ドラゴンテイル

「ドラゴンテイル」
あらすじ
昔、ドラゴンがいた。そのなかには、性格のよい竜もいたが、逆に悪竜もいた。
竜狩りという竜の能力を奪う人間もいた。
舞台は、とある都市。剣道部に所属する十四歳になる主人公、聡は、剣の力に目覚めることになっていた。
誕生日前に、現れた女性、天竜凛。
彼女の登場とともに、鈴木というクラスメートから炎を吐かれ、聡は命を狙われた。
戦いに巻き込まれた聡は、さまざまな出会いと戦いとともに、成長していく。

剣を操る能力と自分のなかにある欲望と戦う聡。
強力な敵、うまくいかない自分の力不足にぶつかりながらも、強くそしてあきらめずに立ち向かっていく聡。それらを克服したときに、聡は強力な力を得ることとなる。
さまざまな人間と竜たちと協力することで、一人ではなしえなかったことをおこなっていく。

序章 むかしむかし
ドラゴンが昔いた時代があった。
大きな竜は、恐竜として知られている。
歴史上の生物学や歴史学や博物館で、恐竜は過去の大きな生き物だと紹介される。
地上では、敵なしといわれた恐竜。
実際に、人間以上の知能を持っていたものもいた。
空と陸と海に竜はいた。それぞれの国に竜がいて、自然を統治していた。
原始時代の人間の力は弱く、竜に手助けしてもらっていた。人間と竜はうまくやっていた。
力を持たなかった人間の国に、竜が必要だった。
しかし、時が経て、竜は絶滅の危機に追い込まれた。
自然の変化と人間の竜狩りが始まったからだ。地球環境が変化し、寒くなった。
人間が、火という自然を操り始めたことも大きな変化だった。
竜たちの食料である動物は、その寒さに耐えるために、森のなかに逃げた。それをとらえられたのは、身軽で小さい人間だった。大きな竜は、森のなかに入っていくことができなかった。
竜は、食料がなくなり、食べられなくなり、次第に弱っていった。
また、人間から攻撃され、徐々に数が減っていった。
人間の欲望と人間の生き方が竜を絶滅へと追い込んだ。
そんななか、人のなかで竜を生き延びさせるという方法がとられた。
竜と人間の共存である。頭のよい竜はこうして子孫をのちに生き残らせる方法をとった。
竜の能力は人間のものとなり、人間のなかで竜の魂は自由に育った。
竜神、竜人と呼ばれ、人間のなかでも、高い地位について主に組織の長となった。
人間には、いい人と悪い人がいるように、いい竜と悪い竜が存在した。
もともと竜はおだやかで、知性的で、自然と調和し、人間と仲良くやっていた。
しかし、自然環境の変化、人間からの攻撃によって、生き延びるために、竜もその本質が変わっていった。人間を嫌う竜もいる。その逆もいる。
考え方の異なる人間と竜は、今でも存在する。

一章 凛との出会い
ここは、日本の「ある都市」。
人工的に作られた建物。一般的に、人間が作ったものは、きれいだと思われる。
自然の美しさをマネして、うまく作ろうとしてもやはり人工物。自然の美しさにはかなわない。その都市のなかにまぎれるように、僕は生きていた。
いや、隠れていた、隠されていたというほうが正しい表現かもしれない。
誕生日を迎える。
十四歳になる。そんな今日から、人生が変わるなんて思っていなかった。
普段と変わらない道のりで、葵中学校に登校した。
学校へは歩いていく。今日も剣道。勉強。帰宅。その繰り返しで毎日やってきた。
剣道は、小学校のころから、父親にすすめられて、やっている。
その剣道がいつか役立つときがくると父はいう。
父にほめられたかったので、部活を頑張った。
小学校のとき、県内で三位に入った。
その記録をもって、推薦入学で今の葵中学校に入学したのだ。
県内も屈指の強豪校だった。そこでは、さらに強い相手が待っていた。
毎日の部活が勝負だった。
