劇団民藝『ローズのジレンマ』@紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA

最近まで暑かったのに、唐突に寒くなる。はてさて、何を着るのかと、悩むのだが長袖?半袖?サザンシアターって夏場は寒いイメージもあるから、どうしたものか。長袖で正解だった。


あらすじ

人気流行作家のローズは、最愛のパートナー、ウォルシュを亡くしていらい、新作が書けず、破産寸前の大ピンチ。助手のアーリーンは贅沢な生活を改めるよう説得するが、ローズはウォルシュの幽霊を毎日のように呼び出して、かつての愛に浸るばかりで聞く耳をもたない。破産を心配するウォルシュは、奇想天外な解決策を提案、ローズに一発屋の若い作家クランシーに電話をかけさせるのだが……。

劇団民藝公式サイトより


劇について

劇団民藝のお芝居を観るのも初めて。また、ニール・サイモンの作品に触れるのもほぼ初めて。かなり前に確か黒柳徹子氏が出演している舞台を観たはずなのだが、内容を覚えておらず。まあ、初めてということでよろしいか。

本作品は喜劇に分類される作品である。登場人物は四人で二幕モノ。客層としては高齢層が多い感じか。他の新劇団体はどのようなものだろう。派手な照明や音楽等はなし、落ち着いて観られる芝居。急な展開もないため、コピーであるヒーリングドラマというのは納得はいく。しかし、自分の解釈はこれで良いのか、少し疑問は残る。


内容のインプレッション

樫山氏が演じるローズ・スタイナーは失ったパートナーであるウォルシュに執着をしており、彼女以外にはウォルシュの「幽霊」は見えていない。この設定を活かし、第一幕においては他の登場人物との会話の組み立てがされており、この会話のズレを楽しむことになる。話の展開としても、ウォルシュの残した「ある遺産」を巡っての騒動話となるのかと思いきや・・・。

ウォルシュを愛するあまり、彼の死を受け入れることができないローズ。その状況の中において、家族関係・仕事・生活が対比され、執着によって周囲が見えなくなっているようである。この執着、つまり幽霊と現実の狭間において、自分はどちらを取るのかとローズは悩んでいる。ただし、幽霊であるウォルシュも現実を見るようにと促しているようである。第二幕ではある事を後悔をしているのだが、板挟み状態はローズだけではなかったことも知らされるなど話が意外な方向へ。そして、結末は少しだけ涙ぐんでしまった。喜劇ではあるのだけども、悲しくて優しいお話。


「これからどうするのか」と思い悩むことは私達にも共通する普遍的なテーマである。それは大きい小さいというものはあるが、いずれにせよ決断を迫られる。その際に心のなかではある程度、自分なりの結論は出ているのだが、それを選択するに悩み、それに取り憑かれて自らに視線を集中し、外側の環境に対して無頓着になってしまう。時間は常に流れている、いつまでもその状態であることは外部との遮断である。結果的にそれは周辺の人間関係に波及し、また他の人の悩みになるのである。今作ではその点に対しての描写が丁寧であり、笑いに変えながらも、進めない人間を中心とした劇に仕上がっている。また、面白いのは結果としてローズのジレンマから救い出すのはまた違った人物のジレンマの告白にて解放へと向かうのところもなんとも興味深い。悩みに悩みをぶつけて、解放に至るのはなかなかの強烈なものではあるのだが・・・。


中々に楽しめた劇であった。ニール・サイモン氏の劇作というのはどういうものであるのだろうか。これからも追っていきたいところ。







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