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2016夏・豊﨑由美さんが文庫を買う! 週刊読書人文庫企画//本紙に載らない本棚トーーーク♪ ①

 週刊読書人7月29日号の文庫特集「文庫を買う」企画では、書評家・ライターの豊﨑由美さんにジュンク堂池袋本店で、25冊の文庫を選書してもらいました。何が選ばれたかは、本紙をご覧いただくとして……ここでは版元別に並ぶ文庫棚の前で選書しながらの、豊﨑さんの棚前トークを、お楽しみいただきましょう。これを読んで何が選ばれたか、想像するのも楽しいかも。
 本紙企画では、豊﨑さん選25冊を、読者1名にプレゼントします。詳細は本紙で!(編集部)


 「中公文庫、莫言の『白檀の刑』が文庫になっている! 保坂和志さんの『小説の自由』、谷崎の『潤一郎ラビリンス』も素晴らしい。でも一冊なら、『ギケイキ』の著者の900頁弱の厚みをもつ大著を選びましょうか」

 「ポプラ文庫、この小説のモデルは、著者自身の初恋の人だとか。私がこの作家の本を選ぶ、というのが面白いでしょう。若い頃は悪くない小説を書いていたんですよ」

 「『彼女がその名を知らない鳥たち』も好きですが、この人の作品は、まずこれを読んで欲しい。双葉文庫は、猫を描いた絶品を選びます」

 「今の若い人は幸せだと思う。光文社古典新訳文庫は、各社で絶版になった作品を拾い上げて、名作を新訳で、しかも文庫で読ませてくれるのだから。『アウルクリーク橋の出来事/豹の眼』は『悪魔の辞典』のビアスの作品ですが、彼は短編作家としても、奇妙で味わいのある作品を書く人。ナボコフの『カメラ・オブスクーラ』も入ってますね。『神を見た犬』ーーブッツァーティ大好きです。『カンディード』はヴォルテールの大傑作。私は岩波版を読みましたが、その魅力は速度。この時代にこれほど展開がはやい小説を書いたとは。元祖コンデンスト・ノベルです。フランスのロマン・ノワールの書き手、マンシェット『愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える』もいい。クールで無残で滑稽で。長らく絶版で読めなかったんですよ。
 あっ、読んだことのない、突飛な内容のアンソロジーをみつけました。もう一冊「猫」の本」

 「西村寿行さんは、これまであまり読んだことがなかった。『君よ憤怒の河を渉れ』は有名ですよね。あ、これは、杉江松恋さんが苦労して編んだ本。徳間文庫は、この本を押したいと思います」

 「祥伝社文庫には、花村萬月『笑う山崎』が入ってるんですね。半村良、三浦しをん、朝倉かすみ、折原一、恩田陸……。富樫倫太郎は、ダメな人間が多く出てくるところが好き。樋口毅宏さんの『民宿雪国』も面白いですけれどねぇ……。
 ここは、語りが達者で外れなしの、京都を舞台にしたこの小説にしましょうか」

 「種村季弘『贋物漫遊記』がある! オリジナル復刊企画なんですね。丸善ジュンク堂の店員とお客さんのリクエストで、ちくま文庫から復刊とは、ありがたい試みです。
 サブカル二大巨頭として、若い頃は澁澤さん派だったけど、30歳を過ぎてから、種村さんに惹かれるようになりました。澁澤の方が発見力があるように見えていたけれど、実は、種本をきちんと明らかにしていた種村さんが、誠実だったということです。種村さんは、詐欺師とか犯罪者とか、ダメな人をピックアップする、センスも好きでした。

 マルケスの『エレンディラ』を長いこと生かしてくれてますね。岸本さんのエッセイは『ねにもつタイプ』とか、脳内の発想力が面白いですよね。獅子文六の本も、復刊していますね。獅子文六のような人気作家は、死ぬと作品が一斉になくなってしまう。だから再発見されて、こうして残るのはうれしいことです。〈ベンヤミン・コレクション〉や、理系のシリーズ、〈ちくま日本文学〉のシリーズや、〈文学の森〉シリーズを文庫に落としてくれているのもありがたい。
 迷いますが、そんなちくま文庫からは……とてもいい作品が入っているので、この英文学アンソロジーにします」(その②につづく)

 本編、「豊﨑由美さんが文庫を買う」は、週刊読書人7月29日号です!
豊﨑由美セレクトの文庫25冊(2万5千円相当)の詳細も本紙で!

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