2023/9/4
映画「福田村事件」を観た。
森達也監督の著作「虐殺のスイッチ」を読み終わって、ネットで情報を調べていたら映画が公開されることを知った。
あとから思えば、ちくま文庫からの再販も映画公開の準備のひとつだったのかもしれないが、関東大震災から100年という節目の年でもあり、時間を作ることも出来たので劇場まで足を運ぶことにした。
横浜のジャックアンドベティに行ったんだけど、補助席が出るほどの超満員。そこまで注目度の高い作品だったとは知らなかった。
鑑賞後、久々に頭がクラクラした。
足取りふらつきながらラーメン屋に入ったら、券売機のところで小銭を落としてしまい、拾うにもまごついてしまい恥ずかしかった。
そのぐらいフラフラしてた。久々の家系ラーメンは美味かった。
そんな話はどうでも良くて。
鑑賞前に映画の評判はなるべく見ないようにはしているが、公式ページにあるあらすじぐらいは見てから入る。
前半はそれぞれの登場人物の人となりや人間関係が描かれていくんだけど、何が契機で虐殺が起こってしまうのかと思うと、ずっと固唾を飲んで見ていた気がする。
特に行商人一向は大部分が殺されることがわかっていたので、恵まれない環境の中でも懸命に生きている姿が居た堪れなくなった。
虐殺のシーンは実に40分。
個人的なことをいえば、10ヶ月の息子がいる身として、幼児と幼児を抱えた妊婦が殺される場面が一番つらかった。「弱きもの」象徴とも言える親子を、何人もの村人が囲んで惨殺する。正義もなにもあったもんじゃない。
関東の片田舎の村人は、讃岐がどこにあるかもわからず、彼らの話す言葉を聞いたことがないから朝鮮人ではないかと疑った。
自分の目で見た訳でもないのに、朝鮮人が井戸に毒を入れたとか日本人を殺したとか、そんな話を信じ込んでしまう。
正しさが暴走する。
似たようなことは、悲しいけれど今もある。
なぜ人は人を殺せるのか。
悪人だから人を殺すのではなく、善人だから人を殺さないのでもない。
なぜ福田村事件のようなことが起こってしまったのか、考えければならない。考え続けることが、少なくとも抑止力に繋がるのではないだろうか。
この映画を作られたことは素晴らしいけど、きっと興味のある人にしか伝わらない。でも商業映画であることで、森達也を知らない人にもこの映画に触れる機会が増えたはずだ。
イケメン俳優目当てでも、きっと知らなかったであろうこの事件を知って、ほんの少しでも考えるきっかけになったなら。実際の事件をモチーフにはしていても、この作品はフィクションだ。フィクションだからこそ人の心に訴えることが出来る。
勿論、事実と虚像を混同してはならないとは思う。映画のパンフを買ったけど、市川正廣さんという福田村事件をずっと調べている方がいて、虚構の部分をコテンパンに言ってたりする。そういう意見も公式のパンフにはきちんと掲載されている。
また、香川から来た行商人一行が虐殺された理由について、それはなにかひとつに断定出来るものではないと思う。
定住して生きるものは漂白者を畏敬の念を込めて見ることもあるが、卑賤のものとすることもあった。そういった土台もあった中で、東京からのデマの応酬、関東大震災という非常時、様々な要因が重なった結果ではないだろうか。
ネットを見ていると、映画の見解と自分の考えが違うからと断定的に否定する意見も見受けられたが、資料をひとつひとつ詳らかにしたんだろうかと疑問に思う。ましてや実際に見てきた訳でもなし、当事者と話した訳でもないだろうに。
これもまた悲しいことだけど、「左翼」「そもそも福田村事件などなかった」という書き込みも見つけた。
あるとき新宿かどこかで酒を飲んでいて、「南京虐殺などなかった」と大声で言ってる年配の方がいた。こちらもきちんと文献資料などを示せる訳ではないし、というかこんな輩は相手するだけ無駄だとスルーしたけど。
色んな人がいて、色んな考え方がある。
その中で、正しさとはなんだろう、どこにあるんだろうと模索していくしかないと思ってる。少なくとも、自分は考え続けていかないと。
心を打たれ、そのあとも様々な感情を呼び起こされ、そして色々考えるきっかけを与えてくれた、素晴らしい映画でした。
できたらみんな観に行って欲しい。
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