『ファウンデーション』アイザック・アシモフ◆SF100冊ノック#22◆
■1 あらすじ
一万二千年の栄華を誇った銀河帝国もついに衰退の兆しを見せていた。一人の青年が帝国の首都を訪れる。未来を予知する「心理歴史学」の権威、セルダンの元で研究を行うために。しかし、セルダンは驚くべき結論―「500年後に銀河帝国は崩壊する」ことを示し、帝国から睨まれる。「500年後の崩壊の後、宇宙は3万年もの暗黒時代を迎えるだろう。しかし、もし我々が準備をすれば―つまり、我々の文明を記した『宇宙百科事典』を作り上げれば、その3万年を1000年に縮めることが出来るだろう」
セルダンと研究者たちは、辺境の惑星を与えられ、そこで百科事典の編纂を開始する。また、銀河の真逆には、志を同じくするもう一つのファウンデーションも作られた。
本書は、ファウンデーションシリーズ四部作の第一巻であり、その最初期の5つのエピソードが語られる。おそらくは新たな帝国の誕生までの1000年を描く、壮大な物語になるのだろう。数百年の時代に、研究財団=ファウンデーションの市長、政治家、研究者、また「司教」や宇宙貿易商人たちの物語が語られていく。
■2 サーガ
こういうの、宇宙史ものって言うのかしら? 1000年間の宇宙帝国の滅亡と新帝国の復活を描く……っていう壮大な物語。とはいえ銀河英雄伝説的なドンパチは少なくて、研究者ばかりの小国家(でもオーバーテクノロジー持ち)が権謀術数でどうにか生き延びる、という、宇宙外交物語。七部作で、大体五巻くらいまでで大方は完結するらしい。けど今回は一巻だけしか読んでないので、まあこれから、という感じ。どうやら2-3巻はミステリ仕立ての様子。
まず驚きなのは、この本が1942年、戦中に書かれていること。そんなわけで、大戦期の感覚が色濃く出ているように思える。特に後半。とはいえ、全体としてはエンタメ的な読み物として面白い。『シンギュラリティ・スカイ』なんかに通じる何かも感じる。未来を予測する「心理歴史学」や、研究者だけの惑星都市国家ターミナス、というアイディアも面白いけど、宇宙を飛び回る知事やら商人やらが外交政策でファウンデーションを守っていくやり方。周囲の4つの王国に均等に技術を与えて抑止力にしていく、なんてのはその後の冷戦を暗示しているようでもある。
それにしても、小さな国家が生き延びるため、この登場人物たちはやり方がかなり汚いのも面白さのひとつ。手塚の『火の鳥』で、金儲けのために洗脳の薬を惑星にばらまく宇宙人が出てくるのだけど、似たような手口を使って、隣国の体制を骨抜きにしていく。割にブラックで驚きも。
■3 人類史の影法師
『無限のリヴァイアス』という非常に素晴らしいアニメーション作品があります。宇宙版『蠅の王』というか、200人くらいの研修生が突然オーバーテクノロジーな宇宙船で漂流して、なんか大人が襲ってくる……というひどいストーリーなのですが、注目なのはその200人がデフォルメされた人類史をたどっていくところ。最初は「委員会」による貴族政治。それから暴力による絶対王政、さらに共和制を経て、法治国家へ……みたいな流れが船の中で出来上がる。政治に対してアパシーを抱く誰かに対してポイント制やら法を執行したり、と社会科学を勉強してると一晩中語り明かせる作品。その中で主人公がずっとノンポリなのがまた良い。
脱線したけど、この『ファウンデーション』もどこかそうした「人類史」をたどりなおすような構図が見える。最初は科学者たち≒ギリシャ哲学的な民主政治。次に知事が君主制を取る。数十年経つと、ファウンデーションは科学を広めるための「宗教」によって周辺国家を操っていく。そして最後は「貿易」を使い、やはり惑星内部から変化させていく。共産主義を戦争で抑え込むよりも、旅行の自由とかマクドナルドとか大量消費的なものが結局内側からそれを崩してしまう……ずっと後のベルリンの壁の崩壊までつなげたらさすがに読み込みすぎだろうけど、そうした視点はこの1冊でも十分楽しめました。
#ファウンデーション #アシモフ サーガ 宇宙史
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