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NHKから国民を守る党をぶっ壊す!(前編)

  まずお断りしておきたいことは、タイトルに「ぶっ壊す!」とあるが、私はNHKから国民を守る党(N国党)のアンチではない。かといってもちろんN国党のすべてに賛成というわけでもない。ネット等でN国党に関するやり取りを見ていると、どうも徹底的にN国党をディスるか、完全なN国党マンセーという人ばかりが目立つ。私はそのどちらにも与することなく、出来るだけ中立な視点でN国党をウォッチしていきたいと考えている。

 NHKから国民を守る党は、2019年8月現在、一番勢いのある政党かもしれない。全国各地の自治体の議会に議員を送り込み、その数は実に28人。7月の参議院議員選挙では、比例代表区にて1議席を獲得し立花孝志代表が当選したばかりか、選挙区での得票の合計は全国で得票率2%となり政党要件までも獲得。新たにN国党に加わった現職代議士もいるため、国会内に2議席を保持するまでに成長している。来る衆議院議員選挙にも候補者を擁立する考えだ。

 N国党のここまでの歩みを振り返り、その躍進の要因はなんであったのかを探っていきたいと思う。

■N国党・立花孝志との出会い

 私がN国党と立花孝志代表のことを認識したのは、2016年7月の東京都知事選挙の時だった。選挙ウォッチャーを自認している割には、あまりに遅まきだったということを認めなくてはなるまい。立候補者一覧を眺めていた時に「NHKから国民を守る党」という名称に気がついた。てっきり、今回の都知事選に合わせて結成された一回切りの政治団体なのかと思いきや、調べてみると候補者でもある立花孝志代表は前千葉県船橋市議。さらには現職で埼玉県朝霞市議、志木市議を抱えているという事実に驚かされた。

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 また、NHKで放送された政見放送を見てこれまたびっくり。テレビ画面に向かってにっこりと微笑んで、「NHKをぶっ壊す!」。これを9回繰り返し、政見放送の最後を「さて問題です。私は何回『NHKをぶっ壊す!』と言ったでしょう。答えはwebで。」と締めくくった。
 


 これは一度会ってみなければならないと思い、池袋で行なわれた街宣に足を運んだ。

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 多数の運動員がビラを配っており、想像以上にしっかりとした選挙運動を行っていることがわかった。驚いたのは掲示板に貼られたポスター。これほどまでに小さい選挙ポスターを見たことはなかった。政見放送で立花代表が言っていた「NHK集金人が来なくなるシール」のようだ。

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 運動員にお願いしたところシールを頂くことが出来た。もっとも、私自身は大河ドラマなどのNHKの番組が大好きだし、そもそも受信料もきちんと払っているので必要は無かったのであるが…。

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 この選挙で立花孝志代表は27,241を獲得。もちろん落選ではあったが、元労働大臣の山口敏夫候補や、元兵庫県加西市長の中川暢三 候補といった“有力候補”の一角に数えられた候補者より得票で上回っていた。

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■N国党の結成と最初の選挙

 NHKから国民を守る党が誕生したのは2013年6月17日とのことである。立花孝志代表によって「NHK受信料不払いの党」として設立された。7月23日に現在の「NHKから国民を守る党」と改称。9月の大阪府摂津市議会議員選挙に立花孝志代表が立候補したのが最初の選挙であった。この時の選挙にはN国党からは25歳の女性・阪本好美候補も立候補していた。開票の結果、定数21の中、立花代表は317票で25位、坂本候補は199票で29位(最下位)に終わった。初の選挙にも関わらず候補者2名を立て、結果的に共倒れに終わっている。なんとも不可解な選挙戦術のように感じるが、まだ当時は政党としてのノウハウを持ち合わせていなかったようだ。もっとも候補者2人の票を足しても516票にしかならず、最下位当選の候補者の818票には遠く及ばなかったのではあるが…。

 続いて2014年2月、立花代表は東京都町田市議会議員選挙に立候補する。1,589票を獲得して定数36の中、38位という順位につける。しかし最下位当選が2,227票であったため、当選に600票以上も足りない惨敗であった。

 さらに2014年11月の千葉県松戸市議会議員選挙に、N国党は関裕一候補を擁立。定数44の中、1,277票で48位。最下位当選の1,792票とは515票差。

 2015年4月の千葉県船橋市議会議員選挙に立花代表が立候補。2,622票を獲得し、定数50で35位となり念願の初当選を果たした。

 地方議員となるためには当該地域に3ヶ月間引き続いて居住していなくてはならない。立花代表は摂津市、町田市、船橋市と目まぐるしく居住地を変えての立候補であった。いろいろと試行錯誤もあったのだろうが、この間に立花代表とN国党は当選に必要なノウハウを学んでいったと思われる。

