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資本主義のダイナミズム・移民――『我谷は緑なりき』

 1941年のジョン・フォード監督の映画。19世紀末、厳しく不安定な炭鉱労働をしながらも堅実で誇りを持って生きる一家の話である。私が注目したのは、この映画ではメインではないが、産業革命で世界の工場といわれながらも、不況によって炭鉱を捨て、アメリカやオーストラリアに新天地を求める人々のエピソードだ。
 
 マルクスは、資本主義は人々を因習からの解放と生活手段の喪失という二重の自由を生み出すと述べた。その結果起こったのは人々の移動だ。実際、19世紀は農村を解放/追放された人々が工場に炭鉱に生活の糧を求めた人類の歴史始まって以来の大移動の世紀だった。人々は職を求めて国内の大都市でも新大陸でもどこでも行った。
 
 この映画は、炭鉱で地道な生活を送る一家が、市場の変動によって一家離散を余儀なくされることを記録している。年代はおそらく1870年代から80年代だろう。まだ初等教育も普及しておらず、組合もまだ完全に認められていない時代だと思う。なぜなら、一家の末っ子がなんとか小学校に通う程度だからだ。したがって、労働者への福祉教育は限られ、職を失うと世界に広がる英国の植民地に新しい生活を求めることになる。

 映画の後半で残った末っ子が母に兄たちの移住先を地図で説明するシーンが出て来る。母は「子どもたち話せなければ意味がない」と大いに嘆く場面がある。経済の波に影響され、家族が解体してしまったのだ。だがこれは現代の移民でも同じだ。また兄たちの移住先の一つはオーストラリアということになっているが、これは別の移住の話“ピアノ・レッスン”の舞台でもある。

 資本主義のダイナミズムは、21世紀に復活している。1990年代に日本への移民が増加したと思ったら、国内産業の基盤が崩れ、大都市に移動を余儀なくされる人々が増えつつある。再度、日本人が海外に移民に行く日も近いかもしれない。悲劇なのか驚嘆すべきなのか。いずれにせよ、栄枯盛衰、転変を繰り返すことを宿命づけられているのが資本主義なのだ。

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