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美術本散策 1

  なんだか思い立って一気に美術本を読み漁った。そこで少し思ったことを書く。

  西欧絵画では女性の水浴図は多いが、この本では彼の性的指向を反映してか男性がシャワーを浴びている。

 ホックニーは男性の後姿を何とはなしに眺めているようでいて、肩、尻、腕の曲げなど一挙手一投足が目に入っている。ぼんやりだがしっかりと愛する者を眺めること。それが彼の幸福なのだ。
 
 ホックニーの作品は、生に対する肯定性があって人を前向きにさせる。音楽だと、アントニオ・カルロス・ジョビンやスティーヴィー・ワンダーとかだな。

『裸のサル』の著者が、原始から現代までアートを追っている。彼によれば人間独自の活動には、存在を理解するために科学、死の恐怖を減らすために宗教、そして脳を楽しませるためにアートがあるという。
 
 彼はアートを「日常的なものから非日常を作り出す」を定義するが、それを文字通り実践した1万年前のパタゴニアの手形が圧巻。
 

  ひたすら手をスプレーか何かで吹き付けてその手形の繰り返しが眩暈効果をもたらしている。手は人の触覚であり、親しい人とのコミュニケーションにおいては気持ちを伝えあう器官。それが何千何万と壁をおおいつくす。無数の手が何か意志を持って迫って来る。

 15年ほど前に出たものだが、狩野派、琳派(酒井抱一、鈴木其一)、南画といったエスタブリッシュメントから奇想の画家(伊藤若冲、曽我蕭白)、写実画、禅画(白隠)と異端(サブカルチャー)を経て、最後は大衆の浮世絵で終わるという構成だ。春画は省かれているが江戸絵画の全貌を知るためには、最良だと思われる。
 
 ここに思想史を絡ませるとどうなるか、興味が尽きない。若冲は天台本覚思想の「草木国土悉皆成仏」というアニミスティックな思想が背景にあるらしい。確かにどの絵も生命の気配に満ち満ちている。
 
 表紙画像は、久隅守景(くすみ・もりかげ)の『夕顔棚納涼図』17世紀から。この人はもともと狩野派の人。それが破門されてこんなに清々しく超俗的な絵を描くようになったらしい。なるほど、そういう生き方もある。

表紙画像の引用元:https://blog.goo.ne.jp/keyagu0110/e/6bba9b2906ddc5290c4243f0e8b30c29


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