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片割れ

形のちがう動物。

君の乳房は
定かではない幾つかの理由によって丸く膨らみ、
僕は平たい胸に
もはや役割を失った干し葡萄を寂しげにふたつ乗せ、
君はまるで情熱をこっそり小箱に隠匿しているみたいに
秘密の洞窟の所有者で、
僕はまるで家のそとに小犬を一匹繋いでいるみたいに
解りやすくてあからさまな衝動物の飼い主で、
君は行為の最中に
生まれたばかりの赤子のように産声をあげ、
僕は黙りこくって死に場所を探す。

僕の喉には仏が座り、
君のあそこには神がいる。

     *

健康体であるにもかかわらず
月に一度子宮の病にとりつかれてしまうのも
新しい生命を授かるという類稀なる能力にたいする
避けて通れぬ代償なのだが、
日に一度髭を剃らねばならないのは
べつだん何の特典も付いてはこない意外に厄介な習性にすぎず、
神聖な仕事の分だけ
複雑で不安定にできた生き物と
腹も痛めずに人の親となってしまう宿命の
気楽でさみしい生き物が
傷ついたり傷つけたり、くっついたり離れたり。

もしも僕らが魚類のように
体外で受精を行うのだったら
人生はもっと単純で
きっと様々な面倒が起こらずに済んだのに。

汗水垂らして舐めあい擦れあい
互いの匂いや感触、味までも確かめあい
決して消すことのできない記憶さえ脳裏に刻みあって
結局はひとりに還ってゆく。
今日も不完全さを持て余し
一つになろうとしてはとんだ分裂騒ぎを繰り返す。

     *

 あんな不格好な形をしているのに
 その結合からひとつの命が生まれてしまうのは
 人生のどんな出来事よりも不可解で神秘的な奇跡。
 なぜか真実はある種の醜悪さ、汚らしさの中にある。
 聖なるものと俗なるものの紙一重の谷間から
 新しい魂が血に塗れてやって来る。

     *

起き抜けの寝ぼけ頭としょぼしょぼ眼、
ぱっくり口を開けた大きな白蛙のまえで僕は
今日の尿がどうもいつもより黄色すぎることで
体調不良であることを知り、
性器がなにやら奇妙にうずいていることで
自分がやはり他者を欲していることを知る。

         (2001年4月2日〜25日)

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