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ガチパラっ!(17)

アナに紹介された佐伯恭史郎についても語らせてください

佐伯恭史郎は、地質学者で、歳の頃は40代前半から中頃

九州大学で教鞭をとっていたり、大手ゼネコンで働いていたこともあったとか

いずれにしても、日本では主に九州をメインに活動していた

「阿蘇山と、桜島と、雲仙普賢岳が一斉に噴火したら、どこに逃げたらいいと思う?」

彼とは、結局、滞在中に何度も酒を酌み交わすことになり

酔ったときの彼の語りというか、口上というか、がひどく印象深かったので、僕なりにまとめてみました

そろそろ文章力も上がってきたのか否か、その成果は如何に

皆さんの脳裏にも、僕と同じような情景を浮かび上がらせることができたらいいんですけどね

ーーー

1997年4月14日、ギロチンのボタンを押した

モーゼの十戒

エジプト軍に追われる逃避行、たくさんの奴隷たち

もう目の前は海で、これ以上進むことができない

神の使いである預言者モーゼは、海を真っ二つに分け、道をつくりだした

モーゼと奴隷たちが道を渡りきったところで、海はまた元に戻り、エジプト軍を飲み込んでいく

聖書に記された奇跡のひとつ

それから3千年のちの現代
人はついに、神のチカラを借りなくとも、その奇跡を「人のまま」で成すに至った

長崎県の有明海にある諫早湾(いさはやわん)を、有明海から真っ二つに分ける、切り離す

巨大な壁のようなものが、轟音を響かせながら、海へと落下していく様は、きっと花火大会のごとくお茶の間を湧かせると思ったに違いない

たしかに、そのニュース映像は、日本中の目を奪った

だが、大半が己が目を疑ってしまう

あまりの大きさと異様さ、人が持つチカラの底知れぬ空恐ろしさにだ

それは原爆実験の映像を見たときに近かったかもしれない

そして誰ともなく、こう呼ぶようになった「ギロチン」と

中世ヨーロッパで生まれた、人間の頭と胴体を、首から見事に2つに分ける処刑道具のことで、断頭台とも呼ばれる

首切りは処刑方法として、日本でもヨーロッパでも古くからメジャーなものであった

が、いかんせん、頭と胴体を首から2つに切り離すには、かなりの技術を要する

処刑される側が動くことも想定され、うまく切れなかったときの、凄惨極まる大騒ぎたるや

息絶えるまで血を吹き出しながら踊り狂うこと自体が、戒めるための見世物「公開処刑」として、価値があったのかもしれないが

カラダを固定し、首を晒して、その首をめがけて真っ直ぐに重く巨大な薄い刃落ちていく仕組み

それにより、比較的キレイに処刑できるようになり

切られる側も苦しまずに済ん…でいるだろうし「戒めるための見世物」としても充分成り立つ

正式名称は「ボワ・ド・ジュスティス(Bois de Justice)」

フランス語で「正義の柱」という意味も持つ

だが、いつしか開発したフランス人の名前にちなんで「ギロチン」と呼ばれるようになった

諫早湾をアタマ、有明海をカラダとするのであれば、巨大な壁によって切り離す作業は、まさに「ギロチン」だったわけだ

諫早湾は、ただの湾ではなかった

頭ではなく、地元に人々、特に漁師たちには「子宮」と称されいた「有明海の子宮」と

諫早湾は、大量の土砂が遠くまで堆積している「遠浅」

浜辺からずっと遠くまで浅い海が続く

潮が引く、つまりは海の水が引いて無くなると、ずっと先まで海底が姿を表す

それが頻繁に繰り返され、独特の生態系をつくりだすのだ

こういった現象を起こす浜や湾を「干潟(ひがた)」という

太陽が当たり、光合成をして、たくさんの生命が育まれ、また海に沈む

たくさんの海藻類や、魚のエサとなるプランクトン、その卵が宿り育まれ、また有明海に放たれた

生命の源、まさに「子宮」だ…だった

過去形にしてしまった理由

巨大な壁をギロチンのごとく落として、切り分け、堤防を築き隔てた理由

有明海という母なる海から子宮を奪ってしまった理由

潮の満ち引き激しいということは、押し寄せる波も大きい

諫早の町はずっと水害に悩まされてきた

堤防を築くことで水害を減らせたら

山が多い長崎県は平地が少ない

農作物をつくる土地を増やせ

干潟を壁で隔てて、海水を抜き、埋め立てる

その歴史は古く長い

干潟を開拓することから「干拓(かんたく)」と名付けられ、室町や戦国時代には、すでに行われていたこと

元々が海だった塩だらけの土地でも作物が実ることは、戦国武将である加藤清正によってつくられた、熊本県の八代の干拓地ですでに証明されていた

長崎県から佐賀県への移動が楽になる、簡単になる

実際に2007年に、湾を塞いだ長い堤防の上が広い道路となり、長崎から佐賀まで、あっという間になった

その道を通り、佐賀空港まで向かう途中、その道すがら

堤防の上につくられた展望台から、分け隔てられた有明海と諫早湾だったものを交互に眺めていた

かつて多くの生命の源であった湾は、海水をすべて抜き切れておらず、中途半端に汚く濁りきったダム湖のようなものになっていた

循環できずに汚れ濁った水が、有明海側に向けて中途半端に垂れ流されているのが展望台からもみえる

2021年現在、いまだすべての工事は終わっていない

終わっていないどころか、いまさらになって工事自体が必要だったのかどうかの是非を問い始め、すべての工事が止まってしまっている

一日でも早く、
水を抜き、
干拓して、
平地にせねば

すべては
来たるべき日のために

我々は
ギロチンではない 
モーゼなのだ

ーーー

これはたぶん、雲仙普賢岳が本格的に噴火してしまったときの避難経路を確保したいって話なんだと思うのです

広いとは言っても一本道
あとは船で渡るしかない

それよりも陸になっていれば、陸路であれば、逃げられる人数も可能性も高まるというもの

佐賀空港は空への脱出経路ということになる

「火山が噴火したら、きっと火山灰もスゴいから、せっかくの佐賀空港も機能するかどうか、甚だ疑問だが」

地震だけなら使えるってことか…

「まぁ、佐賀空港に関していうならば、普段からあまり機能していないし、機能しないってこと自体はもう慣れっこだろう」

そういやもはや金持ちや有力者たちのプライベートジェットとかヘリの発着でしか機能してない空港も…

ん?もしかして、日本全国に点在する地方空港たちも…いざというときの脱出経路…?!

こんな風な講釈というか講義というか、時に謎カケを聴きながら、どういうことなんだろう?と僕なりに思いを巡らしたり、推理するのが滞在中の楽しみのひとつとなり

佐伯とは、ついつい酒を酌み交わしてしまうのでした

そうそう、ちなみに「阿蘇山と桜島と雲仙普賢岳が一斉に噴火してしまったら、どこに逃げる?」

の答えは「宮崎神宮」だそうです

(18)に続く☟


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