第一開『秋』 .原井

秋めいてきました…と書いているいまは2017年10月3日。ちょっとまえから朝晩が涼しくなってきたなあと思ってはいたものの、週末からこっち、なんだか急に日が落ちるのが早くなったように感じられて、おや、やっぱりもう秋じゃんか、と実感しました。

さて、「秋」をテーマに何か書け、ということなんですが、うぅ~ん、パッと思いつくものがありません。困ったので、とりあえず「秋」の付くものを適当に挙げてみます。
京極夏彦の小説の登場人物、京極堂こと中禅寺秋彦。高里椎奈の小説のキャラクター、薬屋で妖怪の深山木秋。実在人物では、近代文学研究者の石原千秋氏。とはいえ人名から話を広げていくのは難しそうです。
秋の落語といえば「目黒の秋刀魚」が有名ですが、私が「目黒の秋刀魚」について書いた文章よりも、プロの噺家が口演する「目黒の秋刀魚」を聞いた方がオモシロイに決まってます。

さて、どうしたもんでしょう……と、思っていたら、あったあった、ありました。秋に関して、書けそうなもの。

というわけで、いまからはキリン秋味について語ります。

ゲンナリしても無駄です。文章というのは読みたくなくなった読者が勝手に読むのをやめられる、逆にいえば、付いてきてくれる人だけ読んでくれればいい、と開き直ってしまえば好き勝手書けるのが利点のメディアです。私はビール愛を垂れ流します。

秋味は、キリンが1991年から現在まで毎年発売している、季節限定ビールです。紅葉をイメージとした、赤が基調のデザインが印象的ですね。参考までに、キリンの商品紹介ページへのリンクを張っておきます。歴代のパッケージデザインが見られます。
(http://www.kirin.co.jp/products/beer/akiaji/)
さて、このビール、なんといっても、ネーミングの時点ですでに勝負に勝っています。秋の味で秋味ですよ。秋の味覚といったっていろいろあります。当然、それに合わせるべきビールの味だってバリエーションがあっていいはずです。しかし、キリンは「これが秋の味なんだ!」と宣言してしまいました。そう言われてしまったら、もうこの味を秋の味のスタンダードだと思わざるをえないじゃないですか。ねえ。
「麦芽たっぷり1.3本分」の文字、6%という一番搾りより1%高いアルコール度数から、通常より飲みごたえがあることが予想されます。脂ののった秋刀魚の塩焼きによく合いそうです。
「デコクション糖化法」がいったい何なのか、キリンのwebサイトは何も教えてくれませんが、必殺技めいてなんだかすごそうです。きっとビールが美味しくなるに違いありません。

実際に飲んでみると、「深いコク」という文句に偽りなし、大手メーカーの通常銘柄よりもぐっと濃い、それでいて食事と合わせても調和がとれる、ビール好きにはたまらないビールです。間違いなく、日本のビールの最高峰のひとつと言えるでしょう。
ちなみに、秋味の味について書くからにはやはり記憶だけに頼っていてはいけない、実際に飲んでちゃんと検証しなおすべきだ、それが誠実さというものだ、という観点から、私は先ほど買ってきた秋味をグラスに注いで飲んでいるところです。どうです、いいでしょう。うっひゃっひゃっひゃっひゃ。

味に関しては否のつけどころがない秋味ですが、ひとつ文句を言うならば、それは販売期間が短すぎるということに尽きるでしょう。いえ、単に販売期間が短すぎるというだけならば、それは季節限定商品の宿命ですからいいんですけど、秋味の場合、発売開始がお盆過ぎというところに問題があります。
地球温暖化が取り沙汰されるようになって久しいいま、いくら暦の上で秋になったとはいえ、8月後半はまだ充分に夏です。夏の暑さに辟易している頃に秋味が発売され、ようやく秋めいてきたころ、つまりこの記事を書いている今ごろですが、そのころにはすでに店頭から姿を消しつつある。実際、いま私が飲んでいる秋味も、スーパーとコンビニ合わせて3軒目で見つけた、しかも最後の1本でした。

思うに日本の季節商戦は「早ければ早いほどいい」という病にとりつかれています。9月も半ばからハロウィンの文字がちらつきはじめ、ハロウィンが終わればすぐさまクリスマスの気配。正月気分も抜けきらないうちに節分の恵方巻きの予約がはじまるという具合です。
「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」の歌のように季節の機微に敏感なことを美徳とする日本人ではありますが、これにはどうも、やりすぎじゃないの?という感がいなめなめなめなめなめません。むしろ、先取りしすぎて逆に季節感が失われているような気さえします。
せめて「○○の日」商戦は、その20日まえぐらいにはじまってくれるといいんですけどねえ。なんなら、年々開始が遅くなっていって、うっかり1月も20日を過ぎたあたりで七草を仕入れはじめるスーパーや、ゴールデンウィークに恵方巻きを売るコンビニが出てくると、それはそれで大変に趣深いのではないか、と想像する次第です。

いい具合に何を言っているんだかわからなくなってきた頃合いで、今回はこの辺で。

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