でも、剣道は、相手との間合いの取り方や攻撃と防御の読みあい、攻撃をしかけるときのあのドキドキ感が好きだ。いいものに出会ったと思う。
その剣道を勧めてくれた父は、僕が中学校に入学する前に、姿を消してしまった。
「転校生だって、聡」と僕のクラスメートがいう。
転校生がくるという。学校の噂はすぐに広まる。
授業が始まり、担任の先生のそばに女の子が立っていた。
先生は、女の子に自己紹介をうながした。
「自己紹介をどうぞ」
「天竜凛です。隣の町から来ました。よろしくお願いします」
黒髪で、黒い目。吸い込まれるような目だった。先生は、あいている席を指さした。
「山本聡くんの隣に座ってね」
「はい」
かわいい。きれい。そういったひそひそ話が聞こえる。
僕の隣に座った天竜さんは、「よろしく」とささやいた。
「ああ」と僕は思わず、見とれていたので返事が遅れてしまった。
クラスのなかの女子とは違い、もっと遠い違う世界を見ているようなそんな目をしていた。
授業のなかで、先生が日本の歴史について話していた。
「江戸時代、徳川家は」と江戸時代について説明している。
「本当の歴史って知っている?」と天竜さんは、先生が黒板に向かって書いている間を狙って、自分のノートにそう質問を書いて、僕の机の上に、置いた。
「本当の歴史って」と僕はノートに書き返し、彼女の机に置き返した。
「知りたいなら、昼休みの時間にあまり人がいないところにつれてって」と彼女からの返事。いきなりの展開に僕は驚いた。
彼女は、余裕な表情で笑っている。
女の子に誘われているっていう状況。ほとんどないケースだ。
「屋上で」と僕はノートに書いた。
天竜さんはうなずき、前を向いた。

昼休みはあっという間にやってきた。僕は、天竜さんを案内する。
階段をのぼり、屋上へと向かう。カギがかかっているが、僕はそのカギの開け方を知っている。僕の唯一の秘密の場所。それが屋上だった。
「やるねー」
カギをあけた瞬間に、天竜さんは声をかけた。
屋上の入口のドアをあけると、心地よい風が吹いているのを感じた。
その風で、天竜さんの黒髪がさらりと揺れた。
「気持ちいいね」
「ああ」
ここは、僕のお気に入りの場所なんだ。
「あそこに街が見えるだろう。自然もある。のどかだ。こんな街が僕は好きなんだ」
「そう。いい生活を送っているのね。うらやましいな」
「天竜さんも、きっとこの町を好きになると思うよ」
「うーん。でも、あまり長くはいられないような気がする」
どうしてなのだろう。天竜さんと話をしていると、胸がドキドキしていた。
彼女の鋭いシャープな顔と力のある瞳。今まで、出会ったことのないタイプの女の子だった。
「本当の歴史って何」と僕は、さきほどの内容を聞く。
「あなたには、天からのギフトがあるわ」と天竜さんは、意味のわからない言葉を口にした。ギフト。最初、何を言われているかわからなかった。
「明日、十四歳になるんだよね」
僕にとって特別な年になる。でも、どうして知っているのだろう。
「運命は、十四歳で大きく決まる」といった父のことを僕は最近になって思い出すようになった。十四歳が近づいてくるにつれて、僕の人生で何が起きるのだろうと、期待と不安が入り混じった気持ちになる。
父は僕が十歳のころ、どこかへいってしまった。
場所すらつげずに。母はとても悲しみショックをうけたが、生活を支え、僕は父の存在なしで、四年間過ごしてこられた。
「あなたは、十四歳で世界を変えるわ」
「えっ」と、もう一回と聞こうとしたときに、人が近づいてくる気配を感じた。
「せっかくあなたに本当の歴史を教えようと思ったけど。敵がきたわ」と天竜さんは、低く警戒した声色でいった。
「君が天竜か。噂になっているよ」
「鈴木か」と僕は屋上に突然、現れた男の名前をいった。
となりのクラスの問題児だった。
