ラピッドビート

【エングレーブ・ザ・ビート・カラテ・ヒート】

「「「「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」」」」トコロザワ・ピラー内トレーニング・グラウンド。ここは未熟なニュービー・ニンジャ達がカラテを鍛えるために存在する場所であり、今日も多くのニュービー達が発するカラテ・シャウトで埋め尽くされていた。そしてその一角、木人と向き合うニンジャが一人。

「イヤーッ!…どうもしっくりこねぇな。イヤーッ!」黄褐色の作業着めいたニンジャ装束に身を包む彼の名はラピッドビート。先日のミッションでザイバツのアジトに潜入し、囚われていたシックスゲイツの一人「ヘルカイト」を救出したことでそれなりの名声を得たニンジャであるが、そのカラテはまだ未熟だ。

(カラテだ。カラテを鍛えて、いつかヘルカイト=サンのように偉大なソウカイ・ニンジャになりたい…!)ラピッドビートは野望に燃えながら木人相手にカラテを繰り出す。常に生き残ることを最優先し、ともすれば臆病とも言えるほどに慎重だった以前の彼からは考えられない心境の変化であった。

ザイバツ・シテンノの「ブラックドラゴン」に殺されかけたとき、己を救ったヘルカイトのカラテ。生と死の極限の狭間において、白と黒の墨絵めいたタツジン同士のカラテ激突を間近で見た彼は、余暇の最中でありながら胸の内に沸々と湧き上がる熱に突き動かされるようにトコロザワに足を運んでいた。

…その時!ターン!トレーニング・グラウンド入り口のフスマが勢い良く開け放たれ、凄まじいカラテを全身から放つニンジャがエントリーした。金糸のニンジャ装束にシャープな金属メンポを身に付けた偉丈夫。ソウカイ・シックスゲイツの一人にしてソウカイヤニンジャスカウト部門筆頭「ソニックブーム」である!

「ドーモ、ソニックブームです。おうクズ共!キアイ入れてやってるか?エエッ?」「「「「「ドーモ!ソニックブーム=サン!」」」」」ニュービー達が一斉にオジギする。彼はこの場にいるサンシタ達とは次元の違う強者であり、例え全員を相手にしても容易く返り討ちにできるだろう。それがシックスゲイツなのだ。

「……ンン?」部屋を見渡したソニックブームは少し眉根を寄せ、オジギ継続中のニュービー達にハンドサインで「トレーニングに戻れ」と指示したのち、隅にいるラピッドビートの元に尊大な足取りで近付いてきた。「アイエッ…?」「ドーモ、ラピッドビート=サン。テメエは確か休暇期間中だったはずだがなァ?」

「ド、ドーモ…!いやぁ、その…ちょっとカラテしたくなりまして…ハハ」「アー…そう怖がりなさんな。何も責めてるわけじゃねェよ」「アッハイ」「弱っちい腰抜けの若造が、イッチョマエに自主トレとはな。どういう心境の変化だ、エエッ?」「……」ラピッドビートは答えようとして、逡巡した。

向上心が芽生えた。それ自体は客観的に見ても良いことだと思っている。何も憚るようなことではない。しかし、相手はあの恐ろしいソニックブーム=サンだ。「シックスゲイツに憧れて」などと生意気なことをのたまえば鉄拳が飛んでくるかもしれない。ソウカイヤに入る前に叩き込まれた一撃を思い出す。

だが同時に、適当な誤魔化しが通じるような相手でもない。むしろその方が恐ろしい仕置きを食らうだろう。ソウカイヤに隠れてミカジメをピンハネし、私腹を肥やしていた愚かなニュービーが弁明の最中に彼のソニックカラテで半殺しにされ、どこかへと連行されていったことも思い出した。結局そのニュービーは戻ってきていない。

ラピッドビートは腹を括り、正直に。嘘偽り無く今の自分の気持ちを伝えることに決めた。

「…自分は、ヘルカイト=サンに憧れてます!カラテ鍛えて!彼のように強いニンジャになって!ソウカイヤの役に立ちたいンです!」ラピッドビートは驚いた。自分でも驚くほどの大声だった。トレーニング・グラウンドに響き渡るカラテ・シャウトが途絶え、静寂が場を支配する。程なくして聞こえてくる嘲笑。

「プッ…!」「クスクス」「オイ、聞いたか?シックスゲイツに憧れてんだとよ」「あのカラテでか?」「ラピッドビート=サン、マジメー!」周囲のニュービー達がゲラゲラと笑い始める。ラピッドビートは苦々しげに歯噛みした。己が未熟なのは百も承知だが、さっきの言葉は本心だ。こうして笑われると中々腹立たしい。たまらず言い返そうとしたその時!

「ハァッハッハッハッハッハ!」「アイエッ!」周囲の嘲笑を全てねじ伏せるような呵呵大笑!ソニックブームである!「ハァー……ア?ワドルナッケングラー!クズ共が何ボケッとしてやがる!お喋りしてるヒマがあるなら組手でもしとけ!スッゾオラー!」「「「「「アイエエエ!」」」」」サンシタ達はリトル・スパイダーめいて退散!

「ア…ソニックブーム=サン。その、俺」「おう。ヘルカイト=サンに憧れてる、だと?本気で言ってやがるんだな、アア?」「ア…ハイ!本気です!」「フン…面白ェじゃねえかラピッドビート=サン。俺様の前でよくそんな大口が叩けたな。エエッ?」「…!」やはり鉄拳が!?ラピッドビートは身構える!

