コンサル探偵 VS ヒーロー軍団

3月の最終土曜日。桜の花が少し綻びはじめている。一年で最もステキなこの季節に、あのようなおぞましい事件に遭遇しようとは・・・

3ヶ月ほど前に突如原因不明の登園拒否に陥った次女は、週毎に変化する不思議なチックを身に付けてはしまったものの、普通に登園するようになり持ち前のひょうきんさも取り戻しつつある。そんな成長の過程で、顔に似合わずお姫様系が好きな灰汁の強い長女の呪縛を解いたのか、最近はテレビの特撮モノがお気に入りだ。先日はデパートで自らのお年玉で、憧れのヒーロベルトまで購入する程のご執心。仮面ライダーV3の変身ベルトを買った時の自分の姿と一瞬ダブって目頭がちょっと熱くなる最近涙もろいコンサル探偵37歳。
彼女のヒーロー熱はまだしばらく冷めることを知らないであろう。実はかなり特撮モノが大好きな父親的には、内心サンキュー(By 東南西北・・・誰も知らないって・・・)って感じだ。昔はゴールデンタイムだったのに、最近は日曜日のやたら朝早い放送時間帯が珠に傷だけどね。これを機会に娘を特撮大好き人間にして・・・いや、ダメだ。そんなことをしてヘンな女の子に育ってしまってはご先祖様に顔向けが出来ぬ。。。
そして、その思いに駄目押しをするかの如くその事件はやって来た。

春休みである。出張から帰ったコンサル探偵に、

「子供達春休みなんだから、たまには父親らしいことしなさいよね、出張ばっかりしてないで!」

と妻からの厳しい言葉が投げかけられる。そこで提示されたミッションは、、、①ドラえもん映画、②東京ドームシティのヒーローショー、③相模湖ピクニックランド・・・等。おや?どうやら先日買ってまだ間もない液晶テレビを次女に棚から落とされて、その修理代に購入費と同じぐらいの支出を指摘されたため、泊まりでどこかに行くと言う案は無くなったようだ。
なるほど、比較的実行しやすいミッションばかり。特に②なんて個人的にかなりそそられる。特撮は好きだがまだヒーローショーには行ったことがない。これぞ父親冥利、とほくそえんだものの、ちょっと次女寄りのテーマで長女が拗ねるかな?などとの心配は、実行日当日に次女よりも興奮している長女の姿で掻き消される。

(会社のインターネットで)事前調査をしたところ、どうやら整理券が配られるらしい。妻もめずらしく情報収集をし、幼稚園仲間から、遊園地のヒーローショーは結構混むらしいとの報告を受ける。これはどうやら先に行って整理券をゲットする必要がありそうだ。

朝食が済むと直ちに水道橋に直行するコンサル探偵。整理券をもらった後はお茶でもしてのんびりしてようと思っていたら、秋葉原に行って壊れたテレビのリモコンを取ってくるよう新たなミッションを玄関先で言い渡される。仕方ない、まずは整理券だ・・・

15時からのショーに向け、11時30分から配布される整理券、さぞやすごい行列か・・・と思いきや、10時30分時点では誰も並んでいない。それどころか、まだその前のショーの整理券まで配られている。(なんだぁ~)かなり気合を入れてやってきたため、多少出鼻を挫かれる。が、まぁいいではないか、一番乗りだ!これでちょっとは子供達のお株が上がるのでは?と淡い期待を胸に、行列に並ぶのが意外と好きなコンサル探偵。誰も並んでいないヒーローの看板の後ろに立ち並ぶ。。。
ふと足元に目をやる。はて???この地面に張られた競馬新聞はなんだろう?並ぶ場所の目印か?ヒーローに競馬新聞はちょっといただけないなぁ・・・などと思っていると、どうやら約1時間も前から誰も並んでいないヒーロがカッコつけた看板の後ろに並ぶと言う私のそれなりに勇気ある行動に触発され、周りで様子を見ていたお父さん、お母さんが私の後ろに並びはじめる。

