タイトル

otava 5 Alioth -アリオト- 千年樹の算盤

5

魔法

いくつか魔法を手に入れて わたしは何かを失った
差し出したものは どこへ消えたのだろう
窓辺に立ち 闇に目をこらしてみる
夜のなかに ゆれる草木や 小さなランプの灯りが見える
今まで見えなかった景色

「おまえは何かを決めるのに いつまでも花を摘むのかい
 この世には 花びらよりも悩みの種が多いものだ
 そして 花の咲かない土地もある」

小高い丘の上で わたしは言葉をなくしていた
針葉樹の森に ひときわ大きな木がのびている
魔女はその木を千年樹と呼んだ
算盤の導きにしたがって たどり着かなければならない

とぎれとぎれに枝分かれする道を はじき出される答えのまま歩く
緑色の葉が視界をさえぎり 土色の根がはいまわる

空の色が変わり始めて わたしの心はゆれだした
千年樹はまだ遠く
正しい道を選んでいるのか 確かめる手だてはない
引き返すなら今のうちだ

このまま算盤にしたがうか 自分の意志で選ぶのか
それとも あきらめ戻ろうか

しばらく悩んでわたしは決めた

呪い

大人になるということは 喜びに満ちているわけではない
世界は呪いで満ちていて 呪いから身を守るのが魔法

少女は気強くなったのか それとも魔女に慣れたのか
想いを口にするようになった

「どうしてこんなにきれいな 人形の服を作っているの」

少女が訊くと魔女は初めて微笑んだ
魔女は少女を指さして それから人形を指さした

千年樹の頂に魔女はいた
とくべつな望遠鏡で覗くと 森をさまよう少女が見える
算盤の導きのままゆけば 遠からずここにたどりつく

やがて少女は立ち止まる いまや少女は疑心を覚えた
いっぽう自立の心も芽吹いた

少女が歩いてきた道のりは 少女にとって財産といえる
算盤の示す導きに 劣ることのない価値がある
少女はそれらを秤にかける いつか市場でみたように

手の内にある価値を知れば 手放す怖さもおのずと生まれる
心の奥に根を張って 歩みを止めるにはじゅうぶん

それでも魔女は ふたたび少女が歩くのを見て 望遠鏡から顔をあげた

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