気が荒い男だと、うわさだった。あまりかかわりたくない。
「天竜、いい名前だな。すぐにわかったよ」
何がわかったのだろう。
鈴木の目は赤く充血しているように見えた。
さきほど天竜さんがいった鈴木が敵ってどういうことだろうと思った次の瞬間、炎を鈴木はふきだした。炎は僕と天竜さんに向かってくる。
左右に逃げようにも、逃げようがなかった。巨大な炎だったからだ。
ああ、人生、終わったと思った。
いろんなことをしたかったなと目を閉じた。
部活でもやり残したこともあるし、これからだって明るい未来が待っているかもしれないのに。天竜さんとも知り合ったばかりなのに。
でも、天竜さんは片手でその炎を防いだ。
炎は川の流れのように、天竜さんの前で、折れ曲がり、左右にわかれた。
炎を吐くのをやめた鈴木は、「さすがだ」と鈴木は拍手した。
「あなたは、このタイミングを狙っていた。私を殺すため。静かなところで誰にも知られず。でも、無理よ」
「それはどうかな」
鈴木は僕らに向かって、走り始めた。
いつの間にか、鈴木は剣を持っていた。
天竜さんにめがけて、大きく振りかぶる。
天竜さんは、僕の前に仁王立ちして、腕で防御した。
腕がきれてしまったと僕は思ったが、キンという固い音がした。
剣が折れていた。腕で剣を折った。ありえない、信じられない。
「このやろ」と鈴木が口にする。
その折れた剣を捨て、鈴木は素手で、天竜さんに向かって殴りかかった。
天竜さんはそれを軽々とかわしていく。
「まだまだ下端ね。あなた」と天竜さんは、鈴木の攻撃をすばやいステップで、かわし、鈴木めがけて、ボディブローをはなった。
「うっ」と短い声を出し、鈴木は倒れた。
振り返った天竜さんは、「こんなのが今から山ほど私とあなたの命を狙ってくるわ」といった。
「誕生日を過ぎたあなたは目覚めるのよ。でも、その前を狙って殺しにくるわ。私はあなたを守るためにやってきた」
「そうなの」と僕はやっと言葉にできた。目の前で起きていることを理解するには、僕には時間が必要だった。
鈴木は倒れながら、何かのボタンを押していた。
「誰かにメッセージが伝えられたかもしれない」と僕は不安な声を出した。
「さて、学校から逃げるわよ」と天竜さんが急いで、僕の手をひっぱる。
「でも、天竜さん。そんなことをしたら、先生に怒られてしまう」と僕は、いった。
「死ぬより、ましでしょ。怒られることくらい」と天竜さんはいいかえす。
「あと、私と一緒にくるなら、凛と呼んで。天竜というのは、確かに目立つ名前だから」
この男もそれで簡単に気づいたのだろう。
「わかった。じゃ、凛。僕らはどうすればいい」
「まず、逃げる。そして、あなたが強くならなければならない」
剣道はできるが、けんかは嫌いなほうだ。
さきほどみたいに、炎を手で防ぐことができるわけでもなく、剣を折れるわけでもない。
「武器をあげるわ。それをもとに修行をある師のもとで行ってもらう」
短剣だった。短剣を持つと、不思議な感覚になった。なつかしい。なぜか父を思い出した。
「人生には、どうしようもない運命にまきこまれる時がくる」と確か、父が僕にいっていた。
「さ、早くいくよ」屋上から一気に一階まで階段を降りた僕らは学校をあとにした。
学校から家まで結構距離があった。僕は身支度をしなければいけないと思っていた。
凛もまだ追手がくるまで余裕があると思っていたのだろう。
鈴木によって、知らされた情報で、予想よりも早く僕らは追われていた。
「おや、君が守護神か」と背の高い男が笑いながら話しかけてきた。
僕らの行く手を阻むように男は道をふさいだ。
「私は、権田というものだ。いきなりだが、死んでくれ」
「逃げて」と凛は叫んだ。
左側の脇道から逃げようとした。
「いや、逃がさないよ」といつの間にか、脇道にはまた背の高い男が一人。