だが、ソニックブームが次に放った言葉はラピッドビートの予想を裏切るものであった。「構えろ、ラピッドビート=サン」「エッ」「カラテを構えろッつってんだオラー!」「アッ、ハイ!」

何がなんだかわからぬまま、ラピッドビートはカラテを構える。まだ未熟な、実際サンシタであることが見るからに伝わってくるような構えである。「よォーし…折角トレーニング・グラウンドに来たんだからな。俺様も身体を動かすとするか」「!」ラピッドビートと向かい合うように、ソニックブームも構えた。

「好きに打ち込んでこい。俺様の胴体に指一本でも触れられたらボーナスをくれてやってもいいぜ」「……ハイ!」ラピッドビートは眼前のシックスゲイツのカラテとソンケイを目の当たりにし、これがインストラクションであることを心で理解した。拳を握り締め、タタミを蹴り、跳びかかる!「イヤーッ!」

「イヤーッ!」ソニックブームはラピッドビートの右ストレートを左腕で弾き逸らす!「イヤーッ!」ラピッドビートはステップを踏み左フック!「イヤーッ!」右肘ブロッキング!「イヤーッ!」ハイキック!「イヤーッ!」スウェーイング回避!「イヤーッ!」右掌打!「イヤーッ!」チョップ迎撃!「イヤーッ!」左チョップ!「イヤーッ!」右裏拳迎撃!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

……数分後!「ハァーッ…!ハァーッ…!」既にラピッドビートは疲労困憊!全力のカラテ集中を以てしても全てが受け流されているのだ!なんたるベイビー・サブミッションのコトワザをそのままあらわすかのような圧倒的力量差!「どうしたァ!そんなガキのお遊戯みてぇなカラテで、本気でシックスゲイツになれると思ってやがったのか!?チャルワレッケオラー!」「グワーッ!」

怒号と共に放たれたソニックカラテ回し蹴りで吹き飛ばされるラピッドビート!「アイエエエ!?」余波を受けサンシタが転倒!「所詮ゴジュッポ・ヒャッポのサンシタか?アアッ!?カラテしてみろオラー!」「グ…!」ラピッドビートは立ち上がり、カラテを構え、叫び返した!「ヤッチャラジャレッケラー!」

血が滲むほどに強く拳を握り締め、筋繊維が千切れるほどに強くタタミを蹴り、早鐘を打つ心臓を強いて跳びかかる!「イィィヤァァーッ!」「……!」ソニックブームは目を見開いた。ハヤイ。最初の一撃と比べて明らかにハヤイ!(叩けば伸びるタイプのガキか。それでこそやりがいがあるってもんだぜ)

「イヤーッ!」ラピッドビート渾身のカラテストレートはしかし、ソニックブームの鍛え上げられた胸板を打ち据えるには至らなかった。その拳はソニックブームの手の平で容易く受け止められていたのだ。「グワーッ…!」さらに強靭なニンジャ握力によってギリギリと締め上げられる!すわ右手首粉砕か!?

「まだまだ鍛錬が足りねェな。エエッ?」「グワーッ!スンマセン…!」「…だがまぁ、サンシタにしちゃ上出来だ」「エッ」ソニックブームは握り締める手の力を緩め、ラピッドビートを解放し、威圧的に見下ろしたのち、それ以上は何も言わずトレーニング・グラウンドの入り口に向かって尊大な足取りで歩き始めた。

「ア…あの!ソニックブーム=サン!」グラウンドを退出しようとするその背に向かってラピッドビートが叫び、深々とオジギした。「アリガト、ゴザイマシタ!!」ソニックブームは振り返らず、ラピッドビートに、そしてこの場にいる全てのニュービー・ニンジャに向けて言い放つ。

「ノーカラテ・ノーニンジャ。今も昔もニンジャはカラテを極めた奴が上を行く!よく覚えておきやがれクズ共!!」空気を震わすほどの大声音がニュービー・ニンジャ達の鼓膜を打ち据える。彼らは思わずオジギし、一斉に叫んだ。「「「「「アリガトゴザイマシタ!!」」」」」

偉大なるソウカイ・シックスゲイツのニンジャはニュービー達にハンドサインで「トレーニングに戻れ」と指示し、再び尊大な足取りで、そして知るものが見れば満足気な表情を浮かべながらトレーニング・グラウンドを退出した。ラピッドビートはもう一度深くオジギし、インストラクションを胸に刻み込んだ。

【エングレーブ・ザ・ビート・カラテ・ヒート】終わり


◆ラピッドビート (種別:ニンジャ)        PL:どくどくウール
カラテ		3→4   体力         3→4
ニューロン     4    精神力       4
ワザマエ      6    脚力        3
ジツ        0      万札        29→26
DKK       0    名声        3
◇装備や特記事項
◆ジツ:なし
◆オーガニックスシ:【体力】を3回復(使い捨て)
黄褐色の作業着めいたニンジャ装束と、飾り気のない自作金属メンポを身につけた長身痩躯のニンジャ。
危ない橋は渡ろうとせず常に慎重に堅実に仕事をこなす、ややハングリー精神に欠ける男であったが
とある単独緊急ミッションの際にシックスゲイツのカラテと誇りの凄まじさを知り、精神的に成長した。

ヘルカイト救出ミッション後に与えられていた余暇期間中にトコロザワ・ピラーでカラテトレーニングを行い、ソニックブームの薫陶を受け成長。
【カラテ】が3から4へ。そして交通費やら何やらで【万札】3を消費。

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