まっかなドレス


僕がまだ沖縄で暮らしていた頃のお話



小学5年生秋頃

僕らは学校行事で
二泊三日の課外授業に行った

 

1日目は宿泊施設の大きな部屋に
クラスメート全員
男女別で詰め込まれ一夜を過ごし


2日目は4人のグループに分かれて
昼からテントを設営
野外キャンプをする



 という二日間のスケジュール



みんなのワクワクが詰まった
行きのバスの中

隣の席のFくんが
お兄ちゃんからこんな話を聞いた 
とニコニコしながらある噂を語り出した




僕たちが初日に泊まる
宿泊施設は
三階建てのアパート(のような施設)が
2棟に分かれており
そこを繋ぐ渡り廊下があるという


その渡り廊下には


夜な夜な
あかいドレスを着た女性が
立っている

という怖い噂だ

 

宿泊施設は毎年同じらしく
Fくんのお兄ちゃんは
先輩からその話を聞き、
それをFくんに教えたのだ

きっとFくんのお兄さんに
噂を授けた先輩くんも
べつの先輩くんから聞いた話なのだろう





僕は正直幽霊に対して
そこまでの恐怖心がなかった

存在は肯定していたし
その後の人生で
幾つかの心霊体験も味わっているが

当時はそんな体験をした事も無く
恐怖心が薄いため
やんわりと
 



「幽霊がいるキャンプ施設か〜
怖いね〜」





当たり障りの無い返事をした
ことを覚えている

シートベルトも付けず
はしゃぐFくんは
背もたれの頭を抱えて顔を出し
後ろの席に声をかけた




「ねぇ、Nくん!前話したことだけど」



「わかってるよ」



日焼けで真っ黒坊主 野球部の男の子
Nくんは見た目や所属団体に似合わず
超霊感体質だった



あまり話をしたことはなかったが

おばぁがユタ(沖縄の除霊師・祈祷師。
古くから存在する沖縄ではポピュラーな職業)
という
カッコウがよろしい血筋なことは
クラスでは有名であり


彼の家は
おばぁ  母  姉とNくんが
霊感を持つという
スペシャルゴーストファミリーだった


スペシャルゴーストファミリーは
霊側か、、、



Fくんはこの話をNくんに話しており
あかいドレスの女が真実か
判断して貰おうとしていたのだ

Nくんは野球部にしては
熱血感が皆無で飄々としており
「いいよ〜 帰りのバスで答え合わせしようよ〜」

とゲーム感覚で僕らに提案をした





沖縄特有の熱帯的自然に佇む
宿泊施設は

すこし古びたアパートのようないでたち

そして



緑色で錆に塗れた渡り廊下が
異様な雰囲気を醸し出している



ちかくには大きなガマ(唯一地上戦が行われた沖縄で砲弾などから身を守る為に
住人たちが身を寄せ集まった自然洞窟のこと)があり

施設の方の話によると

戦時中
そのガマには
手榴弾が放り込まれたり
火炎放射器でガマの中を焼かれるなどして
酷い惨劇が広がっていたとのこと



とても怖いと感じた

僕が幽霊をあまり怖く無い理由は
人間の方が怖いことを知っているからである。





様々なレクリエーションが終わり

10人ちょいが寝るにしては
だいぶ狭い部屋に僕らは詰め込まれた



わいわい ガヤガヤ




わいわい ガヤガヤ




騒ぎすぎて
先生に怒られつつも
21時〜22時ごろには
静けさが部屋を包み出した





だいたい
24時を超えた頃
肩を揺らす感触


Fくんだ


「渡り廊下にいこう!」



ぼくは重い瞼と眠気にイライラしつつも
軽い尿意を感じて
その意見に賛同した

「トイレいきたい」

とFくんに言うと



ざわざわざわざわざわざわざわざわざわ

俺も おれも  オレも  OREMO

ざわざわざわざわざざわざわざわざわざわ


とほとんどの輩が笑いながら起きてきた



後から聞いた話だけど
どうやら
あかいドレスの噂は有名だったらしく
ほとんどの生徒が認知しておったそうな
みんなそれなりにビビっていたようだ




沖縄北部は
僕たちが住む町に比べ星々がよく見え
夏の夜風はだいぶ冷たくなりかけていた


トイレのあとにFくんを含めて
数人で渡り廊下を渡っている





「コラ!なーにしてるの」






ビクビクビックーーーーーーーーーーー!!!



ジブリのキャラクターぐらい
身震いをして振り返る

そこには付き添いで来ていた
英語の先生(女性)がいた

そしてその姿は



妙齢にしては




なんというか




なんとも言い難いパジャマ




まるでこの後見る夢
すべてが悪夢に変わるための儀式




悪魔





もとい




絶対に会いたく無いタイプの夢魔



そんな 姿をしていた



すいません すいません すいません
と極力目を合わさずに
僕らは部屋へ急ぎ足で戻った





翌日の夜中
テントの中
その恐怖映像を見たFくんを含めた数人で


あかいドレスよりも
こわいものを見た、、、、と嘆いた


しばらくは脳裏から離れないね  と


こうして


たのしい2泊3日は
嫌な記憶をお土産に幕を閉じたのである









かえりのバスの中



Nくんに霊の件について
問うてみた

しかし
Nくんは酷く疲れており
頭が痛いと嘆いていた



「 Nくんもアレを見たのか!あれはキツい!!!」



とFくんが大きな声で喚いているのを尻目に欠伸を繰り返すNくん


「眠れなかったんだよね
とくに1日目はほとんど徹夜だったからさ」



「なんで? あかいドレスの女のせいとか?」



「いや、あかいドレスの女はいなかったよ」





「ただ」





「ただ?」






「全身まっかに火傷して
身体中の肉がただれ落ちてる女が
夜中ずうっと呻きながら徘徊していて
うるさかったんだよね」


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