(ふふふ、キミたち、ぼくは一番だよ、かな~り恥ずかしいがね・・・)

こんなことでもちょっと得意気になるリーズナブルなコンサル探偵。下向いてしばらくニヤついていると、看板の横に人影。見上げるとちょっとキモ悪いおっさんが立っている。

(なんだ、コイツ???)
(おいおい、いきなり看板に沿って置いてあるフェンスをどかして、俺の前に割り込みかよ!)
(ちょ、ちょっと待てよ、おい、俺は一番に並んでんだって!)
(あら、しゃがんでなにするの?)
(え?「ちょっとすみません」って、なに、それ?なに言ってんの?)
(はぁ?おい、なんだ?し、新聞紙はがして綺麗にたたんで・・・あら鞄にしまってるぞ?意外と律儀?)
(ありゃあ?しまった鞄から今度はアルミホイルに包んだおにぎり出してもぐもぐ食べ始めたぞ!うわぁ、具はシーチキンマヨネーズらしい・・・)
(え、でも・・・なに?あの新聞紙は!?えー、場所取りだったんだ!!!)
(うっそー。まじー?な、なんで?そんなのありかよ~、すげーマナー。まじかよ、そんなのありかよ!)

し、しかも整理券配布10分ぐらい前に・・・

私の後ろではヒーローへの憧れに身を焼かれながら、お父さんやお母さんに手をつながれて、じっとしてられなくてあっち行ったりこっち行ったりしている子供達が沢山見ているというのに。。。

ここはひとつコンサル探偵怒りの鉄拳を・・・とは思ったものの・・・

いや、この人もせっかくの休日に私と同じく子供達のために並びに来ているんだろうから、まぁ、しょうがないか、多少センスは悪いが、今回は後ろに控えるちびっこ達に免じて大目に見てやろう。と少し心の広いコンサル探偵。(うふ、ちょっと大人になったな。。。)

間も無く係員により整理券が配られる。私は5番~8番だ。どうやら新聞紙場所取りおじさんの家族も4人家族らしい。

(新聞紙君や、今度は家族とともに会場でまた会おう。。。)

心の中でそんな言葉を投げかけ、コンサル探偵は次なる目的地秋葉原に向かった。。。

さて、秋葉原でのリモコン取り替えミッションを無事終え、神保町でランチを終え、家族とはJR水道橋の駅で待ち合わせ、開演時間30分前に指定された場所へ向かう。
今ではヒーローに会うより、新聞紙家族の顔を見るのが楽しみになっているコンサル探偵。指定された会場前の広場でしばし待たされる。するとそこに一人の女性が・・・

(ま、眉毛がすごく濃い・・・)(やはりあの旦那にしてこの配偶者か・・・)

しかも、どこで売っているのか、本日のショーのパンフレットのようなものを見て、不気味に半口を開けて薄ら笑っている。見れば携帯のストラップには、仮面ライダーV3と仮面ライダーアマゾンらしきものがぶら下がっている。

(お、俺の心のヒーローV3があんなところに。。。)少し涙をそそる。

どうやら新聞紙お父さんはまだ子供達と遊園地で遊んでいるらしい・・・頑張ってるな、新聞紙君。と勝手に思い込んでいたコンサル探偵は、世の中の厳しさと自分の推理力の甘さを数分後に味わうこととなる。

その眉毛お母さんのもとに、一人のチリチリヘアーを束ねた男性がやって来て親しげに話している。

(あれぇ?親戚で来ているのか?それともこの人達は整理券番号がもっと後ろの人なのかな?)

