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コンクリートの《森の人》

夜の水辺に跳びおりて、僕は猿からヒトになる。
重たい頭を擡げて終わらない考え事をはじめる。

夜のハンモック跳びおりて、長い眠りから僕らは覚めた。
小さな大脳より大きな考え事をはじめている《毛なし猿》。

 悲しみを胸に詰めこみ
 微かな希望の豆粒みたいな種子をこの胸に
 僕らは宿らせながら歩く。

     *
 
森のダンボールを脱け出し、
立ちあがり、火を呼び、石を磨ぐ僕らは
くだらぬあらゆる雑事と知恵の実を握りしめて歩きだす。

 君はかわいい眼鏡猿、青い尻をしたマントヒヒ、
 僕は歌っているオランウータン、薄毛で雑種のニホンザル。

 空は信じられないほどに青い、空は死にたくなるほどに高い、
 神は無慈悲にも笑っておられる、僕らのうえで!

夜の街路樹に跳びのり人間たちを眺めていると
僕は仏になったような気もするが
先祖の猿にでも還ったような気もする。

この空は信じられないくらいに広い。

     *

狭い背広の《超人》、ヒトではない何かになれる日を
祈っているクラーク・ケントは夢のなかでだけ鳥になる。

この空は息が止まるくらいに青い。

 悲しみを胸に突っこんで
 微かな希望の残り火みたいな煙草を唇に
 僕らは燃やしながら歩く。

 君はかわいいテナガザル、白い尻をしたチンパンジー、
 僕は歌っている《森の人》、アフリカ由来のニホンザル。

 空は信じられないほどに青い、空は冷たく光っている、
 空は死にたくなるほどに高い、思わず飛びこみたくなるほど!

恋をしているルイジンエンは狩猟も野生の歌も忘れている、
ただ考えあぐねているオーギュスト・ロダンの像の《考える人》、
腕を捥がれている《考える葦》、昼は二本の足の動物だ。

     *

夜の水辺に跳びおりて僕は猿からヒトになる。
森の暗い茂みに向け黙ったままで僕は駈けこんだ。

さようなら僕の友よ、さあもう行こう。

        (1997年10月16日〜11月)

* 扉写真は、2020年開催のバンクシー展「天才か反逆者か」@横浜より

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分子人類学者・篠田謙一氏の言葉
「現代で人種差別と呼ばれるものの多くは
 文化や宗教の違いからくるもので、
 生物学的な違いではない」
「私たちはみんなアフリカ人である」
に影響を受け、一部の詩を改変いたしました。

(参考文献:ビッグイシュー日本版 第326号掲載
 篠田謙一氏インタビュー
 「私たちはみんなアフリカ人。
  絶滅した旧人類の血も受け継ぐ」)

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