 当選者はその後も続き、2015年12月には埼玉県朝霞市議会議員選挙で、大橋昌信候補が当選。2016年4月には埼玉県志木市議会議員選挙で多田光宏が当選した。多田候補はネット上で「平成の龍馬」を名乗り、有料放送を無料で見られるように不正な「B-CASカード」を作成し使用したとして2013年12月懲役1年6月、執行猶予3年の実刑判決を受けていた人物。執行猶予中での当選であった。

 もともと大橋議員は船橋市、多田議員は兵庫県西宮市に在住で、共に落下傘として当該選挙区に立候補し当選したのである。共に党副代表として立花代表を支えていくこととなる。

■立花孝志代表経歴

 ここで立花孝志代表の経歴について簡単に見てみたい。 立花代表は1967年8月15日大阪府泉大津市に生まれている。 
 大阪府立信太高等学校卒業後の1986年4月、日本放送協会(NHK)に入局し、和歌山放送局庶務部に配属される。1991年7月、NHK大阪放送局経理部に異動。
 2005年4月、立花代表は「週刊文春」でNHKの不正経理を実名で内部告発。さらに、7月にはソルトレイクシティオリンピック取材で裏金作りに関わったとして懲戒処分を受けNHKを依願退職。以後はフリージャーナリストとして活動した。
 2011年11月にはインターネットテレビ「立花孝志ひとり放送局」の放送を開始。翌2012年9月に「立花孝志ひとり放送株式会社」を設立し、初代代表取締役に就任。そして2013年6月に政治団体「NHKから国民を守る党」を設立し初代代表に就任し、活動を開始している。

■都知事選後

 2016年の東京都知事選で手ごたえを感じたのか、N国党は各地の地方議会選挙に積極的に候補者を擁立するようになった。2017年1月の大阪府茨木市議会議員選挙に立花孝志代表が出馬して落選したが、6月の兵庫県尼崎市議会議員選挙では武原正二候補が当選。さらに立花孝志代表は7月の東京都議会議員に葛飾区選挙区から立候補して落選したものの、11月の葛飾区議会議員選挙では見事当選し、政界への返り咲きを決めた。
 さらに2018年2月の東京都町田市議会議員選挙で深沢宏文候補が2,653票で32位で当選したのである。最下位当選は2,475票だったから、それを200票上回る大健闘であり、これで地方議員は5人となった。
 N国党はこの辺りでいくつかの有効な戦略に気づいたのではないだろうか。1つは、候補者を定数の多い都市部の自治体の議員選挙に擁立することである。例えば2018年2月には東京都日野市議会議員選挙(定数24)が行われているが候補者を立てていない。その一方で定数の多い同月の町田市議会議員選挙(定数36)には候補者を立てて当選させている。
 また、同じ自治体で2つの選挙が続く場合、先に行なわれる選挙には敢えて勝ち目のない候補者を立てて知名度向上を目指す。そして後に行なわれる選挙に同じ候補者を立候補させ、確実な当選を狙うのである。立花代表が定数4の都議選葛飾選挙区で落選した後、定数40の葛飾区議選で当選したのがその好例である。他にも2018年6月の千葉県松戸市長選挙に立候補して落選した中村典子候補が、11月の松戸市議会議員選挙で当選している。
2018年4月の練馬区区議会議員補欠選挙(定数5)で落選した松田亘候補、同じく兵庫県西宮市議会議員補欠選挙(定数2)で落選した河本圭司候補、6月の東京都杉並区議会議員補欠選挙(定数2)で落選した佐々木千夏候補、7月の北海道苫小牧市議会議員補欠選挙(定数2)で落選した浮田欣治候補は、いずれも2019年4月の統一地方選挙でそれぞれの議会議員選挙に再出馬し当選している。

 2018年に入るとN国党はより一層、候補者の擁立をかなり推し進めていく。結党から2017年までの5年で18回(当選5回)の候補者擁立だったのが、2018年だけで16回も候補者を擁立し7名の議員を輩出。所属議員も11名を数えるまでとなった。

