対義語は「こんにちは、彦星」

もうじき帰ってくるはず。

お仕事の関係上、世界各地を忙しく回る彼と最後に連絡を取ったのは、今年の1月。「あけましておめでとう」の年始めの挨拶と「今年の夏に一度帰るから」の一言だった。もちろん嬉しくてすぐに返事を出したけど、私のいる場所と彼のいる場所は理論的にも直線距離的にも体感的にも遠いようで返事はあれから来てない。それでも月に一度、律儀に各地のスポットが写ったポストカードを送ってきてくれることを考えるときっと彼も本当はもっと近くに感じたいんだろうなと思う。それも毎度絵柄を変えて送ってくれるところがA型だなって。今月はニューヨーク、マンハッタンのきれいな夜景が写ったポストカードに「いつか一緒に見ようね。」という一言も添えてあった。

彼からのメールを見て、早く夏になってと考えたのも今年のはじめの話。もう7月だ。

今年の夏はまたむんむんとした風が吹く夏になるのかと思っていたが、実際はずっと雨で、浮かれる気持ちを誤魔化したくて外に出たものの、結果的に家に帰ることもしばしば。外に出ても彼の欠けたコップを新調しようとか、そんなことばかり考えているのは自分でもわかってる。いつ帰ってきてもいいように部屋を綺麗に保っているのも分かってる。そんな私を気にくわないようで、洒涙雨の空が真上でじっと見ているようだった。


もう何回もプルルって音に反応したから、今度の音もまたメルマガだろうって気でいた。それでも送り先が違うことに気づいて急いで開封する。

「明日の午後3時に日本に着くよ」

洗濯、洗い物、買い出し、急いで全部済ませ、寝る前にもう一度メールを読む。明日は新婚旅行で着たお気に入りのワンピースをおろそう。それに白のウェッジソールサンダルを合わせて、小さめのショルダーバッグ。髪は、こないだテレビで紹介されてたやり方を真似して、ゆるくまとめてみよう。そのためには早めに起きないと。そんなことを考えるのが楽しくって嬉しくって、その日は薬指の指輪を撫でながら眠った。

日付変わって7月7日。そっか七夕なんだなぁ…なんて思いながら早めに晩御飯の下準備をする。いつぶりか会う彼に、会って初めての一言はなんと言おう。久しぶり?会いたかった?きっともっと長くなってしまうけど、どんな言葉よりも、気持ちを伝えることが出来らいいな。ずっとを信じれる彼に。

丁重に料理をこしらえる手元、久しぶりに塗ったネイルがやけに艶っぽく光った。