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記憶システム

皆さんは傘という物をご存知だろうか。雨が降った時に脳天の上に広げる放射線状のアレのことだ。ドルジはこの人生で一体何本の傘と生き別れになったのか覚えていない。ある時は電車の中に、またある時は居酒屋の入口に。犬のマーキングの如く、数多もの土地にドルジの生きた証として傘を残してきたのだ。そんなある日、雨が降るたびに家から傘が無くなる実情に痺れを切らした奥さんから、ある通達を受けた。少々言葉尻が荒かったのでここには直接記載できないが、簡単に言うと『次に傘を無くしたらおまえの命も失うことになるので気をつけろ』とのことだった。ドルジは奥さんの言葉をふかく心にきざみこんだ!そして先日、会社の歓送迎会の二次会でカラオケに行った。店に入る前は雨が降っていたので傘をさしていたが、帰りは止んでいたので傘を持たずに出てしまった。しかし、学習能力の高いドルジは、この時奥さんの言葉をふかくおもいだした。そして店へと踵を返して、無事傘を救出することに成功したのだ。今回の任務はこれでミッションコンプリート、浮かれ気分で家路に着く。しかし、玄関の前である異変に気がついた。なんと家の鍵が見当たらないのだ。どうやら傘に気を取られ過ぎたあまり、鍵の存在を忘れてしまったようだ。酔っていて正常な判断が出来ないドルジは、傘を無くしたら大変だったけど鍵なら大丈夫だろうと思い、軽い気持ちで家のインターフォンを押して奥さんにことの顛末を話した。その後どうなったかは皆さんのご想像にお任せするが、わすれるのコマンドが使えない程のトラウマをふかく心にきざみこまれたドルジなのでした。

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