後ろに一人、左右に一人ずつ、そして行く手に権田と名乗った男、四人にかこまれていた。
「死んでくれ」と権田がいった。
四人の目が一斉に赤くなった。鈴木のときと同じだ。
四人が同時に、炎をはいた。
今度こそ、終わった。今日で、短い人生が終わったと思った。
目を閉じた。熱い。でも、生きている。さきほどと同じ展開である。
凛が両手を広げて炎を止めていた。
どういう仕組みか知らないが、助かっている。
「私のカバンをひろって逃げて。カバンのなかに地図があるわ」
凛は赤い目をしていた。
四人と同じ赤い目。
「君はいったい」
「あとから、あなたのあとを追うわ。早くカバンを」と、凛が叫んだ。
凛のカバンを拾った。
四人のはく炎をかろうじて防ぎつつ、凛は僕を足で蹴とばした。
えっと思った瞬間、僕は強い力で空に浮いていた。
なんという力だろう。僕は近くの川まで飛ばされた。
川の水のおかげで、全身けがすることはなかった。
息を整えたあと、家のある方角を見ると、赤い炎が見えた。
凛は大丈夫だろうか。
あの人数が相手だといくら凛でも、だめかもしれない。僕は助けられた。
カバンのなかには、地図が入っていた。
「岐阜県」と書かれていた。
詳細な地図を見ると、山のなかに修行する場所があるらしい。
迷ったが、僕は、岐阜へいくことを決めた。自分の無力さがくやしかった。強くなりたかった。また、彼らが、恐ろしくて、彼らから逃げるように僕は岐阜へと向かった。
岐阜へは、電車を使っていくことにした。景色を眺めながら、遠のいていく町並みを見た。
携帯電話の機能を使って、テレビを見てみると、僕の家が全焼したということがわかった。
「何者かによって放火されたもよう。詳しくは、消防と警察が調べている」とテレビのアナウンサーがいった。
信じられなかった。
僕の家が燃やされた。僕の大切なものや母の大切なものがなくなってしまった。
僕は、本当にどうしたらいいのだろう。
岐阜に向かう電車のなかで、僕は震えていた。
これからどうなっていくのだろう。

二章 伝説のもとへ
岐阜県についた。それまでで、持っているお金を全部使ってしまった。
地図にある場所はまだ遠い。
そこを目指して、ヒッチハイクするしか手段が浮かばなかった。
行きかう車に手を出し、ヒッチハイクのサインをおくる。
何回も無視される。
そんなにうまくはいかないと思っていた。
難しいなと思った。
何回もチャレンジしたあと、トラックの兄さんに拾ってもらった。
「なかなか、勇気があると思ってよ。乗せることにした」
「ありがとうございます」と僕は丁寧にお礼をいう。
「どこに向かえばいい」
僕は地図を広げて、しるしのついている場所をさした。
「山奥じゃないか。どうしてその場所を目指しているんだ」と当然のごとく質問された。
「知り合いがいるんです」
「まるで仙人の住むような場所に知り合いじゃねぇか。それはおもしろい」とトラックの兄さんは笑った。
僕は、トラックに乗せてもらい、今日起きたことをやっと整理することができた。
ごく平凡な毎日が変わってしまう出来事が1日で起きた。
火をはく人間。剣を折る人間。いったい、どんな怪物だ。
権田という人物がいった、死んでくれという言葉。
自分の将来が不安になった。家がなくなって、どうしたらいいのか。
しばらくして、トラックはゆっくりととまった。
「ほら、ついたぞ」
目的地までは、歩いて行ける距離でおろしてもらった。
「ありがとうございます」とトラックの兄さんにいい、トラックから降りた。
「なんか、知らないけど。がんばれ」といい残し、トラック兄さんは去っていった。
助けてもらって勇気が少し出た。
いい人との出会いもあるのだ。

5分ほど歩いただろうか。地図を見ると、もうすぐつく距離だった。
