アバター衣装市場についての私的考察

はじめに(自己紹介も兼ねて)

 今年もBOOTHから3Dモデルカテゴリ取引白書が出て今年はついに取扱高が31億円に達したのを受けていろんな人が感想を書いているのに便乗して自分もちょっと書いてみる。
 元々自分は長年3DCGを仕事にしてフリーランスとして働いて入るものの、これまでは主にゲーム開発が中心でBOOTHの3D市場は趣味的なものをほそぼそと売っているだけだったのだが、だんだん仕事がメタバース系案件が増えてきたことと仲介先の会社からはしごをはずされそうになったこともあって、昨年の後半から本格的にBOOTHでワールドやアバター衣装販売に注力している。

そんな中で感じた今のBOOTHのVRChatアバター向け衣装について自分なりの考察を書いて見たのでもし良ければ読んで欲しい。なお一応アバター衣装の話だがVRChat向けアバターにも当てはまる部分も多いと思う。

1.アバター衣装を買う層についての考察

まずはどんな層がアバター衣装を買っているかだが、大きく分けて以下のような層に分けてみた。もちろんこれは厳密なものではなく人によっては複数の層に属していたり、時と場合によって変わることもある。

・カジュアル層
BOOTHやTwitterで見かけて気に入ったら割りと気軽に買ってくれる層。普段使いのメインアバターは決まっているものの覇権アバターを中心に結構いろんなアバターを持っている。アバターや服はTPOやその時の気分で使い分けている。アバター・衣装市場を支える中心層。
一見気軽に買ってくれるように見えるが、話題性や流行に敏感でアバターや衣装もそうしたトレンドを取り入れる必要がある。また売れるための特定のフックというよりはパッと見たときの印象が重視されるので、膨大なライバル商品の中に埋没しない個性が必要。

・ファッション層
VRChatをファッションゲームやキャラクターメイキングゲームとして主に遊んでいる層。アバター・衣装市場のオピニオンリーダー。
リアクロ層が顕著だが覇権アバター以外にGrus、森羅が多い。ファッションに敏感で自ら積極的にBOOTH内で商品を探して、自撮りや動画などで自身の周囲にいる人々に対しても商品をアピールしてくれる。高価な製品でも買ってくれる反面、デザインとクオリティには厳しい。

・コスプレ・RPG層
アバターや衣装を通してコスプレ、RPGをしている層。扱うイベントやテーマによって人数は異なるがお正月の着物やクリスマスのサンタ服なども入れると膨大な人数を誇る。ある意味「売れる個数=テーマの広さ」と言えるかも知れない。
重要なのは彼らにとって「体験>衣装」というプライオリティなので、テーマにそっていても肝心の「その格好をしてやりたい体験」が阻害されるなら買ってくれないので注意。具体的には自分のアバターに対応してなかったり、VeryPoorになって肝心のイベントに参加できなかったり(音楽系イベント等ではVeryPoor禁止のものもある)、フレームレートが落ちてゲーム性が阻害されては(シューティングやフライトシム系では致命的)本末転倒になってしまう。

・性癖層
自分の性癖に忠実な格好を追求する層。エロ多し。当然ながらR-18を禁止しているアバターは少ない。一見ニッチそうだが一部のエロ布に膨大な「好き」がついていることからも分かるように当たるとでかい。制作者側も性癖を理解してないとアピールするものは作れない。

・うちの子大好き層
自分の理想のアバターを追求する層。必要ならパーツ取りのためだけにアバター一体まるごとや、フルコーディネートの服を買ってくれる。ファッション層にも似ているがプライオリティのトップは自分の理想なので流行の影響は受けないし外からアピールするのも難しい。

2.アバター衣装Shopについての考察(アプローチ方法からみた分類)

ファッション的なジャンルについては詳しくないのと、VRChatアバター衣装独自の要素はあまりなさそうなので、ここでは対応アバターから大きく2つに分けてみた。

・ショートヘッドタイプ
いわゆるロングテールの逆、本来はマーケティング用語で売れ行きの80%は全体の20%の商品で占められているという意味だが、ここではいわゆる覇権アバターを中心としたごく少数のアバターに対応した服を作っているSHOP。意外にもEXTENSION CLOTHINGなどVRファッションショーイベント「Voyage」に出ているような有名ブランド系SHOPが多い。

・ロングテールタイプ
多くのアバターに対応した服を作っているSHOP。マイナーアバターの救世主と呼ばれてるぬんぬん製作所が代表的。多いところでは一つの服で100体以上のアバターに対応してくれている。

他のジャンルのショートヘッド・ロングテール同様に戦略として一長一短があるので、それぞれの長所短所を元にアバター衣装SHOPはどちらでいくか方針を決める必要がある。

3.アバター衣装市場の今後について

たぶんこれを一番知りたい人が多いと思う(自分も知りたい)。未来のことは分からないが自分なりの予想を書いてみたい。

・グループ化、チーム化の進行。
アバター衣装に限らずVRChatの全ての分野で進んでいる現象。作るものが大規模になりすぎて(イベントなら規模が大きくなりすぎて)もはや1人でできる限界を超えつつあるので、これは避けて通れないと思う。一見1人でやっているSHOPでも忙しい時に親しいSHOPと互いにヘルプに入り合ったりしてるのをTwitterでよく見かけるようになった。アバターや衣装でも大手SHOPを中心にUnityのセットアップやモデリングなどを他の人に頼んで作っているのを見かける。

・共通素体化、改変サービス等による非対応アバターへの対応
一部のアバターに専用服が集中していることを受けて、アバター側でも共通素体化によって対応服を着れるようにする動きが増えている。またポリゴンテーラーやVRoidの非対応服着せ替え機能などによって今後、非対応服であっても着れるようになる日が来るかも知れない。上に上げたショートヘッド・ロングテール戦略もこの影響を受ける可能性がある。

・コーディネートの広がり
EXTENSION CLOTHINGの新ブランドMAISONDARCが打ち出したパーツ単位の商品群による自由なコーディネートの提唱は他のSHOPも始めるかも知れない。もしかしたら上の共通素体化やModular Avatarの進歩によって将来対応アバターの違いを意識することなく複数の服から好きなパーツを取り出して着れるようになれば、誰でも気楽に好きなパーツを組み合わせてコーディネート出来るようになるだろう。
新たなサービスとして個々の商品は各SHOPのものを使いつつ、コーディネートだけ提供するようなお店(サービス?)が出現するかも知れない。


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