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図書館でくらすには

図書館でくらすには

図書館で暮らすには、一体どうすればいいか。
これが俺の中にずっと居座って離れない問いかけだ。初めに心に沸き上がったのはまだ中学生の時で確か…題名は忘れたがなんかジュニアSFシリーズっぽいやつの1冊で、マッドサイエンティストによって首だけ人間にされた男の復讐劇だったような気がする。とにかくそれを読んでいるときに天啓。「あ、この状態をキープしたい」と、そう思ったのだ。要は脳汁溢れるトランス状態を一定のラインでキープするとでも言おうか、その状態のためならなにもかもなげうっていいと思ったのだ中学生の俺は。しかし、図書館というのはとにもかくにも金がかかる。高校に入ってから株の種銭を稼ごうと運送業で精一杯働いたのだが、無免がばれたのと腰を痛めたせいであえなく断念。親に頼み込んで金をもらおうとしても「それは、あれか、司書になりたいのか、そういう資格が取れる学校にいきたいのか」と言いやがる。これほど俺を激怒させる言葉もない。いいか、親よ、二人の親よ、働くのと住むのは全然違うのだ。そもそも字からしてちがうだろう。語数も違う。これだから学の無い人間と話すのは嫌だのだ。それから10年過ぎても金は一向にたまらない。親も元気でなけなしの遺産も入りそうもない。仕方がないので俺は町のあらゆる不動産屋を訪ね、生活に不便でも、事故物件でもいいので、安くて広い家はないかと探し回った。幸いにして現代社会。少子高齢化&国民健康保険撤廃のおりを受けて空き家は俺の想像以上にあった。しかし、こちらも金がない。ダメ元で「むしろ住むことでお金が発生する家はありませんか?」と聞くとスーモ君の着ぐるみを頭だけ被った不動産屋が「あります」といいやがる。じゃあ、早速見にいこうということでSUVに乗り込んで出発。山奥のもう壊れかけの、かやぶき屋根の、井戸で周囲を囲まれて中に入るには3つくらい井戸を超えなきゃいけないような、そういう家だろうと俺は思っていたが、車は町の中心地へ。あ、これはだまされたかな、と思いつつ降ろされる俺。の目の前にはマンション。「ここです」とスーモ。「あ、マンションなんすね」と俺。ここで考えてしまうのだが、マンションの一室はどんなに広くてもそれは「図書館」と言えるだろうか。自分をだまそうとしても「館」ではないところがどうも。悩んでいる俺にスーモが「全部です」と言う。「え」「全部です」「え」「このマンション一棟全部が事故物件なので」「あ、そういう」「はい、市から一棟丸ごと事故物件だと行政指導だからと言われているので、弊社の社員が中に入ったり、すぐ出てきたりしてカモフラージュしているんですけどね」「でもそれ、すごく大変そうですね」「そうなんですよ、ほんとに。だから是非、図書館さんに決めていただきたいなと」勝手に客にあだ名をつける人間には腹は立つが、一棟丸ごとであれば図書館といっても差し支えなく、むしろ階ごと部屋ごとに本の種別をわければ、通常の図書館よりも利便性が高いともいえる。わかりましたと、俺は全部屋のカギをもらい、家から自分の本をリアカーで引っ張ってきた。一棟丸ごと事故物件だといるわいるわ、半透明のやつらがそこら中にひしめき合っている。とりあえず一番高い階のちょうど真ん中の部屋に住むことにしたが、いつ何時でも部屋の壁をすり抜ける幽霊たちのせいでまったく本に集中できない。まったくなんてところを紹介してくれたんだと不動産屋に怒鳴りこもうかと思ったが、月25万ふりこまれるし、そのうち本棚で壁を四方囲むと幽霊が滅多に壁を通り抜けないことがわかったので、なんとか未来の図書館の場所は定まった。

さて、次は本である。
もちろん月に25万もらえていれば家賃がかからないので相当本を買える。しかし、マンション一棟を埋めるほどの本をすぐに揃えられるわけがなく俺は頭をひねった。マイニングか。しかしビットコインは俺にはどうもわからない…やはり株か…。そうこう考えているととマンションの廊下から絶叫。幽霊たちが何かに恐怖しているように絶叫する。始めは一匹の幽霊が「ひょー」というか細い声をだすのだが、それが次々他の幽霊に伝播してそれがしまいに「ギャーギャーギャーウオウオウオ」の大合奏になるのだ。こうなると考えなどまとまらない。俺は町の図書館に移動した。そこからの記憶はない。気が付くとマンションの入り口に立っていて、手に本があった。「鹿の生態」という本だった。俺はゆっくり背表紙を開いた。挟まっている図書カードに貸し出し日が書いてなかった。盗んだのよ、と幽霊が俺に声をかけた。これだ!俺は思わず声にだした。買えないなら図書館の本をそっくりそのまま盗めばいいのだ、ヘウレーカ。神よ我に力を。そうと決まれば話は早い。俺はマンション横の酒屋に置いてあった軽トラの窓を破り、鍵のあたりを破壊し、以前ロードショーでみたように配線をつなぎ、エンジンを動かす。夜の図書館は仮死状態である。玄関のドアをけ破り手当たり次第に本を荷台に乗せた。俺は笑いがとまらない。軽トラがマンションの入り口にたどり着くと幽霊たちの絶叫は更にひどくなっていた。俺は一室一室丁寧にマンションの部屋の壁を本で囲み、幽霊を追い出すんだか、封じこめるんだかしていく、2か月たつと町の図書館の本はすべてマンションに移動できたので、俺はマンションの玄関に『マンション 図書館』と書いた看板を掲げた。好事家とはいるもので、今では本好きが全国から居座って幽霊と半々くらいはいる。
夢がかなうと人はこんな気持ちかと俺は本を点検しながら日々思う。

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