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本の紹介1冊目:神鷲(ガルーダ)商人 深田祐介 ~①~

本好きの桐島です。
さて、本日紹介する本は、深田祐介(1931-2014)作の「神鷲(ガルーダ)商人」(1986年出版 新潮社)です。

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まず、深田さんは、早稲田大学法学部卒業後、旅行代理店勤務時代に作家デビュー、その後に日本航空(JAL)に入って、フィリピンを舞台に、日本の商社マンの姿を描いた経済小説「炎熱商人」で1982年に直木賞を受賞した後、日本航空を退社しています。経済や企業論理に精通した経済作家です。

私が、この本を知った経緯は、以下の文章でした。以前、商社の年配の方から、「昔は、片道切符で現地に派遣された」、「今の商社マンは、昔に築いた遺産で喰っている」と伺ったため、当時の雰囲気を肌身で感じたいと思っていました。

 日本が新興国・途上国市場において苦戦を強いられている原因のひとつは、市場をくまなく観察する人材を投入していないこと、地場企業と交渉を重ねるタフネゴシエーターが少なくなっていることにあるのかもしれない。
 振り返れば、戦後から1970年代まで、日本製品を世界中に広めたのは商社であった。
 顧客獲得のためには命がけという彼らの仕事ぶりは、深田祐介の『炎熱商人』、『神鷲商人』などの小説に垣間見ることができる。
 その後の80年代と90年代はメーカーも自ら市場開拓に乗り出した時代であった。家電メーカーは市場の規模や水準だけでなく、現地の流通制度や庶民の生活様式まで丹念に調査していた。しかし2000年代以降、商社やメーカーが以前のような綿密な市場調査を継続しているかどうかは疑問である。反対に、市場調査を調査会社に委託する、市場の開拓を現地企業に丸投げする、という例をよく耳にするようになった。
 市場調査に特別な技術は必要ない。日本で行っている市場調査と同じことを現地で行えばいい。「餅は餅屋」の視点での市場調査で十分である。ところが、新興国・途上国の市場開拓への派遣人材を選定する際に、TOEICなどの英語力を重視してはいないだろうか。優先されるべきは市場開拓のチャンスとリスクを見抜く能力であり、英語力ではない。まして新興国・途上国にどっぷりつかってしまえば、英語力を話せる現地の人は少数である。国内市場担当者に通訳を同伴させて現地を回る方がずっと効果が高いだろう。

新貿易立国論 大泉啓一郎 6章日本から富裕層マーケットに切り込む P218.219

『炎熱商人』=フィリピン、『神鷲商人』=インドネシアを舞台にしていますが、まずは、タイトルの響きに惹かれて、『神鷲商人』を読んだため、紹介したいと思います。

まず、帯が挑発的です。「危機に現われ国を救うという伝説の神の鷲=ガルーダ インドネシアに群がった日本商社は果たしてガルーダだったのか」

この小説は、フィクションの名を借りた、ノンフィクションです。

深田祐介さんが、中高の同級生だった桐島正也さん(1931-2019)、日・インドネシアの関係者に丹念なヒアリングを重ねました。
桐島さんが勤めていた東日貿易(のちの伊藤忠商事)の、インドネシアの戦後賠償ビジネスが、躍動的なタッチで描かれています。
そこには、スカルノ初代大統領にデヴィ夫人(当時・根本七保子さん)が深く関係しています。

この話は、単なる一商社の話ではなく、岸信介首相やスカルノ大統領が関与していて、戦後日本の根幹となる日本-インドネシア間の経済関係・政治関係・外交関係、全ての根源が形作られた起源話です。

世界の果てまでイッテQ!では、既に80歳近くであるにも関わらず、かなりアクティブに活動しているデヴィ夫人ですが、彼女の人生は、日本の戦後賠償、日本の戦後の東南アジアとの関係と切っても切り離せないものです。

補足情報:デヴィ夫人ってだれ?
●インドネシアのスカルノ大統領の夫人だった。
●1962年に当時インドネシアの大統領だったスカルノ氏と結婚。
●インドネシア国籍を持っていますが、もともとは日本人。結婚前の名前は、根本七保子。
●根本さんは貧しい家庭に育って、家計を助けるために赤坂の高級クラブ「コパカバーナ」でホステスとして働いていて、スカルノ大統領と出会いました。
●根本さんはスカルノ大統領の第三夫人。インドネシアはイスラム教の国。イスラム教では4人まで妻を持つことができますが、4人全員が平等。デヴィ夫人は第三夫人ではあるが、スカルノ大統領の正夫人(平等ゆえ)でした。
●しかしその後、インドネシアでクーデターが起きて、スカルノ大統領は失脚。彼女はインドネシアにいられなくなります。
●スカルノ大統領は、独裁者として莫大な資産を蓄えていました。スカルノ大統領が無くなった後の遺産分割でデヴィ夫人は多額の資産を相続することになったため、セレブな暮らしをしています。(東南アジア ASEANの国 池上彰 P20,21)

それでは、次回、小説の面白い箇所について触れたいと思います。
See you soon.


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