余白のデザイン タイポグラフィと東洋思想
デザインをするにあたって、余白は重要な要素です。
ただ空白にするのではなく、意図を持ってデザインされたスペース、それが余白のデザイン。
デザインを生業としていない人でも、例えば文字と文字や、写真ごとの隙間などは気にしたりするものではないでしょうか。
くっつきすぎたら見にくいし、離れすぎたら関連がわからなくなる。
そのときに人は適切なスペース、『余白』というものを意識します。
今回は余白のデザインの概念と、それを身につけるための学びをシェアしていきたいと思います。
『空間を描く』
私が余白を"ひとつの表現方法"だという概念に最初に触れたのは、芸術大学への入学試験を控えた高校3年生の時。
特殊な実技や思考トレーニングが必要な芸術大学攻略に向けて、当時専門学校に通っていた私が、「もし芸大を目指さなければ今でも意識していなかったかもしれない」と思える、いくつかの大きな学びがありました。
その中のひとつ、
「モノではなく周りの空間を描き出しなさい」
という専門学校での先生の教え。
一聞すると哲学のような概念論にも聞こえるこの教えですが、理解してみればとても論理的で、むしろこれが出来ないのに絵がかけるわけがない、とすら思えるようになりました。
たとえば白いハンカチがデッサンのモチーフだった場合。
白いハンカチに色はないので、それを画用紙の中で物体として描くには
「シワとなっている部分の影」
や
「机などハンカチの設置している場所の影」
これらを観察して忠実に描くコトで、白いハンカチが浮かび上がってきます。
この時によく注意されたのが「描きすぎない」こと。
『余白があるから物体や空間が感じれるようになる』ということを、常に意識するように指導してもらいました。
東洋思想としての余白の美
ところで話は歴史・文化的な観点に変わりますが、東洋には昔から余白に美しさを見出す文化がありました。
古くは8世紀ごろの中国(唐)での水墨画などが代表的です。
https://natsukiart.co.jp/about-chineseart/sansuiga-sou/
日本では、安土桃山時代から江戸時代初期頃に描かれたという長谷川等伯の「松林図屛風」が国宝としても有名で、余白の美の代表作としても取り上げられることが多い作品です。
そんな東洋独自の『余白の美』の思想ですが、モダンデザインの世界でも20世紀初頭に取り入れられていきます。
そのきっかけが、国際タイポグラフィの登場です。
タイポグラフィの巨匠も『余白』を意識していた
『国際タイポグラフィ』とは、前回の記事でも少し紹介しましたが、二度の世界大戦中に永世中立国として戦禍を逃れていたスイスで、1950年代に始まった世界的なタイポグラフィとモダンデザインのムーブメント。
それがスイスのタイポグラファーであるエミール・ルーダーによって、戦後社会において独自の発展をしていきます。
ルーダーの作品は、どれも大胆なテキストの配置と同時に、『余白』の美しさにこだわられています。
その余白に対する意識が、東洋から取り入れ自身の著作である『タイポグラフィ的造形の手引き』でも見て取れます。
書籍の中から曰く、タイポグラフィーの定義として、
https://store.bookandsons.com/?pid=146455357
そんなエミール・ルーダーは、自身のデザイン理論に老子や岡倉覚三の引用も行っていたそうで、東洋思想への影響も少なからずあったようです。
余白デザインを東洋美術に学ぶ
余白のデザイン、というものは一見「何もしなければ美しい」と同義だと思われてるかもしれませんが、そこには確かなセンスが問われます。
どれくらいの余白を取るか
どれくらいの情報を入れるか
その両方のバランスを兼ね備えた余白の力を、自分自身のデザインにとりいれるためにも、東洋の美術から学んでみるのもいいかもしれません。
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