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2020年5月の記事一覧

『シッダールタ』(ヘルマン・ヘッセ)読了

『デミアン』からヘッセにハマってしまった私にとっては、案の定好きな物語だった。ヘッセの著書は各出版社から出版されているが、なかでも新潮はていねいな中に少しこってりとした形容を感じる。しかしこれが個人的には心地よい。 シッダールタは釈迦の出家前の名前であるが、ここでのシッダールタは実に人間らしく見えた。仏陀よりもずっと人間臭く、苦悩し、欲にまみれ、快楽を求め、恐ろしく深い自我に堕ち、愛を知り、また自分の人生を見つめ直した。その過程は修行を繰り返していた前半を越えた後半に、それ

『倚りかからず』(茨木のり子)読了

著者が73歳のとき、今から20年近く前に出した詩集。 しかし、どうしてこんなにも今聴きたい言葉がたくさん詰まっているのだろうか。買ったのは少し前だけど、ふと何気なく手にとって読んだ今、どうしようもなくこの詩を欲していたように思う。 甘く慰めるわけでもなく、粉骨砕身生きていけと激をとばすのでもなく、静かな怒り、ささやかな喜びをそっと書き記したメモのような言葉たち。それは私の心を決してむつかしくせず、流れ行く川の如くごく自然に染み渡っていった。 ここにある言葉たちは、私より