見出し画像

2018年狛江市長選挙レポート

 東京都狛江市の高橋都彦市長が、市の女性職員に対するセクハラが問題となって辞任した。当初はセクハラを否認していた高橋市長だったが、4名の女性職員が実名で訴え出ると、ついに辞意を表明した。その高橋前市長の後任を決める市長選挙が、7月15日告示された。

◼️狛江市長選立候補者

画像1


 立候補したのは以下の通り。

松原 俊雄 66 無所属・新(自民党、公明党推薦)
田中 智子 60 無所属・新(共産党、自由党、社民党、狛江・生活者ネットワーク、新社会党、緑の党推薦)

 与党の松原前副市長と、野党の田中前市議の新人候補による一騎討ちとなった。前市長がセクハラによる前代未聞の事態となったことも問題だが、もう1つの点で私はこの選挙に注目していた。それは、6年ぶりに共産党市政が誕生するかどうかであった。
 狛江市というと、共産党籍のある矢野裕市長が1996年から2012年まで4期16年に渡って市政を担ってきた。かつて1990年代後半、全国的な共産党ブームがあった。初めて小選挙区比例代表並立制で実施された1996年7月の総選挙。共産党は小選挙区2議席を含む26議席を獲得し、15議席から大きく議席を増やす。翌97年の都議会議員選挙でも26議席獲得と、13議席から倍増し、第2党に躍進したのである。そんな最中、東京でも1996年に相次いで共産党員の首長が誕生した。7月に狛江市で矢野裕市長、9月には足立区で吉田万三区長が当選した。共に保守系候補の分裂選挙という要因があり、その隙を突いての共産党の首長の誕生であった。
 とりわけ狛江市では、石井三雄市長が韓国でのバカラ賭博による負債が原因で辞職・失踪するという大きなスキャンダルとなっていた。選挙の結果、市議を辞職して立候補した矢野裕候補が当選した。

当10,238 矢野  裕 無所属・新(共産党、新社会党推薦)
  8,881 白井  明 無所属・新(自民党、公明党推薦)
  7,244 飯田 伸太 無所属・新(社民党推薦)
  2,066 小林 幸子 無所属・新

 野党が多数占める議会の中、革新首長は市政運営に苦労した。足立区の吉田区長は1999年に自民党、公明党、民主党によって不信任案を可決されてしまう。議会を解散し区議選となるも、少数野党という状況は変えられず、再び不信任案が可決。出直し選挙にも敗れ失職に追い込まれた。一方の矢野市長も何度も問責決議を可決されたり、10年に渡って助役(副区長)選任決議を否決されたりしたが、その後も再選を重ねていく。
 2004年の市長選挙では自民党、公明党、民主党、生活者ネットワーク推薦の候補をわずか136票差で下し3選を果たした。

当15,940 矢野  裕 無所属・現(共産党推薦)
 15,804 河西 信美 無所属・新(自民党、民主党、公明党、生活者ネット推薦)

 矢野元市長退任後の2012年市長選では、後継の田辺良彦候補が高橋都彦候補に破れ共産市政は終わりを告げた。

当16,377 高橋 都彦 無所属・新(民主、自民、公明、生活者ネット推薦)
 13,555 田辺 良彦 無所属・新(共産党推薦)

 2016年市長選でも、共産党、社民党、新社会党、緑の党推薦の平井里美候補が高橋市長に破れている。

当17,433 高橋 都彦 無所属・現(自民党、民進党、公明党、生活者ネット推薦)
 12,856 平井 里美 無所属・新(共産党、社民党、新社会党、緑の党推薦)

 しかしながら、2012年も16年も5千票差以内の接戦であった。2012年は当時政権与党だった民主党は高橋前市長を推薦。16年は自主投票としている。今回も野党第1党の立憲民主党は自主投票のようだが、果たしてその辺りはどう影響するだろうか。

 田中智子候補は共産党所属の市議。社民党や生活者ネット、民進党の女性市議6名による「女性議員有志」として高橋市長のセクハラ疑惑を追及してきた。
 一方の松原俊雄候補は、矢野市長時代の2008年から12年にかけて副市長を務めている。自民党としては市民の支持の高かった矢野市長を支えた副知事を擁立することで、矢野市長支持者の票も得ようという狙いだろうか。
 もっとも当の矢野元市長は、田中候補を支援しているのだが、今回の狛江市長選挙は矢野市政の評価をめぐる争いでもある。

◼️狛江市長選ウォッチ

 その狛江市長選挙をウォッチングしてきた。
 狛江市は日本国内では埼玉県蕨市に次いで小さい市である。東京都ではもちろん最小の市。区町村を加えても利島村、青ヶ島村に次いで3番目に小さい自治体となる。有権者数は69,500人。そんな小さい市であるから駅というのも市内には狛江駅と和泉多摩川駅の2つしかない。他に、世田谷区との市境に喜多見駅があるだけ。なので、狛江駅で待っていればきっと候補者に会うことができるはずだ。
 

