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制服に潮風の香り


上京してすぐの五月
友人とビーチで行われる
夏フェスに遊びに行った際には愕然とした

そのビーチから眺める大海は
豪雨が起きた翌日に突如生まれた
大きな水溜りにしか見えなかったのだ

友人も沖縄の人間であるがために
『ヘドラでも産まれるのか?
それともヘドラは此処で死んだのか?』
と皮肉を言い合った



青空と海の境界線がまるで分からない

それほど透明な海を見たことがあるだろうか?



二月に友人の結婚式があり
約八年ぶりに故郷『沖縄』へと帰郷した

様々な問題により行きあぐねていた
懐かしの故郷だが一度帰ると大変楽しく
十月に今年二度目の里帰りを
上京済みの友人と決行した

台風がわんこそば感覚でじゃんじゃん
上陸する秋の沖縄だが、今回ばかりは
晴れ男と名高い僕の勝利で終わる
ありがたいことに
滞在した四日間の内四日間青空を拝めることができた

真ん中の日には沖縄に住んでいる友人数名が
借りてくれたペンションでどんちゃん騒ぎをした 

沖縄のお酒である泡盛は一滴も飲むことはなかったが、日本酒は水のように胃に流し込んだ
余談だが僕は日本酒なら永遠に飲めるうえに
二日酔いにならないというバフまでかかる

アコースティックギターや三線を弾き
みんなで歌い、踊る
まさに沖縄らしい夜の使い方をした

中学生の頃からの友人がほとんどだが
結婚して夫婦で来てる奴らもいる
互いに歳をとったなぁ、、、などと
酒が不味くなるような話はせず
身体が言うことを聞かなくなるまで
会話を重ねた




翌日 



諸々は省略させていただく
べつに聞いたところで
当時の僕らしか楽しくなく、だいたい中身がない話だからだ

夕方ごろ 
夜にまた集まる約束をして一度解散

僕は途中で車を降りてみんなに手を振り

一人になった

降り立った場所は高校生の頃まで
住んでいた地域

先程までワイワイガヤガヤと騒いでいた
友人たちの声がいまだに耳に残っており
勿体無いと感じた僕はイヤホンをせずに
ユラユラと散歩を始めた


舗装されていない道路を千鳥足で下る

時間は15:00を過ぎていて
焦らせるように夕焼けが赤くなってくる

30分ほど無意識に歩いていると
高校生の頃に住んでいた家や

嫌な思い出が蘇る中学校に高校

飽きるほど通った駄菓子屋にコンビニ

公園やいつもの遊び場が見えてくる




八年 





なんとも実感が湧いてこない年月だ

よく通っていたコンビニは
色がとても薄かった
こんなに薄かったかなぁ、、と
首を傾げる

初恋を楽しんだ駐車場は
アパートに変貌していた
(忘却の呪文 という楽曲に出る駐車場だ)

チラホラ亡くなっている建物があり

チラホラ産まれてる建物があった



小学生の頃に遊んでいた公園には
僕と同じ年齢くらいの男性と女性が
小さい女の子と遊んでいた

ノスタルジーが皮を剥ぎ
とてつもない罪悪感が湧き出る

いや、べつに子供が欲しいとかでは無いし
なんなら、僕も普通にサラリーマンである

しかし
単純に田舎である沖縄に戻ると
てんで気にしていなかった
大人の在り方 が実体化していることに
無性に気がつく
東京は多様化の箱庭だから
どんな生活だって肯定されている

けれども、ここは違った

当たり前の幸せが
金曜日の夜に香るカレーのように
美味そうに鼻を刺激する

あぁ、なんてグロテスクなのだろう

そんな社会からの疎外感を受けていると
新しい刺激が鼻を擽る


潮風


僕はただ潮風の出所を探すように歩いた




あるく



あるく




ちょっとやすんで



あるく



たどりついたのは

『宜野湾海浜公園』

朱色の大きな門を抜けると
爽やかな緑覆う都市公園が待っていた


学生時代
夏になると友人を引き連れて
この海浜公園で行われるエイサー祭りに
行っていたことを思い出す

浸っていると
偶然にもエイサーのお祭りが行われる
日だったらしく、チラホラと
遺伝子レベルで覚えている
あの民謡が鳴り響いた

パーランクー(手持ちの鼓)が
奏でるリズムに心音をときめかせながら

ただ過去を遡るようにまた道を歩き続けた




日曜日だからかだろうか
やけに人が多い

快晴だからかだろうか
観光客で賑わっている

最終目標地点

辿り着いたビーチは
沖縄時代に1番通ったビーチ

砂浜をザクザクと進むと
靴の中に砂利が侵入してくる
そんな異物感すら今は愛しい

波打ち際ギリギリまで行き
何も敷かずに砂浜に座り込む

見上げると綺麗な月が雲を纏い微睡んでいた
夕焼けの死に際に付き合うかのように

とりあえず僕もしばらく付き合うことにした

右隣で観光客の女性たちがはしゃぎながら
自撮りを繰り返していた

気まずい

左隣はマッチョなナイスガイが
セクシーなパツキンと濃厚なキスを繰り返していた

気まずい

けれども数分後
脳を動かすことをやめて
無の境地にたどり着いたら
そんな俗世の違和感にも引っ掛からなくなる

波の音 潮風の香りが
身体を撫でる

友人に虐められたあの日も

部活で仲間外れにされたあの日も

初恋との初めての逢瀬も

このビーチでボーっとしていた

都会に住んでるくせに
ボサボサの服を着て

細い目をさらに細めて海を眺める僕は

なんにも変わっていなかった

悲しい反面 ちょっと嬉しい

都会に染まることは
このうえない恐怖なのだ





『本日の遊泳時間は終了しました。』

歪んだアナウンス

待っていたかのように
急足で夕陽が落ちる

気がつくと両隣のギャル群とアベックは
去っていた



海と空

どちらが上で どちらが下か

まるで分からない



数分が経つと友人が迎えに来てくれた

まだバーベキューをしてる輩が
ワイワイガヤガヤと語らいあっている

見かねてだろうか
夕日が沈む足を止めていた

友人の車に乗り

真っ赤に照れてる海を背にする

ボサボサの服にも

髪にも目にも肌にも

潮風の香りが染み付いていた





『あ、結婚おめでとう』

と友人に言うと

『え!! 今更??』

と仰天して笑われた



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