いや、違う。彼女が手にしている整理券番号は4番だ。
うむ?子供は一人で大人が3人のグループか?まぁ、遊園地だからそれもありだろう。。。それともこっちが夫婦で、田舎から新聞紙君の親戚のもとにやって来たとかか?
どうでもいいことを詮索するコンサル探偵。しかし一抹の不安を覚えたのは、そのチリチリヘアーの携帯に、グリーンとブルーのパワードスーツモノ(※)ヒーローがぶら下げられていた時であった。

そして次の瞬間、私の推理はまるきり間違っていたことを知る。

その二人のもとに、また一人、なんとも形容しがたい人物が加わったのである。撮影道具をいっぱいぶら下げている。眉毛と新聞紙の子供にしては、いや、眉毛とチリチリヘアーの子供だとしても、と、歳をくい過ぎている。これが子供のはずがない。どこからどう見ても大人だ。立派な大人だ。。。
そして、驚いて目を見開いている私の背後から、あの男はもっそりやって来た。

怪人新聞紙男だ!(必殺技は新聞紙を張って場所取りだ。)

この怪人、こんな3匹の手下を連れていたとは!いや、新聞紙怪人は場所取りをしていたから一番の下っ端か?やはりあの時に正義のコンサル探偵キックでも食らわしておくんだった!

ヒーローショーに、お、大人4人!しかもみんな携帯のストラップとかにヒローモノのアクセサリーをぶら下げている!怪人眉毛女1名を含む、オタク怪人の4人組!!!うえーん。子供の教育に悪い~。

ショックで呆然としているうちに会場へと誘われ、ヒーロー達は悪を倒し、会場には見せかけの平和が訪れた。。。しかし今や私は知っている、本当の悪がどこに居るかを・・・(長女の隣・・・)(ちなみに、眉毛女の手にしていたパンフレットは会場でしか売られていないモノ。即ち、怪人たちは1回目のショーも見ていたのだ!!!)

子供達への4怪人の悪影響を気にしながら、会場を後にJR駅へと向かう東京ドームシティの中を歩いていくコンサル探偵一家。と、その先にはさらに追い討ちを掛けるが如く、アニメのコスプレに身を包んだ不気味な男女の軍団がぁぁぁぁ!!!どうやら今日はコスプレの大会が遊園地内であったらしい。やはり暖かくなるといろんな人が出てくるのであろう、このようなタイミングを見計らった遊園地のやけくそな企画に頭が下がる思いのコンサル探偵。

が、しかし!!!

おい、そこのめがねぇぇぇ!髭剃りあと青々させながら緑色のカツラつけてスカートはいてんじゃねぇぇぇぇぇ!

うわぁ、お嬢さん!!!もう少し痩せてからその格好はしたほうがいいぃぃぃ~、ブ、ブーツが長靴になってるよぉぉぉぉ。

おっ、キミちょっと可愛いじゃん、、、が、その隣の男はナンダァァァァァ~!それは本当に地球人なのか!?

そんな人たちの混雑をすり抜けて、ふと横に目をやると、、、

セーラームーンの格好をした50歳ぐらいの太ったおじさん!

金髪のカツラがずれて黒い刈り上げ後が見えてて気持ち悪いィィィ~、そんなうれしそうな顔して笑ってないでぇぇぇぇぇ~。

うわーん、うわーん、えーん、えーん。こわいよー。

妻子ともども命からがら逃げてきました。場外馬券場に向かうおじさんたちがあれほど普通に見えたのは初めてです。

子供達は「特捜戦隊 デカレンジャー」に会えた喜びで、この特殊な世界があまり目に入っていないのがせめてもの救い。

そして、翌日に訪れた相模湖ピクニックランドでは、1つ前のヒーロー、「恐竜戦隊アバレンジャー」がドサ回りしておりましたとさ。

(終)

(※)コンサル探偵の役に立つ特撮一口メモ
パワードスーツモノとは、秘密戦隊ゴレンジャーに端を発する普通の人間が特殊スーツを身にまとい、敵と戦うヒーローモノのことを言う。戦隊モノが多い。悪の怪人とかに人体を改造されてしまった仮面ライダーのようなヒーロはパワードスーツモノではない。仮面ライダーの世界は最近乱れてきてるけどね。


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