■久保田学・立川市議

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 私が本格的に選挙ウォッチを始めたのは2018年6月の東京都立川市議会議員選挙であったのだが、この立川市議選にN国党が擁立した久保田学候補は、様々な議論を巻き起こした。久保田候補はプロレスラーの覆面を被り、「横山緑」の名前で覆面姿のニコ生主として活動していたが、選挙管理委員会は横山緑名義での出馬を拒否したという。不破哲三・元共産党議長(本名・上田建二郎)、玉城デニー・沖縄県知事(本名・玉城康裕)、森田健作・千葉県知事(本名・鈴木栄治)等、本名でない名前(通名)で活動している政治家は多い。本名以上に社会的に知られているということが、通名使用の条件であると思われるが、過去には「三井理峯」(本名・成沢芳子)、「姫路けんじ」(本名・関口安弘)のように立候補時点ではほぼ無名だった通名での立候補も認められている。もっとも三井氏も姫路氏も自費出版ではあるが著書があるため、通名の使用が実績として認められたのではないだろうか。その一方でネット上の名前が認められないのは、書物のように現物が存在しないためか、あるいは新規のメディアがまだ認められていないことが理由になるのだろう。N国党はその後も、NER(本名・國場雄大)、えびぴらふ(本名・佐藤恵理子)、さゆふらっとまうんど(本名・平塚正幸)といったネット配信者を擁立しているが、いずれも通名の使用は認められていない。また、覆面姿での立候補も、覆面が市販のものであり簡単に成り済ましができることから認められなかったが、実際には覆面を被っての街宣という場面もしばしば見られたようだ。

 この久保田候補。元AV男優であり、某美顔器ローラーに「陰毛が入っている」と虚言を繰り返しため名誉棄損で罰金20万円の判決を受けているという。選挙期間中にも「水質調査」と称して多摩川で泳ぐなどの奇行を繰り広げた。
 N国党はこの立川市議選に力を注いでいたようで、選挙期間の前から、同党の活動員が立川駅前でビラを配る様子が見られた。

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 また、「NHK撃退シール」の配布も行なっていたが、実際の効果のほどはともかくとして、これは「利益供与」になりはしないのだろうか? 支援者に団扇を配って法相を辞任した松島みどり代議士の例もある。

 選挙期間中の夕方、立川駅南口を歩いていたところ久保田候補の街宣車が止まっていたのを見つけた。

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 そして街宣車のすぐそばに久保田候補自身が立っているではないか。
写真をお願いしたところ、すぐにマスクを被って応じてくれた。

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 6月17日の投開票の結果、久保田候補は1,231票を獲得。定数28の中26位での当選を決めた。
 しかし、この久保田市議に立川市内への居住実態がないのではないかという疑惑が生じたのである。久保田市議の住民票は立川市にあるものの、江戸川区平井にも住居があり、そこからニコ生の放送も行なっていたことから、居住実績を疑われるようになった。そのこともあって、久保田市議の当選に対する異議申し立てがなされた。おそらくは市議選で公認の松本章寛候補が次点に終わった自民党会派からの申し立てであったと思われる。ところが選挙から1ヶ月経たない7月7日、古谷直彦・市議会副議長(自民党)が急死。松本候補の繰り上げ当選が決まったために、申し立ては取り下げられてしまった。
 こうした疑惑に関連してだろうか、7月20日には久保田学市議のニコ生の掲示板に、久保田市議を市役所ごと爆破するとの殺人予告が書き込まれた。それを受けて、21日と22日には市役所本庁舎への立ち入りが禁止される事態となったのである。
 多田光宏・志木市義もそうだが、N国党は前科や問題のある人物であっても積極的に選挙に擁立し、立花代表も「悪名は無名に勝る」と語っている。この後も少なからぬ問題のある候補者を立てていくことになる。

■他党からの移籍

 N国党が勢いを増してくると、他の政党からも無視できない存在となってくる。N国党所属の地方議員は、議会では一人会派「NHKから国民を守る党」として活動する場合が多いが、その一方で、保守系会派に加わるような場合も多く見られた。船橋市義時代の立花代表は自民党や民主党出身の無所属議員2名と会派「研政会」を結成していた。大橋昌信・朝霞市議も自民党系議員と共に「輝政会」所属といった具合。
 また、他党の所属議員や無所属議員がN国党への合流するということも見られるようになった。2018年11月、無所属の大桃聡・新潟県魚沼市議と、日本維新の会所属の塩田和久・埼玉県新座市議(現・埼玉県川口市議)がN国党に合流した。また、栗原康之・元埼玉県坂戸市議(現・東京都世田谷区議)や二瓶文隆・元東京都中央区議(現・東京都江東区議、離党)、金子快之・元北海道札幌市議(現・東京都渋谷区議、離党)らの元地方議員も合流している。
 N国党はNHK問題さえ一致していれば、他の政治信条・政策は問わないため、右も左も関係なく合流しやすい政党である。もっとも「しきしま会」代表で、極右の日本第一党とも連携していたことのある沓澤亮治氏(現・東京都豊島区議、除名)など、右寄りの人物が多いという印象である。ただ、統一地方選の大阪府高槻市議選に出馬して落選した高谷仁候補のような左寄りの人物もいるようである。

