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『オッペンハイマー』(2023)

研修医1年目の時に、無口な上司と福岡に学会発表旅行に行ったことがあった。夜は完全に別行動だったので、思い切って、博多のビルの映画館で、『インターステラー』を観た。

映画を観ている間中、BGMの使い方というか、その音量の大きさというか、マシュー・マコノヒーの顔の、恐ろしいほどのシリアスさに圧倒というか、圧迫されるような感覚を味わうこととなった。

と同時に、主人公が宇宙に放り出される瞬間の圧倒的な孤独感とか、不安感に、働き始めたばかりの、(無口な上司との学会旅行を余儀なくされている)自分の心境を重ね合わせて、どことなく、癒やされるような感覚があったのを覚えている。

『オッペンハイマー』は、爆弾に関する映画である以上に、「人の顔」についての映画だ、「人の顔」が、どれほど多くを語ることが出来るのか…についての映画だ、みたいな批評を読んで、へぇ…、と思っていたけども、実際、オッピーこと、オッペンハイマーが、これ以上ないほど悲しそうな目つきで、middle distanceをじっと眺めているカットが多くて、胸に迫るものがあった。職場でも、たまに、同僚が、こういう悲しそうな目つきで、middle distanceを眺めていることあるよなぁと思った。

あと、『ミッドサマー』で観て、ミラクルひかるに似てるなーと思ってた女優さんが、こうして見るとものすごい美人だったり、マット・デイモンが、渋かったり、やっぱり音楽というか、音響の使い方が、圧迫感があってすごかった。最近映画館で映画を観てても、以前ほど、没入出来ないというか、ともすれば、はやく終わんねぇかなぁ…みたいに思ってしまうこともあって、俺の感受性の摩耗もここまで来たか…と思っていたけれど、ちゃんとハラハラドキドキした。

オッピーの全裸のサービスカットみたいなものもあって、オッピーって基本悲しそうな顔してるし、このサービスカット、いります?みたいな声もあるというけれど、そういうのも含めていいのかもしれない。ハラハラドキドキもあるし、爆発もあり、爆音もあるし、大自然あり、友情もあり、裏切りもあり、サービスカットもあるし、法廷ドラマもあって、3時間ポッキリ!みたいな満足感があった。

あとクリストファー・ノーランの映画ならではの、しゃれた言い回し、みたいなのがあって、オッピーが「私の手は血塗られている気がするのです…」と言ったら、トルーマン大統領が皮肉に微笑んでハンカチを差し出す、とか、そういうのって、すげぇ格好いいなぁ、と思った。

映画が終わった瞬間に「これは… 人生ベスト映画トップ10に入るわ…」と、隣で見てた中学生っぽい少年が友達と話しているのが聞こえてきて、そういった良さがあった。自分も今後、疲れたときは悲しそうな目でmiddle distanceを見つめて呆然としたいと思った。


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