珠雨 慈音

徒然なるままふよふよと。

珠雨 慈音

徒然なるままふよふよと。

最近の記事

~徒然雑記~ナルトとフリクション

 ドアを開けて玄関に入るとすぐ優しい気持ちに包まれる。そんな匂いが畳にも襖にも天井にもあちこち染み付いている事もしばらく居るうちに忘れてしまうのだが、玄関で靴を脱いでる時いつも章宏は思う。  家の奥から、腰の曲がった姿勢とは不釣り合いの気丈な顔立ちとキビキビとした動きの祖母が章宏を見るやいなや、その毅然たる面持ちを皺いっぱいの惜しみない愛情で満ちたクシャクシャな笑顔になり 「大きゅうなったねぇ、あがり。」 と腕を漕ぐように家の中へ促す。 「こんにちは。」 と関西特有の発音で章

    • 徒然雑記-『グソク虫とバナナ』

       ハゲ丸はボールペンの先でノートの端のスヌーピーの絵を軽くつついてみた。数日前に同じクラスの雪乃から借りたノートだ。  ハゲ丸という呼び名はもちろん本名でなく彼の秘かに想いをよせている雪乃が彼の胸の内を見透した、いたずらっぽい目の笑顔で一方的にそう名付けた。彼女は、ハゲ丸の中の名付けられたその名にあがらえない気持ちも、手にとって分かりつくした笑みを浮かべていた。しかし、その時の雪乃の笑みには悪意でなく好意めいたものが漂っていた事も、ハゲ丸にあがらうのを野暮な気分にさせていた訳

      • 徒然雑記-万華鏡

        放課後の校庭では決まって、1人の若手男性教師が中学年以下の児童達と所狭しに走り回り鬼ごっこをしている。  西から照らしてくる陽光の中で、子ども達は砂埃をたてながら各々の遊びに夢中になっている。中には喧嘩をしている子達も見られる…泣いてる子も居る。  図工を担当の教科としている1人の女性教師が、室内履きのまま昇降口の段差の傍に立ち校庭を見渡し眺めて居た。  子ども達と走り回って居た男性教師は、その女性教師を目に留めると子ども達に 「たーいむ!タイム!」 と肩で息をきらしながら言

        • 徒然雑記 ~ポッポと一緒に~

           お天気のよい、太陽の光が窓から沢山入ってきている部屋のテーブルに、いろいろなフルーツがのっている、きれいなケーキが置いてあります。  ケーキはママのお友達からの、おみやげです。  ママは、自分とお友達に紅茶を入れました。ナナには、いつもナナの使っているプラスチックのコップにジュースを入れてくれました。飲み物を入れながら、お友達にしゃべりかけている時のママの笑顔ったら、とてもうれしそう。  ママはお友達が来た事がうれしかった。ナナはきれいで美味しいケーキがうれしかった。そして

        ~徒然雑記~ナルトとフリクション

          徒然雑記 ~ Air(慈母愛) ~

          彼女は朝からとても機嫌が悪く周囲の何から何まで関わる事物へ苛立ちを抱かずに居られないといったふうで私の前を足早に歩くその背中にも漂っていた。 今年やっと初めて夏らしい幾多もの蝉の声の反響した鬱蒼とした緑の生い茂る緑地に沿った路地を「もっとゆっくり歩ければきっと快いに違いないのに」と思いながら空を覆う木々の緑を仰ぎつつ後を追うように歩いていたら,なだらかな坂を下る道にさしかかった。上気した汗ばんだ顔をちらと後ろに向けて苦笑しながら「坂です。」と彼女は言った。 20年前も彼女

          徒然雑記 ~ Air(慈母愛) ~

          花と電車とクリスマス

          派遣社員で働いていた頃,契約期間満了でその会社での最後の勤務の日,部署の人達からお花をもらった。 何人も派遣社員の働いていた会社なので通常は他の派遣社員の勤務の最終日にそういう場面を見たことがなかったから,とても嬉しくて,帰りの満員の電車の中でも,貰った花束にすぐに枯れてしまわないで欲しい気持ちの強すぎて花束を下に向けて持って居た。 満員電車の中の人は迷惑そうだったけれどそれでも花がつぶれないように気を遣ってくれてしまってた。それが不思議なことに,下に向けて持って居た花束の周

          花と電車とクリスマス