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間違い電話

会社の携帯に知らない番号から電話があった。ドルジは会社メールの署名欄に携帯番号を記載しているから、おそらくそこから番号を入手して連絡してきたのだろう。こういう事はたまにある。とりあえず会話を始めれば、最初に名前を名乗ってくれるので、その場で誰だか判明するのだ。ただ、稀に名前を名乗らずに話し始めるタイプの人もいる。そんな時ドルジは、一旦電波が悪いふりをして、「もしもし?ドルジです。すみません電波が悪いようで…」と伝えて、相手に改めて自己紹介させるキッカケを与えるようにしている。ただ、厄介なことに、今回はここまでしても名乗らずに用件を話し始めたのだ。こうなると会話の流れから誰なのか判断するしか無い。ドルジの研ぎ澄まされた思考を使うチャンスである。詳しく聞くと、彼はドリンク発注の話をしている。ビール樽の在庫が切れそうで既に発注しているのに全く届かないとお怒りだ。今日は30人の団体飲み会の予約が18時からあるので、絶対にそれまでには持ってくるようにと捲し立てている。なるほど、よく分かった。これは間違い電話だ。ドルジは仕事でビール樽の販売などしていない。「電話番号、間違ってますよ」と話をしてみる。ただ、相手も相当テンパっているのか、こちらの会話を全く聞かずに、ひたすらクレームを話続けてくる。ちょっと怖そうな人だし反論の糸目も見当たらない為、電話越しにドルジは誤解を解くことを諦めた。いっそ全ての苛立ちをドルジに吐き出して、スッキリしてもらおう。天使の心を持ったドルジは、彼の想いをギュッと受け止めた。ひとしきりクレームを終えると「絶対に18時に間に合わせるように持ってきてくださいよ?」そう言って彼は電話を切った。良かった。彼の気持ちはきっとこれで晴れたことだろう。ドルジが盾になったお陰で、叱られずに済んだ人もいるので結果2人を助けたことになる。良いことをするのは気持ち良い。そう思いながら、どこかの居酒屋で18時にどんなことが起こるのか、不敵な笑みで心待ちにする堕天使ドルジなのでした。

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