妻昭元厚労相の秘書であったそうで、その長妻代議士も応援演説に立っていた。

画像10

 また、手塚仁雄代議士。

画像11

 立憲民主党は、田中良区長の応援に立つ区議がいる一方、こちらの関口候補は対立候補の三浦候補を応援しているそうである。あまりに若いだけに心配な部分もあるが、フレッシュさに期待しよう。

 南口に戻ると、すでに三浦佑哉候補の街宣が始まっていた。

画像12

 共産党の吉良よし子参院議員。国政に絡めてのスピーチというのが、共産党らしい。

画像13

 自由党の山本太郎参院議員。相変わらず口当たりの良いスピーチが心地よいが、「杉並区の家賃を下げる」「健康保険料を下げる」とか、本当に出来るのだろうか

画像14

 最後に三浦候補自身がスピーチした。34歳というのは、当選すれば都内最年少の区長だそうだ。

画像15

◼️果たして当選は?

 かくして1週間の選挙戦を終え、投票日の7月17日を迎えた。どのような審判が下されるであろうか。

 区長選はやはり田中区長が圧倒的に有利。なので区議補選の結果に注目したい。
 参考までに、昨年の総選挙比例区東京ブロックの杉並区の票を見てみよう。

自民党   76,826
立憲民主党 73,471
希望の党  41,014
共産党   28,076
公明党   18,297
維新の会    8,252
支持政党なし  6,186
社民党        2,631
日本のこころ  1,896
幸福実現党   629

 この結果から見ると、自民党の小川候補と立憲民主党の関口候補が有利。小川候補が民主党出身だけにどこまで票を落とすかで、首位がどちらになるか。共産党の野垣候補は不利だが、投票率が下がれば、食い込んでくる可能性はある。問題は希望の党票であるが、一部は政策的に重なる生田候補に流れるであろう。奥山候補は、前回区議選では1,784票で落選。緑の党からは当選した川野孝章区議も立候補している(2,231票で当選)が、川野区議は立憲民主党に移籍し今回は関口候補を応援している。独自の戦いのN党・佐々木候補はどれだけの票を取れるだろうか。

◼️開票結果

 投票率は、 区長選、区議補選共に32.31%だった。前回の区長選の28.79%は超えているのだが、相変わらず低い。開票は翌日になるが、出口調査によると、区長選は田中区長、区議補選は自民党の小川候補と立憲民主党の関口候補が有力ということであった。
 
 翌18日の開票結果。
 区長選。

当73,233(50.30%)田中  良
 37,067(25.46%)三浦 佑哉
 29,806(20.47%)木梨 盛祥
   5,467( 3.75%)南  俊輔

 予想通り田中良区長の圧勝に終わった。三浦候補は田中区長の半分程度の得票で、やはり共産党単独では勝負にならない。しかも区議補選における共産党候補と三浦候補を支援した奥山候補の得票を足すと三浦候補の票を上回るため、組織票をまとめきれていなかったようにも思える。
 それよりも、木梨候補が想像以上の健闘を見せたことが痛かった。田中区長への批判票が分裂してしまった。

 区議補選。

当43,239(29.99%)小川宗次郎 自民・元
当41,748(28.95%)関口健太郎 立民・新
 26,691(18.51%)野垣 暁子 共産・新
 16,977(11.77%)奥山 妙子 無所属・元
    9,445( 6.55%)佐々木千夏 NHKから国民を守る党・新
    6,073( 4.21%)生田 尚史 無所属・新

 一方の区議補選。自民党と立憲民主党の候補者がそれぞれ当選。個人的には、民主党から自民党に移籍した小川宗次郎候補は案外苦戦するのではないかと予想していたのだが、見事トップ当選を果たした。昨年の総選挙での自民党の得票が29.86%だったことを考えると、ほとんど支持を減らしていない。
 立憲民主党は27歳の関口健太郎候補が初当選。今回、区長選では関口候補は三浦候補を応援。立憲民主党には田中区長を支援した区議もいるため、立憲民主党が分裂してしまっている。今後の議会において何らかの影響がありはしないだろうか。
 共産党の野垣暁子候補は意外と票が伸びなかった。しかし、去年の衆院選で共産党が獲得した28,076票とほぼ同じだけの得票である。総選挙の投票率が55.42%と今回の区議補選と相当高かったことを考えると、共産党の底知れぬ力を感じる。
 意外だったのが、自由を守る会の支援を受けた生田尚史候補が全く振るわず、NHKから国民を守る党の佐々木千夏候補すら下回ったことだろうか。自由を守る会はこれまで堅実な選挙戦を展開してきただけに、今回はかなり失速した印象を受ける。もともと代表の上田令子都議は都民ファーストの会の発足メンバーであるのだが、本家都民ファーストの会もこのところかなり凋落が著しい。いわゆる「改革保守」勢力が力を失ってきてきることなのだろうか。
 逆にNHKから国民を守る党の佐々木千夏候補は大健闘。来年の統一地方選での議席獲得に弾みをつけた。これでは、立花孝志代表が目論む参院選進出も現実味を帯びそうだ。
 それにしても、今回の投票率は区長選、区議補選共に32.31%。実に有権者の2/3が投票しないという事態である。これでは組織力に勝る候補者があっさりと当選してしまい、波乱が無かったのは仕方がないこと。民主主義が根本から揺らいでしまいかねない。
 杉並区では来年の統一地方選の際に改めて区議会議員選挙が行われる。今回当選した議員も10ヶ月で再び信任を受ける。その時にはもっと多くの人が投票に行くようになって欲しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?