vol.1|いつでも・どこでも・誰とでも、学び続ける
2022年6月13日公開記事の再掲となります。
学校でのICT活用に訪れたさまざまな変化を、Googleとの出会いを切り口に語る本シリーズ。初回は、理科教員から情報科教員へと転身し、完全BYODをゼロから実現させた湘南学園中学校高等学校(神奈川県)の小林勇輔先生にインタビューしました。
ICTとの出会い
小林先生とICTとの出会いは「理科の教員として視聴覚教材をどう使うか」が始まりだったそうです。
物理を担当していた(当時)小林先生は、教科書の平面世界だけでは物理の世界の面白さを子どもたちに感じてもらえない...と、関連のテレビ番組等を自宅で録画し、それをDVDに焼き、学校で見せる、というおそらく多くの教員がやっていたであろう方法で視聴覚教材を授業に取り込んでいました。
その後、いわゆる「メディア」は劇的な変革期を迎えます。SONYから出されたPSPの出現によりメモリースティックというメディアもメジャーになり、さらに、インターネットが普及することにより、とうとう「メディア」は持ち歩く必要が無くなったのです。
「整理整頓好き、何でもスッキリさせるのが好きな自分からすると、この変化は嬉しかったですね」
Google とGEGとわたし
2015年、小林先生の教員人生を変える出会いがありました。ひょんなことから Google のアカウントを学校として持っていたことを知り、Google Classroom に興味を持ったのが全ての始まりでした。
時間や場所に縛られることなく情報共有ができる機能や、生徒との課題のやりとりのスムーズさに惹かれ、同僚の教員と先生役・生徒役をやりながらさまざまな実験をしたそうです。
「ただ、あの頃は Apple が大好きだったので、この Classroom の機能をいかに iTunes U上で再現するかという視点で実験してましたね。まさかこの後、Google どっぷりの人生が待っているとはこの時は考えもしませんでした」
同年12月、小林先生がリーダーとなり、GEG鎌倉という Google が応援する教育者グループ(GEG)を立ち上げます。
「これは、今でこそ全国に広がっている GEG の初期の頃で、今も続く教員仲間との出会いを生んでくれました。GEGが無かったら、間違いなく今の自分はいませんから」
端末を選ばないという Google ならではの特徴は、「一律」が当たり前だった教育現場にとっては衝撃的なものでした。また、共同編集やメールとの連動など、忙しい教員の働き方を変える可能性にも満ちていたそうです。
月に1回、平日の夜、北鎌倉の古民家に教員たちが集まり、遊ぶように学ぶ時間が始まります。普段は「教える側」である教員たちが、誰かから教わる、共に学ぶ、そんな場所が心地良く、多い時では14校の教員たちが古民家には集ったそうです。
GEGは瞬く間に広がりを見せます。Google ならではの共同編集機能を用い企画した「江ノ電すごろく」、認定教育者資格への挑戦など、「学ぶ、共有する、影響しあう、能力を高める」というGEGの理念に基づき、さまざまな取り組みが生まれていったそうです。
そして、GEGで学んだ教員たちが講師を務め、Google のツールを柱に学び合う GEG LAND では、日本全国に仲間の輪が広がります。コロナ禍でオンライン開催したGEG LAND(かまくらんど)では約400名の参加者を迎え、急にオンライン化を求められ、紛糾していた教員同士の良い情報共有の場となったようでした。
ガチガチiPadからBYODへ
小林先生が現在勤める湘南学園中学校高等学校は、BYOD(Bring Your Own Device)を採用して今年で4年目となります。このBYODを実現するにも、Google は欠かすことができない存在だったと小林先生は語ります。
「端末は文房具であるべきです。それが一人一台のより良い形を模索していく中でたどり着いた一つの確信でした。そして、それを踏まえると、BYODしかないと思いました。なぜなら文房具であるためには、自分自身の好みや使用目的に合った端末を使用すべきだからです。それが、Googleのツールによって、現実のものになるのです」
今でこそ端末を文房具として捉えるというのは理解を得やすいかもしれません。しかしながら、学校現場にICTがじわじわと広まり始めた2018年当時に、この考え方は簡単に受け入れられるものとは言えなかったのです。ただでさえも端末導入に不安のある大人たち(保護者・教員)を中心に、動揺が走ったのは言うまでもありません。
どうやって管理するんですか?!
