逆さ傘が逆さ
台風で傘がひっくり返った。
最大限の注意を払いながら駅前を歩いていたのに、駅に着いた瞬間油断したせいで全て持ってかれた。傘の各頂点が弧を描くように綺麗に移動し、まるで最初からこうでしたよと言わんばかりの見事な逆さ傘と化した。
だが、致命傷にはならなかった。ひっくり返るまで俺も知らなかったが、この傘はいわゆる「折れない傘」だったのだ。なんたらファイバーがそれを可能にしているらしい。
ひっくり返った後、しばらく呆然とそれを眺めていたら、バコン!という強烈な音と共に形が戻った。まるで最初からこうでしたよと言わんばかりに見事な普通の傘と化した。
その後は特段傘を使うこともなく、普通に持って帰って傘立てにインしそれっきりだ。帰宅後特に開いてもいない。もしかしたら直ったのは俺の思い込みで、実際はバキバキに折れているのかもしれない。
だが、今日は見ない。見る必要がない。今外出したいわけでも、雨が降っているわけでもない。見て実際に折れていた時「明日傘買ってこなきゃ」と思うのも億劫だ。傘の現状に目を瞑ることも、安心を得るためには必要なことだ。
安心したら眠くなってきたので寝る。
おやすみなさい。
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