画像2


 狛江駅で下車。まずは狛江市役所に向かった。

画像3


 市役所の向かいに松原俊雄候補の事務所があった。
 

画像4


 さすが元副市長ともなれば立派な家…よく見ると標札が違う。あとで確認すると松原候補の住所は世田谷区桜丘なのだそうだ。

◼️松原俊雄候補

 狛江駅前に戻ると、北口では松原俊雄・元副市長の街宣中。

画像5

 自民党都連幹事長の高島直樹都議が応援演説に立っている。
 続いて、松原候補。

画像6


 防災対策にはトップリーダーが必要だとして、自身の行政経験をアピールしていた。また、政策の素早い実行には保守系の市長が必要なのだという。ただ、肝心の前市長のセクハラ疑惑については何も語っていなかった。

◼️田中智子候補

 しばらくして、今度は田中智子候補の街頭演説が始まった。
 

画像7


 田中候補は連日街頭演説会を行っているが、この日も共産党や生活者ネットワーク所属の「女性市議有志の会」の議員が応援演説に立っていた。

画像8


 狛江市政初の「女性市長」であることをアピール。もちろん前市長のセクハラ問題にも厳しい。女性ならではの視点で語っていた。

 激戦ということで、各候補とも国会議員らが応援に駆け付けていたようである。例えば、松原候補の応援には、自民党の石破茂・元幹事長や朝日健太郎・参院議員。田中候補の応援には推薦する共産党の笠井亮代議士や、社民党の福島瑞穂副党首の他に、立憲民主党の大河原雅子代議士も駆け付けていた。さらに、元公明党副代表の二見伸明元代議士も。二見元代議士は新進党解散後は自由党に参加し、そのまま民主党に移籍しているのだが、敢えて「元公明党」を強調することで、超党派での支援を印象づけているようだ。
 結局、両候補は接戦のまま22日の投票日を迎えた。

◼️開票結果

 最終的な投票率は45.31%だった。前回2016年の47.01%を若干だが下回っている。
 開票結果は次の通り。

当17,834 松原 俊雄 無所属・新(自民党、公明党推薦)
 12,763 田中 智子 無所属・新(共産党、自由党、社民党、生活者ネット、新社会党、緑の党推薦)

 自民党・公明党推薦の松原俊雄候補が、共産党などの野党推薦の田中智子候補を抑えて初当選を決めた。かなりの接戦になるかと予想されていたのだが、思っていた以上の差がつく結果となった。
 しかも松原、田中両候補の得票は2年前の高橋都彦市長の得票(17,433票)と平井里美候補の得票(12,856票)とほぼ同じである。前回は民主党と生活者ネットワークが高橋前市長を支持してたのに対し、今回は立憲民主党が自主投票、生活者ネットは田中候補支持となっている。そうなると田中候補の票は前回より増えていてもおかしくないのだが、実際にはわずかであるが減っていた。
 逆に松原候補は新人であるにも関わらず、2年前の現職市長とほぼ同じだけの得票をあげているのだから、驚異的な強さを見せた。
 どうやら前市長のセクハラ疑惑の影響は、今回の選挙においてほとんど無かったようだ。田中候補はセクハラ根絶を訴えていたが、市役所内ならともかく、それを市内全体で実行するのは難しい。むしろ、松原候補のいう防災対策のほうが市民には実感を伴っていたのだろう。
 また、田中候補がセクハラ問題にこだわり過ぎたことに有権者が辟易していたとも考えられる。確かに、セクハラを行った高橋前市長を支援した自民党・公明党にも責任はあるのかもしれない。だが、この件に関しては実は共産党も似たり寄ったりである。昨年、長男の強制猥褻容疑で辞任した共産党の井樋匡利都議は、狛江市を含む都議会北多摩3区選出であった。自公を攻撃すればするほど、身内には甘いと思われてしまった可能性もある。

◼️狛江市長選総括

 今年行われた選挙を振り返ると、中野区では与党推薦の現職区長が野党推薦の新人候補に破れた。 その一方で、杉並区長選挙では与党系の現職区長が共産党推薦候補の新人候補に大差で勝っている。2つの区を見比べると、中野区では立憲民主党が中心となって新人候補を支援したのに対し、杉並区では立憲民主党が自主投票となり、野党は共産党を中心として候補を立てていた。狛江市は杉並区と同様、立憲民主党は自主投票で、新人候補を共産党が推している。どうやら野党共闘は、立憲民主党が表に出ないと勝つのは難しいようである。
 今回の狛江市長選挙でも立憲民主党が田中候補についていれば、あるいは逆転していたのかもしれない。もっとも狛江市議会には立憲民主党の市議がいないため、立憲民主党が中心となるのは難しかっただろう。それならばせめて野党は共産党出身でない候補を立てるなどしてもっと無党派層を取り入れられる戦いかたをするべきではなかったろうか。
 今後の首長選挙や近いうちにと予想されている衆議院小選挙区において野党が勝つためには、狛江市長選挙の戦いを十分に反省していく必要があるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?