黎明期のカオスが好き

未開の地は発見に満ちている。

インターネットが好きな人なら、様々な黎明期に立ち会ったのではないだろうか。塊魂などのテキストサイトが盛り上がり、2chのアングラな香りに魅せられ、まとめサイトやニコニコ動画が人気を博し…

そういった新しい流れが始まったばかりの混沌とした時期というのがとても好きだ。雑然とした雰囲気で、新しい発見とワクワクに満ちている。

もう少し例を出そう。Vtuberの黎明期の光景なんかもメチャクチャに面白かった。のじゃオジがピックアップされ、輝夜月の動画がニコニコに載り、そこから野心的なVtuberが雨後の筍のごとくあらわれ… 結局、自分はVtuberを観るようにはならなかったが、あの黎明期の雰囲気は忘れられない。

midjourneyやChatGPTの発表後も、twitterは大盛り上がりだった。プロンプトに創意工夫を凝らしてオモシロ回答を引き出し、オモシロ画像を貼り付けていくtwitter民たち。新たなテクノロジーの可能性にワクワクしつつ、その先端技術を大喜利にぶち込んでいく「才能の無駄遣い」の数々。本当に面白かった。

ドラゴンクエストRTAの黎明期

今回語りたいのはドラゴンクエスト作品のRTA(以下DQRTAと呼ぶ)のことだ。ニコニコ生放送でDQRTAが盛んに行われたことに気づいたのは、もうかなり前のことだ。真の黎明期に立ち会えたわけではないが、そこから5~6年にかけて怒涛の盛り上がりを見せるタイミングに居合わせることができた。

特に自分の思い出の作品である、DQ5のRTAは盛んに行われていて、1位記録は5時間11分だった(※)。2番手の人の最高記録が5時間25分だったりして、何とかその高い壁を越えてやろうと奮闘していた。毎日チャレンジしてはスライムナイトが仲間にならずに絶望したりとか、レヌール城で死んでしまってその日のうちに次の走りを始めたりとか。

そんな報われない試行が重なる中、(100回に1回では?)という幸運を引くときがやってくる。実際に100回以上走っているのだから当然引く。そういう走者が10人いれば、誰かが1000回に1回の幸運を引くだろう。(もちろんここでは期待値としての話をしている。野暮なツッコミは控えるように)

そんな絶好調の走りをみているとハラハラする。(このまま事故が無ければ記録を10分更新できるぞ…ああ全滅した。リカバリーはどうだ。よし無事故なら6分はいけるんじゃないか…)そんなことを思いながら、走りを見届ける。ある時はミルドラースの行動パターンが強いやつで断念したり、緊張のあまりあり得ない凡ミスが生じて虚しさとともに終わったりもする。

それでも、時に自己ベスト更新の瞬間に立ち会うことができる。13分ぐらいあるエンディングの間、走者は喜びを噛みしめつづける。配信のリスナー一同にもその喜びは伝染し、至福のひと時が訪れる。

そうして走者たちがジリジリと「3分詰めた」とか「5分詰めた」とかやっている中で、ある時革命が起こる。必須と思われていた、奇跡の剣の回収がカットできるのではないか。奇跡の剣がなくなったら厳しいと思われていたが戦闘自体がどんどん最適化されていく中で、それは可能ということがわかってきたのだ。そこに関わる小さなメダルの回収もメダル王の城に行く必要もなくなり、タイムの理論値がグッと短縮される。

それを受けて、一人の走者が一気に3つぐらいの革命を同時に起こす。「奇跡の剣を取らないのであれば、そもそも息子を戦力にしなくてもいいんじゃないか。それよりも魔神の鎧を装備したサンチョの方がふさわしいんじゃないか。」

「だったら息子に経験値を入れなくてもいいのだし、天空の剣を先に取りに行くのはどうだろう?メタルスライムをたくさん狩れたときのブーストがすごいんじゃないか。」

「いや、天空の剣自体回収しなくてもミルドラースを倒す方法があるぞ。」

こんな形で一気に常識が塗り変わり、最高記録は5時間を切り、何度も更新されていった。

その最先端がどんどん開かれていくときの光景。その時の中の熱気というのは特別なものがあって、自分は夢中で配信にかじりついていた。


しばらく、全く記録が更新されなくなった。記録は、もう4時間45分ぐらいにまで縮んでいただろうか。「ドラクエ5でできる事はやり尽くされたんだ。もうここから先、未開のフロンティアは無いんだ」そんなことを思わされた。配信は下火になっていき、自分はそっと配信を見なくなった。

自分の大好きな、エネルギーに満ち溢れた黎明期の混沌は終わったのだ。黎明期の楽しさは特別なものだが、未開はいずれ未開でなくなる。別れが訪れるのは仕方のないことだった。

黎明期だけでサヨナラする人が味わえない感動

先日になって、久しぶりにDQRTAの記録一覧を見てぶったまげた。記録がさらに更新されていて、備考欄に見慣れないチャートの名前が書いてあった。

スライムカット

(はぁ!?スライムなしで、5のRTAが成立するわけないじゃないか!50%で仲間になるし、ニフラムはあんなに重宝するじゃないか!)

そんな困惑をしながら、早速しらべごとを始める。結局ハッキリとはわからなかったが、仲間が増えなければレベルアップ(タイムロスイベント)の回数も減るし、その装備品の手配、アイテムの受け渡しなどもタイムロスの要因になるのだろう。

もう開拓されつくしたと思っていたDQ5のRTAにそんなフロンティアが残っていただなんて…

自分が粘り強くDQRTAを見続けていたなら、スライムカットが提案されたときのワクワク感、ゾクゾク感を感じ、またそのチャートで走っている走者の挑戦を胸躍らせながら見守っただろう。

悔しい。やっぱり自分のように、黎明期の楽しさだけ楽しんでフェードアウトしてしまう人間には味わえない、特別な喜びもあるよなぁ。

そんなことを思ったのだった。


※なお、5:11を出していた走者は後に復帰し、たった一回の走りで5:02を叩き出した。だがその後、記録動画への検証が行われ、電源on時にTAS動画に差し替えていたことが明らかとなっている。