金曜の夜がいつも華やかなわけじゃない。

華金の夜。

近所のお気に入りの飲み屋で飲んでいると、隣にいた飲み仲間のスマホの通知音がなった。

「あ、センパイから急いで電話くれってLINEがきた」

「へーなんだって?」

「.....。センパイの息子さんが自殺した」

センパイは行きつけのバルでよく合う5つ上くらいの音楽関係の人で、皆から通称「センパイ」と呼ばれていた。

センパイは数年前からまだ小学生くらいの息子をいつも一緒に連れて飲んでいた。今思うと離婚したせいで家に息子を置いて飲みに出かけられなかったのだろう。

ぼくはそのセンパイとは特に仲がいいわけではなかったが、よくそのバルで顔を合わせるので挨拶くらいはしていた。そしてその息子さんが飲み屋の大人の中でちょっと寂しそうにしているのをいつも横目で見ていて、なんとなく隅っこで一緒にスマホでゲームをしたりしてよく遊んでいたものだった。

それ以来彼もぼくを見つけると、遊び相手を見つけたとばかりに近寄ってきて話しかけてきてくれていた。

そのうちに彼も中学生になり、父親とはちょっと距離が出来たのか先輩と一緒に飲み屋に来ることはあまりなくなった。たまに近所の通学路で、あまり似合っていないぶかぶかの学ラン姿の彼をたまに見かけるくらいで。

でも彼とSNSでは直接繋がっていたので、彼が「絵を描く」という自分を表現する方法を見つけたことを知って、ちょっとだけ安心していた。

SNSで目にする彼の絵はちょっと反抗的で毒を含んでいたけど、ぼくは彼の絵の才能をなんとなく感じて応援していた。

そして彼が高校生になった矢先の出来事だった。

原因も、どんな死に方をしたのかも全くわからないけれど、昨日の夜から彼の子供の頃の寂しそうな目と、尖ってはいるけどどことなく優しい彼の絵が脳裏に焼き付いて離れない。

そして思うのは、辛いことがあったらすぐにそこから逃げてほしい。とことん逃げてもいいから生きて欲しい。

少しぬるくなったビールを啜りながら、そんなことを思った金曜夜の0時。

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