■N国党・参院選進出

 私がN国党が2019年7月の参議院議員選挙に進出するということを知ったのは、2018年4月頃だった。「NHKをぶっ壊す!」という公約の実現のためには地方議会だけでは限界がある。遅かれ早かれ国政に進出しなければなるまい。ただ、政党要件のない政治団体が国政選挙で議席を獲得するのは簡単ではない。宗教団体・幸福の科学をバックに持つ幸福実現党でさえ、結党から10年経って未だに国政で議席を得ることが出来ていない。立花代表は、N国党が参院選に進出する条件を、2019年春の統一地方選までに30名の地方議員の獲得としていた。そして参院選に必要な選挙費用を、地方議員一人当たりから100万円ずつ借用することで賄うとの方針を立てていた。このことが後に大きな混乱の種となる。
 また、当初は立花代表自身は参院選には立候補せず、葛飾区議としての職務を全うし、参院選で政党要件を獲得した上で、次の総選挙に立候補するという展望を持っていた。

 参院選出馬を意識してか、この頃からN国党の戦略には変化が現れている。これまでは候補を立てるのは当選の確率の高い都市部の市区議会議員選挙に限られていたのだが、この頃から当選の見込みの低い選挙への候補者擁立がしばしば見られるようになる。2018年6月に千葉県松戸市長選挙に、当時の立花代表の交際相手である中村典子候補を擁立した。N国党が首長選挙に候補者を立てるのは、都知事選以来であるが、これは11月の市議選に向けての知名度向上を狙ってのことであった。続いて7月の北海道苫小牧市議会議員補欠選挙(定数2)、11月の神奈川県二宮町議会議員選挙(定数14)、2019年1月の福岡県福津市議会議員選挙(定数18)にも候補者を立てている。結果はいずれも落選であったが、そこには統一地方選・参院選を見据えて、都市部以外でどれだけの支持を集めることが出来るかを見極めようとの意図があったに違いない。10.59%の得票率をあげた苫小牧市議補選を別として、これらの選挙でN国党は1.03~1.45%の支持を集めている。都市部では2%を超える得票をあげていることから、平均すれば参院選比例区での議席獲得に必要な得票率2%の獲得も不可能ではないと立花代表は判断したのだろう。

■台東区議選

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 統一地方選でのN国党の情勢を占うという意味でも私が重要だと考えていたのが、2019年3月に行なわれた東京都台東区議会議員選挙である。これは統一地方選前最後に行なわれた選挙でもある。
 この選挙にN国党は38歳の掛川暁生候補を立てていた。掛川候補は4年前の区議選にも無所属で出馬しているのだが、その際は得票が伸びず、わずか337票で最下位に沈んでいた。

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 その掛川候補も、N国党の公認を得て望んだ今回の区議選では1,656票(得票率2.49%)と得票を前回の5倍以上に伸ばし当選を決めたのである。しかも定数32の中18位と、上位での当選となった。これまでの選挙では当選しても下位ということが多かっただけに、N国党の勢いが増していることを示しているようにも思える。
 この結果は、統一地方選を前にN国党にとって大きな自信となったのではないだろうか。

 こうして迎えた2019年統一地方選挙。前半戦の道府県議選は、さすがに勝ち目が薄いこともあって候補者擁立はわずか3名に留めていたが、後半の市区町村議選には41名もの大量の候補を擁立。そして予想を遥かに上回る26名もの当選者を出し、所属議員は39名となり、目標である参院選の出馬へのはずみとなった。

■N国党はどこへ行く

 ここまでN国党の歩みを振り返ってきたが、あまりに長くなったので、いったんここで区切ろうかと思う。ここまで読んでもらえれば、N国党の躍進が単なる一過性のブームに乗ったものではなく、試行錯誤を繰り返した末に綿密に練り上げられたものであったことがはっきりと分かったのではないだろうか。
 後編では、N国党が統一地方選、参院選と結果を出していった過程を振り返り、そのブームを押し上げたものがなんであったのか、これから彼らはどこへ向かおうとしているのかを考えたいと思う。ぜひともお楽しみにしていて頂きたい。

(続く)

■参考資料

・立花孝志、大橋昌信「NHKをぶっ壊す!〔受信料不払い編〕―日本放送協会の放送受信料を合法的に支払わないための放送法対策マニュアル―」2017年5月 オクムラ書店
・選挙観察委員会「選挙ポスター通信3」2019年8月 選挙観察委員会(るかるる)

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