見出し画像

ここまでわかった犬たちの内なる世界〜#03 イヌには自己意識があるか?


今あなたは、 思いもかけず駅の階段でつるりと滑って転んだとしましょう。公衆の面前で失態を演じたしまったことに顔を紅潮させ恥ずかしさを感じるかもしれません。 自分を恥じたあなたは、強い自己意識の感覚を持っているはずです。

読んでいて、用語の意味でこんがらかることがないように、最初に定義をしっかりやっておきますね。

自己意識とは、外界ではなく自分自身に向けられる意識のことです。脳科学の定義では、感覚や感情、思考といった自分の心の状態に向けられる意識まで含めることもあります。

イヌの内なる世界を垣間見ようとするなら、この「自己意識」はかなり重要なファクターと言えるでしょう。

画像5


このテーマを皆さんにお話するにあたり、「自己意識」について調べてみましたが、自己意識って、かなり漠然とした概念で、境界もおそらく曖昧です。自己意識には、いわば虹のスペクトル(連続帯)のように様々なレベルがあると考えておくのがよさそうです。

自己認識のリトマス試験紙


動物が自己意識を持っているかどうかは、科学界でも関心が寄せられてきた古くて新しい問題です。

鏡を使ったミラーマークテストというポピュラーな実験があります(略してミラーテスト)。専門用語では、鏡像自己認知テスト(mirror self-recognition test)といいます。

動物に気づかれないように顔にマークをペイントし、鏡の前でどんな反応をするかを試すというものです。早い話が「鏡の中の自分」が自分だとわかるかテストするのです。

このミラーマークテストは「自己認識」のリトマス紙的な指標として用いられています。自己認識とは、自分を環境とは別の存在だと認識する能力のことです。つまり、自分が存在することを理解しているということです。(※このコラムでは、これから度々「自己認識」という言葉が出てきますが、全てこの意味で使われています)

動物を対象にした最初のテストは、1970年にチンパンジーに実施され、その後、いろいろな動物に行なわれました。

画像4


50年来のテストの合格者は.......

霊長類以外の動物では、バンドウイルカ4頭、カササギ2羽、アジアゾウ1頭など。
合格した動物はごくわずかです。意外にもこれまでのミラーマークテストに、イヌは合格していません。

眉の上に小さなマークをペイントされたチンパンジーやオランウータンは、鏡を見てペイントに気づき、指でこすってからその指をじっと見つめました。この結果は、チンパンジーやオランウータンに自己意識があることを示唆しているとされています。

つい最近になって、馬も新たに仲間入りしたようです。
科学論文が発表されたことを告げるツイートです。


馬の頬に、まず、無色の超音波ジェルでマークし、次に着色されたマークをつけました。馬は、目に見える形で印が付けられたときに、鏡の前で顔を掻くのに約5倍の時間を費やしました。

研究者たちは、馬が鏡の中のマークを見て、そのマークが自分の顔についていることを理解し、それを取り除こうとしていると結論付けたということです。

人間の場合はどうなるのか?  簡単に説明しておきますね。
1歳以下の乳児は鏡を見せられても、チンパンジーが初めて鏡に接したときと似た反応をして、他者に対するようにふるまいます。18カ月齢以降になると、自分の鏡像を見て、顔についた染料を触るようになります。

ここから先は

6,700字 / 5画像
この記事のみ ¥ 300
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

最後まで読んでくださりありがとうございます。 皆様からのサポートは、より良い作品をつくるためのインプットやイラストレーターさんへのちょっとした心づくしに使わせていただきます。