「神作」二次小説に出会った話

数年前、推しBLカプの作品を求めて狂ったようにネットサーフィンを繰り返していたある日、そのHPにたどり着いた。
そこは小説をメインコンテンツとしていたサイトで、推しカプの原作沿い長編小説が掲載してあるとの記述を見て、私は意気揚々と作品のページを開いた。読むスピードは早い方であったし、二次創作なのだから長編といっても1・2時間程度で終わるだろうと、軽い気持ちで深夜12時過ぎくらいから読み始めた。

午前4時、涙で目を腫らしながら作品を読了した私がいた。

その小説は、今まで二次創作で味わったことのない衝撃を与えた。切なさで胸を打ち涙を誘うような作品や、萌えたぎる神作をいくつも読んできたけれど、ここまで惹きつけて離さない小説には出会ったことがないと断言できた。作品を読む間、深夜ゆえ身体は何度も眠気を訴えていたが、展開が気になりすぎて眼が冴えてしまい、これを読み終わるまでは絶対に眠れないとまで思っていた。読み終わってからも、作品のあまりの凄さに興奮して結局眠れなかったけれど。

端的な文章で、モノローグは少なめ。二次創作作品には珍しく、受けや攻めの容姿を褒める描写もない。ともすれば物足りなさを感じてしまいそうなストイックな作風だったが、それが作品の良さをより引き立てていた。カプ小説と明言しながらも、物語後半まで、恋愛らしい要素はほとんどない。ただし、受けは攻めにすごく執着していて、攻めはそんな受けに対して冷たいとも思える対応をとる。そして終盤、それまで秘されていた攻めの心情が吐露された時、受けへの愛情の深さが初めて明らかになる。丹念な日常描写の積み重ね、その間に挟まれる攻め受けの衝突など、長編ながらも決して間延びはしない丁寧な構成。読みふけりながら攻めは受けのことを重荷に感じているのでは……と思っていたため、終盤の展開でのカタルシスは凄まじかった。

あらためて冒頭から読み返すと、地の文で描かれる攻めの所作に、受けへの愛情がにじみ出ていることに気が付く。初見ではまずこれらの描写に攻めの密かな愛情を汲み取ることは難しいだろう。端的でモノローグが少ないという作風が、このさりげない描写をさらに自然なものにしていた。

またキャラクター造形も素晴らしかった。原作のキャラクター像を踏まえたうえで、この2人が恋に落ちるならこういう思考・言動をするだろうなと考えこまれて描かれていたように思う。また、その作者が作り上げたカプとしてのキャラクター像自体もとても私好みで、まさに「解釈が合う」ものであった。

作品を読み終えた私は、それからしばらく興奮状態だった。こんなに素晴らしい推しカプ作品がこの世にあったこと・それを生み出してくれた作者に感謝して、特に心に残ったシーンを読み返したりしていた。

しかしそれから数日後は、「あんなに素晴らしい推しカプ作品が存在するのなら、私が描く必要ないのでは」という気分になり、しばらく二次創作を描く気になれなかった。私にとってはこのカプを最も素晴らしく表現している、間違いなく「神作」だと思ったからだ。今後私がどんなに画力表現力を向上させても、あの作品ほど萌えるものは作り出せないだろうなという確信もあった。といってもあまり思い悩む方でもないので、さらにしばらくしてから「でもこの2人萌えるし、やっぱり描きたくはなるよね」とせっせと二次創作に勤しみだしたが。

その作品は、大げさでなく今までに50回以上読み返している。何度読んでも色褪せない、とはこういう場合に使うのかと感心するほど、その文章は私を魅了してやまない。

ここまで心動かされた作品だから、本当なら作者様本人に感想を伝えたい。けれどサイトは10年以上前に更新停止している。そもそもサイトにメールフォームなどの連絡手段もない。仮にあったとしても、遠い昔に更新停止したサイトに今更連絡をもらったところで、むしろ気味悪がってしまわれるかもしれない。

けれどあの日私があの小説に出会ってかつてないほどに感動したことを、どこかに書き残しておきたい。そう思ってnoteに書き綴ることにした。

サイト最終更新から10年以上、作者様は今何をしておられるのだろうとたまに思いを馳せる。同人をやっているかどうかはわからないが、元気でお幸せに暮らしておられたらいいな、と思う。そしていつかふと思い立って、自分の過去の同人作品をpixiv等に再掲載する、というようなことがあったらいいな……と密かに願っている。その時には、「素晴らしい作品をありがとうございます」とご本人に直接伝えたいな、とも。


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