質問(22/5/20講義)②

大輔:1、
一方向的で無内包の〈〉
一方向的で無内包の〈私〉
この2つの違いは何でしょうか?ここが整理できておりませんので、ご教示よろしくお願い申し上げまます。

永井:〈〉は〈私〉や〈今〉のもつ無内包の現実性という性質です。〈私〉は「私」という内包にそれが適用された場合です。以下の持続やカント原理についての話は、今回論じられていることではなく、関連する問題として触れたに過ぎません。連載にもまだ含まれておらず、今秋に刊行される予定の『哲学探究3』の終章のテーマです。『転校生とブラックジャック』については 『〈私〉をめぐる対決』で触れました。

大輔:2、〈〉=無内包の現実性は、一方向的にではあれ、痛みなら痛みの〈クオリア〉がその存在の源泉となっている(意味の源泉ではなく)。  つまり、〈〉=無内包の現実性は、その〈存在〉の源泉は、痛みなら痛みなどの、何らかの〈クオリア〉にある。このように言えますでしょうか?間違えておりますでしょうか?

永井:残念ながら、「…がその存在の源泉となっている(意味の源泉ではなく)」で何が主張されているのか精確には捉えられないので、精確には答えられませんが、理解できた限りでは、その通りだと言えるように思われます。

大輔:3、〈〉=無内包の現実性が、もしも、何の質料ももたない(何にも受肉していない、何のクオリアももたない)ならば、フィヒテ的循環すら生じないので、意味の源泉ですらありえない。のように言えますか?間違えておりますでしょうか?

永井:これは少し違いそうです。フィヒテ的循環に必要なのは質料ではなく形相、すなわち本質、すなわち内包ですから。たとえば〈私〉には「私」という内包があります。一面ではその内包こそがが無内包を可能ならしめている、ということです。この問題はこの議論そのものですから、哲学探究全三巻の全体が取り組んでいる問題です。

大輔:4、3が正しいならば、したがって、〈〉=無内包の現実性は、それ自体を一方向的で無寄与な成分として、内包から分離して理解するためにも、最低限、まずはともあれ何かの〈クオリア〉がその存在の源泉として与えられていなければならず、最低限の〈受肉〉の事実を伴わねばならない。(例:痛い!と感じているなど。)このように言えますでしょうか?

永井:とくにクオリアにこだわる必要はないと思われます。おそらくクオリアなしの存在も可能でしょうから。その場合にも独在性の問題はありうるでしょう。

大輔:5、〈痛い〉というクオリアが継続していて、正気に戻ったら、なぜか別世界の別人に受肉していた。という想定はできる(転校生とブラックジャックのケースと類比的に)。この想定は可能でしょうか?(ある種の記憶喪失の状況?)もしもこの想定ができるのでしたら、この意味でならば、つまり、〈クオリア〉を継続させたまま受肉している世界ごと入れ換わる、という想定ならば、内容的な継続性がない人物に受肉した〈私〉に「なる」ことは「可能」と言えますか?

永井:これに似た思考実験は確かウィトゲンシュタインにありますね。激痛を感じてそれに意識を集中している間にその自分の記憶が全く違う内容に変わって別人になっているとか。身体に定位していえばありえそうですが、クオリアに定位してこれを言うと、新しい記憶を想起した瞬間にもともとその人であったことになるので、ありえないともいえます。

大輔:6、5がもしも可能ならば、〈〉=無内包の現実性は、〈クオリア〉をその存在の源泉として、内容的な継続性のない世界に、別人として移動できる。このように言えますでしょうか?(ライプニッツ原理は〈クオリア〉をつうじて世界を選ぶ?)

永井:そういう場合も考えられる、ということなら、そうでしょう。

大輔:7、5と6の意味で、〈〉=無内包の現実性は、不可離の〈クオリア〉をつうじて、他の世界に移動してしまう(正気に戻ったら移動してしまっているなどして)ことが可能である。このようにして、つまり、「他の世界へ移動する」という仕方で、一方向的にではあれ、他の人物の〈私〉へ移動できる。このように言えますか?こういう話は、識別できないが理解可能な話と言えますでしょうか?

永井:想定可能ですが、移動した後には、移動したとはわかりませんから、その意味では不可能ですね。

大輔:8、最後に、〈〉=無内包の現実性は、不可離の〈クオリア〉をつうじて、諸可能世界のうちの〈現実世界〉に〈受肉〉する。この〈クオリアへの受肉〉という仕方で、〈〉=無内包の現実性は、諸可能世界から〈現実世界〉を選び取る、という〈関与〉をしている。このように言えますでしょうか?

永井:クオリアはいつも繋がって同じものが持続的に存在しているわけではないので、それはいえないでしょう。

※関連リンク「哲学探究3 第2回」

※記事公開当初、ご質問者のお名前表記にミスがございました。お詫びして訂正いたします。

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