あたりは暗くなってきた。
夜になる前に、早く目的地につかなければ。
暗い中に、ひっそりと明かりが見えてきた。
小屋があった。地図と照らし合わせると、そこが目的地だった。
「あれだ」と僕は安心して、大きな息を吹いた。ほっとしたからだ。
小屋のドアベルを鳴らした。
「誰だ」という警戒する声がドア越しに聞こえた。
「天竜凛さんの紹介できた山本聡というものですが」
「凛の紹介か」
ドアが開いた。
剣をかかえた男が出てきた。鋭い目、警戒しているようだ。
「で、凛はどうした。一緒じゃないのか」
「炎をはく男たちに取り囲まれてしまって」
「やつらか」
「いったい何者ですか。やつらって」
「命を狙うものだ」
「命を狙うって殺人ですよ」と僕は、驚きの声をあげた。
「そのようなことは関係ない。やつらにはいろんな手段と武器がある」
「とりあえず、ここにきたのは、ここで凛に修行するようにいわれたからですけど」
「ならば、君が選ばれしものか」
「選ばれしものって」
「十四歳にはなったか」と聞かれた。
明日なりますと答えた。
「ナイスタイミングだな」と男が笑った。
僕に何ができるのだろう。
「俺の名は、マルクスと呼んでくれ。偽名だが。君の名は確か聡といったな」
「はい」
「明日から修行だ。その短剣を使って」とマルクスは僕の持っているカバンを指さした。
カバンのなかには、確かに短剣があるが、マルクスにはそれが見えない。
なぜ、剣を持っていることがわかったのだろう。
なぜと聞く前に「今日はゆっくりと寝なさい。疲れただろう」といわれ、僕はマルクスの言葉に従い、小屋のなかの一室のベッドで眠りについた。
誕生日の夜を迎えた。僕は夢を2つ見た。
「聡。私はなんとか生きているわ。でも、回復するまで身を隠すわ」と凛の声が聞こえた。
「選ばれしもの。あなたの力が世界を救う。しかし、滅ぼす可能性もある。気をつけよ」と知らぬ誰かの声が聞こえた。
「目覚めよ」
目を覚ますと、うすい光が窓から差し込んでいた。
もう朝か。不思議な夢を見たな。
短剣を見た。短剣がうっすら光っていた。
白く光り、黒く光る。黒く光り、白く光る。呼吸をしているように光っていた。
握ってみた。
握ったとたん、一気に力がみなぎった。今まで感じたことのない力。
剣道の竹刀とは違う。剣が力を与えてくれる感覚がした。
振り回してみたいと思った。何かを壊したい。そう思い、外に出た。
大きな岩があった。ためしに、振ってみた。
一度目は、何も起こらなかった。剣は軽い。
二度目に、より大きく振ると、ドンという音とともに、岩にひびが入った。
「やるじゃないか。でも、コントロールできてないな。やはり」
マルクスがいつの間にか、僕の後ろに立っていた。
「これくらいはできないと」
マルクスの持っている短剣は大きな剣に変わって、マルクスは岩に向かって、剣を振った。
そうすると、岩には鋭い閃光が走り、斜めの剣筋が大きく岩にしるされた。
「これくらいで、ようやくやつらに攻撃できる」
「やつらってあの男たちですか」
「そうだ。世界中に散らばっている組織だ」
僕は、息をのんだ。組織。
「組織って、何人くらいいるんですか」
「凛から何も聞いていないようだな。全員で、そうだな。100人はいるだろう」
「100人も」
あの四人でも、恐ろしい力を持っているのに。
「そいつらが、恐れているのは、君の才能だよ」
「僕の才能」
マルクスは僕の何に期待しているのだろう。
「その前は、君のお父さんだったが」
「え」
僕はマルクスの意外な答えに驚いた。
「父さんの何を知っているんですか」
「ああ。君のお父さんは、ギフトを持っていた。剣を自在に操れるというギフト。そのギフトは、君にももちろん、伝えられている」
「父さんは、どうして僕のもとから消えたんですか」
「それは、わからないんだ」
