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パラパラじゃないチャーハンのように
数年前、中華料理屋と言うよりは町中華と言った風の飲食店でアルバイトをしていたが、その店のチャーハンがとても好きだった。
詳しく聞いたことこそなかったが80にはなるだろうか?どこからどう見てもまごう事なき"おじいちゃん"と言った風のシェフが、しっかりとした足腰と、後期高齢者とは思えない手際で作る、ラードでベタベタの熟練のチャーハンは僕の胃袋と心にとてもフィットした。
この店のメニューには「チャーハン850円」と簡潔に書かれてはいたが、鍋を振る人によって随分と味も印象も違うものだった。
店長や、若いアルバイトスタッフが作るチャーハンはいわゆる"パラパラチャーハン"というやつで、もちろんこれはこれでとても美味しいものだっだが、僕はおじいちゃんの作るベタベタチャーハンが好きで、このボロボロの中華屋がまだピカピカだった頃から通ってるかもしれない常連のあのおじいちゃんやあのおばあちゃんも、もしかして僕と同じようにベタベタのチャーハンが好きだったのかもしれない。
とぼとぼと下を向いて歩いているうちに、町中のチャーハンがパラパラになっていた。
桃のマークの安くて美味しいあの中華チェーンも、冷凍食品のホニャキチも、まるで世界中のチャーハンがパラパラになってしまったかのようだ。
ベタベタのチャーハンが、フワフワじゃないオムライスが、カッチカチのプリンが好きだった人間も、いつの間にか世界に矯正されて、味覚も価値観も大好きな人の匂いもイデオロギーもロックスターのBPMも知らず知らずのうちに変わっていってしまうのだろうか。
甘くてキラキラに光った水道水で顔を洗いながら「昔はの、カルキの匂いがして、たまったもんじゃなかった」などと言うのか。
怖くなってラジオをつけると、あの頃好きだったスーパーエンタテイナーが喋る。
「本当はダウンタウンさんみたいになりたかった」
「なによりも、たけしさんが腹抱えて笑ってくれたのが、すげぇ嬉しくて」
すごい。
これは、このトーンは本当の言葉だな、なんてつい先日は思ったけど、数年後はもう何とも思わず聞き逃してしまうようになるのか。
それはそれで、ぼんやりと、不安ではある。
というわけで今の気持ちを忘れないように書き残しておく。
もっとまめに書いとけば良かったな。
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