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野生の阿部寛を探せ


晴れ渡る空の下、青を反射する幾つかの四角いビル群を背景にして、青山庭園にはそれもまた四角い墓石が無数に立ち並んでいる。

揺れる木々は水辺のせせらぎのように、時折音を立て、それに混じる鳥の声は少ない。代わりに、交わす人々の挨拶は静寂の間をわずかに漂うが、ついと空気に混ざっては、まるで無かったことになっていく。そうやって再び音無しが訪れるたび、神秘とは、何かを媒介とするものではなくただそこに横たわっているものだと、その男は一段と気づきを深めるのだった。
静寂のもと顕わになった神秘であったが、ビルから見下ろす知らない視線を感じたのか、木々のせせらぎを一段と大きく放ち、霞立つように存在感をその奥に隠した。

水に濡れた手で、花を留めていたはずの輪ゴムを握った老婦が歩いてくる。
桐を組んだ椅子に座り、ページを捲ったその男は道すがらの老婦に声をかけられた。

「何をこんなところで読んでるのかい。」

顔を上げ、男は応える。

「わたくし、拙いながらも役者をやっておりまして。その台本を、こうして読み込んでいるのです。ここは静かでとても落ち着く。集中するにはもってこいの場所です。」

老婦はその顔を見て、この墓地の一角には江戸時代後期から日本に移り住んだ、外国人墓地があったことを思い出した。

「はぁ。役者さんかい。なんという名前で?」

焼けた肌の下、彼の白い歯が微かに見えた。


「申し遅れました。わたくし、阿部寛と申します。」



「え、阿部寛、??」



「はい。阿部寛です。」


「阿部寛かい!!!!!阿部寛って野生にもいるんかい!!!!」

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https://www.daily.co.jp/gossip/2022/09/08/0015624044.shtml
なんでこんな辺鄙なニュースを自分は記憶していたのか。
まず面白いし、あまりに情景が見えすぎてしまったからだとは思う。

「青山霊園では、阿部寛が台本を読見込んでいる」

こう一節にすると、梶井基次郎の「桜の樹の下には死体が埋まっている」くらいに趣がある。
それにしても墓と阿部寛には強いシナジーがある。多分どっちもほりが深いからだ。ほり違いではあるけど。


・一昨日、表参道の近くでご飯を食べた後、青山霊園を散歩しようとなった。
「そういえば阿部寛、青山霊園で台本読み込んでるじゃん!いるんだよ!青山霊園には野生の阿部寛が!」
野生の阿部寛を見つけるべく、青山霊園を歩く。





広くて、とても綺麗でした。



あと、すいません。阿部寛はいませんでした。

http://abehiroshi.la.coocan.jp/
株式会社オフィスA
107-0052
東京都港区赤坂9-5-29
赤坂ロイヤルマンション301

阿部寛が昨年より所属となった事務所の株式会社オフィスAは、青山霊園のすぐ近くにあるみたいです。


野生の阿部を捕まえたい人は、マップ検索をして阿部が通りそうな道に網を張っておくなどするとよいかもしれません。余計なお世話でしたらすみません。

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