マルクスは、強く僕の目を見ていった。
「でも、俺は君のお父さんとともに、世界を守っていた」
世界を。そんなことを父さんはしていたのか。
「さ、朝飯が終わったら、修行を始めるぞ」とマルクスは、いった。
僕は、目覚めたらしい。
凛からもらった短剣を操れるらしい。
でも、なかなかコツがつかめなかった。
マルクスは集中力と心の想いが剣に伝わったときに、剣の力が発揮されるといった。
破壊力。移動術。変形。
その3つがそろったときに、ようやく戦う基本ができるようになったといえるらしい。
マルクスは、丁寧に忍耐強く教えてくれた。
破壊力をつけるために、ものを壊すイメージをすること。
移動術をつけるための走りかたやいろいろなステップ。
変形する剣も、自分のイメージ通りになることをみせてくれた。
マルクスは、自分の剣を長くしたり、引き伸ばしたりした。
「これを繰り返すことで、剣をどう扱うかというトレーニングになる」
それらを身につけるのが、課題だった。
剣道で習ったこと以上の発展した技術だった。
ステップも剣道の間合いのとりかたとは少し違い、とまどった。
「心を落ち着かせて。息を吸って、吐く。そして、剣に集中する。ステップも忘れずに」
僕は、言われたとおりに動く。
しかし、頭でわかったことと体で動くことはうまくかみ合わなかった。
「よし、少し休憩」とマルクスがいった。
お茶を飲みながら、マルクスは僕にこういった。
「君には、何か迷いがあるらしい。集中すべきときに、最後の力が出せない。何が心のなかにある」
「僕のなかには」
家がなくなったことが相当ショックだった。これからどう暮らしていけばいいのだろう。
母は大丈夫だろうか。僕の将来は。
考えるだけで、気分が落ち込む。
また、僕の心には、凛を心配している気持ちがあった。
それらの思いをマルクスに直接に伝えた。
「家が燃えて、どうすればいいかわかりません。母のことも心配です」
テレビで見た家が放火されたことを伝えた。
「家がなくなったのは、とてもつらいだろう。これはやつらのせいだ。でも、それは考えてもどうしようもないことだ。考えてどうにかなるものとならないものがあるというのが、つらいだろうが、現実だ」とマルクスは、苦しげにいった。
「凛のことも心配です」
「彼女は大丈夫。生きているよ。そう簡単に死んだりしない」
「その理由はなんですか」
「だって、彼女は竜族だから」
「リュウゾク。竜族って。あの想像上の」
「ああ、その通り。でも、実際に存在するがね」
凛が竜。
信じられなかった。
でも、炎を防ぎ、剣を折るような固い腕。
普通の人間にはできないことだ。
僕がそう考えているとマルクスは、「とにかく、彼女は大丈夫だから」
「まずは、自分の心配をしなさい。あと、数日後には、剣の変形ぐらいはできるようになってほしいからね」

移動のステップは何とか覚えた。
何度も体にしみこませる。
移動。かわす。そして、攻撃のステップ。徐々に慣れてきた。剣道をやってきた経験がいかされた。
できないのは、破壊力と剣の変形だった。短剣は短剣のままで、自由に剣を変形できるなんて思えなかった。
マルクスは、粘り強く教えてくれた。
その教えにこたえるためにも、僕は剣の変形をマスターしなくてはならないと思った。
修行3日目、テレビでニュースを見ていると。
「岐阜県で家が燃えたような形跡があり、目撃者によると男たちの放火による模様」
僕は、ピンとはこなかったが、マルクスはこのニュースを見て、ついに奴らが君を探しにきたよといった。 
「もう、この小屋にはいられないだろうな」といった。
移動することになった。
凛からの連絡はないが、マルクスは昔、仲間の隠れ家だった場所にいこうといった。
「神奈川県に向かおう」
移動の途中で、あの男たちに出会ってしまった。