使い方がわからない時はどうするんですか??
さまざまな不安と不満の声が小林先生の元に集まってきます。
「管理を手放すこと」
小林先生が学校に提案したのはこの理念でした。
失敗させたくない。トラブルに発展させたくない。クレームを言われたくない。これらの気持ちは当然誰もが持っているものですし、できることなら避けたいというのが本音です。
「その気持ちは当然僕も同じです。 でも、だからこそ、早い段階で管理を手放すべきだという結論に至ったんです」
子どもたちがこれから生きていく...いや、今すでに生きている世界からICTが消えることはまずありません。そうしたなかにあって、そもそもICTとのお付き合い自体が短かったり浅かったりする我々大人たちが、リスクを想定し、管理によってそれらを防ぐなんてことができるはずがないのです。
もちろん、何をしてもよいという無法地帯を推奨しているわけではありません。ICTの利活用方法を学ぶことも、子どもたちの成長の横に同時にあるべきだというのです。さまざまなトラブルを「管理と制限」ではなく「対話と教育」によって生徒たちと一緒に乗り越える。そんな仕組みづくりが始まりました。
そうした挑戦を可能にしてくれたのが Google でした。
端末を選ばず、ネットワークさえあれば同じ環境をつくることができる。これが「与えられるICT」からの脱却には不可欠だったのでしょう。また、YouTube や Google 検索など、生徒たち世代の日常にも Google が馴染んでいたということもこの挑戦を後押しする一因となったのかもしれません。
「使いながらでなければ、どういった付き合い方が『良い』と言えるものなのかもわかりません。ICTの全てが良いわけでもなければ全てが悪いわけでもない。そうであれば、どう付き合うべきなのかを学ぶステップは必要ですよね。大人が先に学んでから...というのを世の流れは待ってくれません。それであれば先生も生徒も一緒に学べば良いんじゃないかと思うんです」
ICTによる学校の枠組みの変化
そう語る小林先生は、現在、大船駅から徒歩2分のところで「はじまる学び場。」という少し変わったコワーキングスペースを仲間達と運営しています。そもそものスタートは2年前に始めた「どこがく」という YouTube チャンネルの開設からでした。
「ICTの出現によって、知識を持っていることの優位性みたいなものが薄くなってきて、その中で、教える側と教わる側の立場が固定されている今の『学校』のスタイルに違和感を覚えたんです」
YouTube チャンネル「どこがく」を始めた理由をこう語った小林先生は、自分自身が学び続けたい!という思いで、自分の会ってみたい人から学びつつ、いつでもどこでも誰でも「生徒」になることができるよう、その様子を動画で発信しています
「学びの孤立を回避したい」
インターネットにICT、いつでもどこでも誰でも、学びたい時に学べる環境が多くの場面で整い始めています。でも、まだまだ「学びは学校のもの」という感覚が世間でも強いように感じます。
「ICTのおかげなのか、それともせいなのか、『学校』に閉じられていたものがジワジワと外に滲み出ていってるし、それは今後増していくと思います。完全に出ちゃうなら出ちゃっても良いものもあるだろうし、いや、これは閉じといた方が良いでしょう、ってものもあるのかもしれないです」
そう語る小林先生は学校の役割も変化していくのではないかといいます。
「学校や学びがこれ以上『窮屈』にならないためにも、ICTの利活用によって『余白』を生み出すことに価値があると思います。この『余白を与える』ことこそ、これからの学校の役割になるのではないかと感じています」
国が掲げる教育のデジタル化のミッションステートメントには「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」の実現とあります。それを地で行く活動をし、新しい学ぶ場を創造し、新しい学びの形を模索し作り上げていく小林先生の挑戦の歩みはこれからも続いていきます。
小林勇輔
湘南学園中学校高等学校教諭(情報科)
Google for Education 認定イノベーター(JPN19)
GEG Kamakura Leader
株式会社どこがく 取締役
2015年に Google Educator Group(GEG)鎌倉を立ち上げ、学校へのICT導入を推進する活動を展開。
2019年にGoogle for Education 認定イノベーターとなり、その仲間と2020年1月に YouTubeチャンネル「どこがく」を開設。2021年からは神奈川県鎌倉市大船にてコワーキングスペース「はじまる学び場。」の運営に携わり、学ぶことの楽しさを動画だけでなく、リアルな場で表現する日々を過ごしている。
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