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趣旨からの忘れない民法 その3 時効

法律があるから、規制が生まれます。自然法以外はそうなっているんですね。つまり、現実の社会を法律に合わせるんです。これが通常なんです。
ところが、事実状態に法律の方がすり寄ってくるという、例外中の例外が

時効

という制度なんですね。その趣旨は消滅時効と取得時効でちょっと、異なります。

取得の方は、前述したように、事実関係の方に法律も併せて、社会の矛盾を無くそうということですね。消滅の方は権利の上に眠るものは保護しないという、

ずっと、権利行使しないなら、消滅させても文句言わせないよ?

という、厳しい話です。もちろん、所有権みたいに時効のないものは別です。そのため、たまーに、

「預金口座は、長い間、放置していると引き出せなくなりますよ」

なんて、TVでやったりしますね。銀行に貯金するということは、預金した人が銀行に対して、債権を取得しているということなので、債権が時効にかかった場合、銀行は通知(援用)だけで、そのまま、消滅させられるようになっているんですね。行政なんか援用すら不要ですよね。実際はその金融機関の評判が爆下がりになってしまうので、時効消滅後でも、自主的に、返金に応じているそうですけど。

反対に取得時効というと、本来は自分のものではないのに、長期間、自分のものとして、ふるまっていた事実状態を尊重して、

所有権も与えていいんではない?

という話です。その方が社会的に都合がよいじゃないか?ということが背景にあるわけです。ずっと、他人物のままだと、占有者が誰かに売却した時に厄介ですよね。さらに転売を繰り返していて、ある日、

「あなたの買った土地は、前の前の前の所有者が実は無権利者だったので、真実の権利者の相続人に返してください」

と言われたら、

「ええー!、今、1000万円かけて、リフォーム工事終わったばかりだよ、何でもっと早く、言わないの?」

ってなりません?

そういうこともあってか、行政書士でも、他の法律系資格でも、試験に出る、ほとんどが、

時効完成の前後で出てくる第三者との関係

ばかりです。第三者とは1回目で言っていたように、当事者以外で、一つの権利を争っている人のことです。

問題を解くだけだと、本当に機械的に出来ます。

完成前だと、時効完成した占有者は登記など対抗要件なく、時効完成時の所有者に主張できます。これは当事者の関係だからです。
契約したわけではないですけど、第三者ではないんですね。民法では契約以外でも、当事者になる関係がいくつか出てきますけど、時効はまさにそのパターンです。厳密には、時効の効果は占有開始に遡るので、その時の所有者に言わないとおかしいんですけど、

厳密さの追求よりも、実体のバランスを重んじる

という民法らしさがここでも出てきます。そのため、理系思考の理屈で考えると、

民法は難解

に陥ります。元々、理屈は

弱者救済と社会の取引のバランス

考える、民法全体の趣旨を知っていれば、恐れることはありません。

完成後だと、登記などの対抗要件がないと、主張できません。つまり、第三者として扱われます。元の所有者から取得した人とは、一つの権利を争い合う関係になりますから。問題はちょっと応用問題のケースです。

第三者が時効関係後、登場したので、登記がないと主張できない占有者がさらに法定された時効期間、占有を継続したらどうなる?

というケースなどです。こうなると、その第三者との関係は2回目の時効完成時を基準にすると、今度は

時効完成前の第三者

ということになりますよね。そのため、登記なく主張出来るに変わってしまいます。登場人物、全く、同じなんですけどね。そりゃそうです、

事実関係に法律を寄せていくのが時効制度の趣旨

なんですから。ここでも、趣旨から考えると、忘れにくいですよね。

さて、注意が必要なのは、

権利が消えるのは消滅時効の方で、取得時効ではない

と簡単に覚えてしまうと、間違えますよという話です。それは時効が

原始取得

だからです。事実上は、所有者に援用して、所有権が移転しているように見えますけど、法律上は

最初に取得した権利(前の権利者がいない)

ということにしています。いわゆる、擬制ですね。

となると、前の所有者が付けていた、抵当権とか、おかしいですよね、原始取得なのに。抵当権は先取特権などのように、法律上、当然に発生する担保物権ではありません。約束(契約)していないのに、付くわけないんですよ。だったら、原始取得で身に覚えのない権利が付着しているのは変なことです。だから、

抹消出来る

んですね。ということは、

取得時効でも、他人の権利があれば、抹消される

ことを意味します。その辺、ご注意を。これも、事実関係に法律を寄せていくのが時効制度の趣旨から来ていることですね。もう、占有していた人のものにするのですから、原始取得として、綺麗な状態で占有開始からその人のモノだったことにしようとするのですから、当然、そうなるわけです。

時効の問題を考えるときは、その要件と効果をしっかり、頭に入れることが大事です。それには、

時効制度の趣旨から思い出せば、忘れにくいです。


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