なんていう不運。「見つけた」と叫び、追ってきた。
片手に携帯を持っている。仲間を呼んでいるのだろう。
神奈川行きの電車がくるまでもう少しなのに。時間を稼ぐ必要があった。
マルクスがポケットから剣を取り出す。
短い剣は、マルクスが祈りを込めると、大剣になった。
僕も短剣を取り出す。修行の成果を出す実戦だった。
心臓がドキドキしているのが、聞こえるくらい、緊張していた。次は、見るのではなく自分が戦うと思うとドキドキが止まらなかった。
男の目が赤くなった。
「炎が来る」と僕はマルクスに向かって叫んだ。
「わかっている」とマルクスは、大剣を振った。
剣のふりとともに、ものすごい風が吹いた。炎をふく間もなく、男は、空中に飛ばされた。
その間にマルクスは、剣に祈りを込めた。大剣は、鋭く切れ味のよさそうな剣に変わった。
マルクスは、次に、足を動かすステップ、移動術を使った。
僕もマルクスにならって、移動術を使う。マルクスは、男に斬りかかる。
男は防御するも、剣の攻撃はきいているようだ。
僕は、破壊力を使い、男にめがけて、衝撃波を放った。
僕の攻撃がヒットした。やったと心のなかで、喜んだ。
「いてぇ。ちくしょう。奴は、目覚めかけている」と男はいった。
少し気分がよくなった僕の後ろに敵がいた。油断していた。
「聡、後ろ」
炎が飛んできた。ステップでなんとかかわす。
「強くなった。これ以上、野放しにはしておけない」と権田がいう。
「君たちには、ここで死んでもらう」と別の男がいった。
「我々には剣者だけでは勝てない。」
四人全員が集まっていた。
あのときと同じだ。凛が僕を守ってくれたときのよう。
男たちは作戦を変えたようである。
すばやい勢いで空気の斬撃をマルクスに向かって放っている。
ステップを使ってマルクスは、攻撃をかわして、攻撃のチャンスをうかがっている。
どうすればいい。
僕の剣があわい光を帯びた。
「破壊力をためろ」と、どこからか声がした。
僕はその声に従った。
「破壊。破壊」と僕は念じた。
剣から黒い光が出てきた。力が満ち溢れた。地面が揺れる。
異変に気付いたマルクスは僕に向かって叫んだ。
「力をコントロールしろ、聡」とマルクスの大声がする。
僕は、暴走する力をコントロールできそうになかった。
「これは都合がいい」
マルクスと戦っている男がいった。マルクスの意識が僕に向いて、すきが生まれたのだ。
マルクスは、男たちの一人によって、距離をつめられた。剣と腕がぶつかったまま、男と一緒に、地面まで急降下した。
「くらえ」
ほかの男が炎を吐く。
炎がマルクスのもとに向かってくる。かわすことはできない。
マルクスは、防御の剣を使った。
剣で大きく丸い円を作り、マルクスは自身を守っていた。
「マルクス。マルクス」と僕は叫んだ。
「闇にのまれる前に。剣をしまえ」とマルクスは叫んだ。
僕は、黒い剣を鞘に力づくで、なんとかしまいこんだ。
手が黒く変色していた。
そのとき、貨物列車が駅に到着した。
心のなかで、声がした。
「聡、俺が隙をつくるうちに、貨物列車に乗り込め」
マルクスは炎をはねのけ、男たちに向かって攻撃をした。
いままで見たことない剣の形だった。
剣の斬撃で、風が巻き起こった。周りの視界が見えなくなった。
そのすきに僕は、たどり着いた貨物列車に飛び乗った。
こんなに悔しいのは、二度目だ。
凛もマルクスも自分のことを守ってくれた。でも、自分は無力だ。
ちくしょう。ちくしょう。
「じゃあな。聡。あとは、頼んだぞ」とまた、心の声がした。
貨物列車は、勢いを増して去っていく。
大きな爆発音がした。
「ちくしょう」と僕は涙を流して叫んだ。

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