ティッシュ箱の話

私はティッシュ箱を床に置きます。

落として拾わないわけではありません。

足元にある方が安心するし、床に座る機会が多い私には都合がいいのです。

けれどもティッシュ箱を床に置くことで「ほこりがかぶる」という人もいます。

それも一理あるでしょう。

しかしそれでも私は床に置くし、私が置きたいから置くだけのことなのです。

ティッシュ箱にはお気に入りのケースをつけています。

周りが透明なケースになっていてその中に青い液体が入っています。

ちゃぷちゃぷと小さな黄色いアヒルが浮いているのを眺めては頬が緩むのです。

なぜなら、これは私が12歳の時に誕生日プレゼントで母からもらった大切なものだから。

当時欲しいものがなかった私は母に「お母さんが持ってるものの中で一番お気に入りのものをちょうだい」と言ったそうです。

母の気持ちになれば、なんて酷いことを言うんだろうと今なら思えますが、あの頃は純粋に母のお気に入りが欲しかったのです。

そして誕生日にくれたのがこのティッシュケースでした。

このティッシュケースを見ると母を思い出します。

どんなときも笑顔で、優しく、正義感の強い母。

言い合いになっても、相手のことを一番に考える人でした。

もう何年も使っていて、カポッとティッシュ箱をはめるところにヒビが入り、ティッシュを取り出す際にケースが外れてしまうことがあります。

直すことは出来ない場所にヒビが入った時は頬に涙がつたりました。

まるで私のようなティッシュケースは安全な場所に置かなくては。

だからこそ、私は床に置くのです。

もし高い場所におけば、見栄えもいいしほこりもかぶらないでしょう。

でもそんなことより、私はこのティッシュケースが落ち、割れてしまうことのほうがよっぽど怖いのです。

大切なものが青い液体と一緒に粉々になるところを見たくありません。

床に置くことで、小さい頃1人でお風呂に入れなかった私のために買ってきてくれたアヒルのことを思い出し、あの日ごめんねと言えなかった自分も、あれから少しは大きくなれただろうかとアヒルに問うことが出来るでしょう。

夏休みに最後に家族で行った海のこともまた思い出せるでしょう。

だから私は、床にティッシュを置きます。

そこに置くことには意味があるのです。

大切に、大切にする、意味がそこに。

さて、これで私がティッシュを床に置く理由が分かったと思います。

次はそうですね、セーターの話でもしましょうか。