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本の紹介1冊目~続き⑤~:神鷲(ガルーダ)商人 伊藤忠商事の介入

今回は、ガルーダ商人の伊藤忠商事編です。
皆さま、パプアニューギニア(PNG)という国は聞いたことがありますか。

そうです、ニューギニア島という大きな島の東半分を占めるのがPNG、西半分はインドネシアの領土です。真っすぐ引かれた国境線を見ると、人工的だと一目瞭然です。

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PNGは、第一次世界大戦後にドイツ領→オーストラリア領になりました。そして、西部は1949年~1962年はオランダ領だったのです。

インドネシアは、オランダとの1945年から1949年までの4年5か月に渡る戦争を経て、結果的にアメリカが仲介する形で、49年11月にオランダがインドネシアに対して完全主権を与えました。

しかし、西ニューギニア(西イリアン)だけは、手放そうとしませんでした。

そこで、出てくるのが、日本の商社になります。伊藤忠商事の瀬島龍三です。作品中では伊藤忠が、なぜか佐藤忠になっていますが、瀬島龍三は、本名が出てきます。
※瀬島龍三は軍人でしたが、中途で伊藤忠商事に入社して、1960年航空機部長、入社3年目の1961年には業務本部長に抜擢、翌1962年に取締役業務本部長、半年後に常務、1968年に専務、1972年副社長、1977年副会長と昇進し、1978年に会長に就任しました。瀬島の仕事は陸軍参謀時代に培われた人脈を駆使した戦後補償ビジネスの開拓でした。

瀬島は、繊維専門商社だった伊藤忠を総合商社に押し上げた人物です。
彼の地位向上=中堅商社から大手商社への事業拡大です。

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瀬島隆三(1911~2007)

東日貿易(作中では東邦商事)が受注しようとしていた、テレビ局の建設について、スカルノ大統領からの指示が出ます。1961年のことです。

「佐藤忠の瀧島龍三という部長をここの呼ぶように手配して欲しいんだ。つまりこのテレビ局建設の話を、おたくから佐藤忠につないで貰う。そのときの条件として、部長の瀧島をこれらに派遣させて欲しいんだよ」
(中略)
瀬島は戦時中、日本陸軍でニューギニア侵攻作戦を立案した男だ。大統領は彼に頼んで、インドネシア陸軍の参謀の連中と、西イリアン侵攻を協議して貰おうとお考えなんだ」

そして、瀬島がジャカルタに来たシーンです。

ヤニ将軍が、「ゲリラ部隊を西イリアンに上陸させたいが、われわれには船がない」
そう打ち明けると、瀬島は即座に、
「非常に簡単で素朴な方法があります。ドラム缶の筏を作るんです。ドラム缶をならべて浮かべ、板を張って、これに、これに兵役を載せて島伝いに運べばいい。夜間に漁船にこの筏を引っぱらせれば、機密を保てます。しかも相当の大兵力を運べる。日本軍もこの方法を考えていました。」
(中略)
 瀬島の講義と刺し違いの形で、テレビ電波送信機二基、テレビ・スタジオ用諸機材の発注がドイツのジーメンスをおさえて佐藤忠に落札、情報省テレビ準備委員会のスナルヨ・スルヨプラノト副委員長と佐藤忠ジャカルタ支店長との間で、総額105万4344ドルにおよび契約が成立した。

伊藤忠は、インドネシアを強みとしています。地熱発電、石炭火力発電、カラワン工業団地、病院、分譲マンションと各種案件を手掛けています。

最近では、初任研修の語学として、英語ではなく、インドネシア語か中国語の選択制をという話まで友人から聞きます。

結果として、1962年に入ると、インドネシアのゲリラ軍が西イリアンに潜入して、各地でオランダ軍と衝突して、勝利を収めることになります。

その歴史的背景には、瀬島龍三という「昭和の怪物」がいたということをこの本は気づかせてくれました。

【2020年6月4日追記】
上記の内容を、瀬島隆三の正体に迫った「沈黙のファイル」の第一章「戦後賠償のからくり」を参照して、内容を追記致します。

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私が気になっていたのは、どうやって伊藤忠商事が東日貿易が押さえていたインドネシアの商売に参入したのか?という点でした。
すなわち、下記の図の赤字点線の丸印の箇所の関係がどう構築されたのか、ということです。

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本書には、その答えがありましたので、分かりやすく図式化しました。

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答えは、「瀬島の軍人時代の先輩参謀(辻正信)のツテを利用して、東日貿易の久保と知り合った」ということでした。そして、見事に伊藤忠は、初案件として、インドネシア国家警察への日本製ジープ等の車両1000台を受注することになりました。

戦後の歴史は、戦前の延長であるとして、その骨格は1940年代に形成されたことから、日本の現在の仕組みを、1940年体制と言ったりもしますが、戦後瀬島をはじめとして、戦争を戦った数々の軍人が社会的に高い地位を占めたため、そこからビジネス案件も形成されたことが良くわかりました。

See you soon.


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