オーディブル記録10『ファスト&スロー』

ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンによる有名すぎる一冊。他の書籍でもシステム1とシステム2の話が度々引用されており、機会があれば読んでみたいと思っていた。そしてオーディブル期間限定無料がその機会となったわけだ。

まずはシステム1とシステム2について、ごく簡単に説明しよう。人間が物事を判断するときには、脳の働きからみて2通りのアプローチがある。

システム1:直観的な早い思考。理性による吟味を経ずに脳がスパッと判断してしまうやり方。スピーディーに、低コストで運用できるが、人間のもつバイアスによる判断ミスのリスクが高い
システム2:理性的で遅い思考。バイアスによる判断ミスを乗り越え、落ち着いてよりよい判断ができる可能性がある。ただし、判断に時間がかかるし、認知負荷も高い。

本書を読み始めるまえにこの程度のことは把握していたため、本書に期待したのは「そんなシステム1とシステム2をどのように使い分ければよりよく生きていけるか」ということだった。

実際読んでみると、質は高く文章が面白い。だが、システム1とシステム2については本書が初出ではなく、心理学の世界ですでに言われていたことのようだ。

しかも序盤で「システム1とシステム2がある」という説明をしたあとは、延々とバイアスの話が続く。それも「仮説を抱き、実験して、出た結論の説明がされる」という形式を繰り返す。面白いと言えば面白いし、長いと言えば長い。バイアスについての話は『脳には妙なクセがある』でも読んだし、『ファクトフルネス』や『思考の教室』でも触れられていた。だからちょっと新鮮味のない題材と感じてしまった。多分、こちらのほうが早く出た本だろうに。

というわけで、どうしても流し気味になってしまった。

バイアスを前提として

システム1とシステム2があるとして、それを知ることでどうやってよりよく生きるのか。最後の最後に少しだけ議論があったし、自分なりにも考えてみた。

まずはメタ認知だろう。人間の思考にはアレコレとバイアスが生じるということを知ったうえで生きる。そのうえで、時々自分の思考自体に、もう一人の自分からツッコミを入れる。「確証バイアスで動いてないかな」「この水道会社の人はアンカリング効果を使って値段交渉をしていないか」。そして、いかにもバイアスで動いてしまいそうだと思ったらシステム2を呼び出す。

もう一つは、他者からの意見だ。自分に関わることについて判断しようとすると、様々なバイアスをかいくぐる必要が生じる。でも他人事の場合は、あまりバイアスが作用しなくなるので、そこまで認知リソースを食われずに状況を客観視できる。その非対称性を利用することも重要であると。

加えてもう一つ思ったことは、習慣の科学との関係についてだ。Kurzgesagtの習慣動画では「あなたの中の幼児」と「賢明なプランナー」として対比されていたが、これもシステム1とシステム2と似た話だ。

自分が直観的にとる行為を鍛えるというか、研ぎ澄ますというか。そんなアプローチもあるのかもしれない。

池谷裕二の『脳には妙なクセがある』でもこんなことが書かれていた。

もちろん、自動判定装置が正しい反射をしてくれるか否かは、本人が過去にどれほどよい経験をしてきているかに依存しています。
だから私は、「よく生きる」ことは「よい経験をする」ことだと考えています。すると「よい癖」がでます。

バイアスの話をみると、「一つ一つ、理性で判断していこうね」という結論い陥りがちだけど、システム2は燃費が悪くもある。

自動で動くシステム1の方にいい癖をつける。それができれば高速でいい判断を連発できるのかもしれない。