タイトル

otava 4 Megrez -メグレズ- ハリプのかがり火

4

魔法

市場に並ぶ果実のいろどり 沖をゆく船の帆
誰かのくちぶえ
路地裏で言葉を交わした老婆は いつの間にか亡くなっていた
夜のあいだも閉じない瞳がほしい

「大人になればなんでもできると思っているだろう?
 おまえは何が人の心を動かしているのか知る必要があるようだ」

その場所はとても暗かった
深い森のなか 葉が葉を覆い月の光を拒んでいた
ときおり何かが茂みを横切り 枯れ枝を踏み折る音がひびく
朝日が昇るまで かがり火を離れてはいけない
わたしは魔女の言いつけを守るしかなかった

うつろにゆれる赤い炎
静けさと寂しさ 恐怖 どこまでも続く闇
わたしが想像するよりも ずっと夜は長かった

さけびたい 逃げ出したい 誰かそばにいてほしい

気が付くと すすり泣くわたしを一頭のトナカイが見下ろしていた
舞い散る火の粉を恐れもせずに
鼻を鳴らすと何も言わず からだをたたんで眠りについた

わたしはそっと近づいて そっとトナカイに触れてみた
その体温はかがり火よりも暖かくて きっと温もりと呼ばれている
トナカイに寄りかかり 目を閉じる

絶対にかがり火を絶やすものかと心に誓った

呪い

魔法がなくとも時さえ経てば こどもはみんな大人になる
それでも魔女は魔法をかける たとえ呪いが伴うとしても

さっそく少女は覚えたばかりの 疑いの目を魔女に向ける

「わたしから奪ったもので あなたは何をしようというの」

答えを待つ少女の瞳は まだ幼さを残していて
だからこそ魔女は答えず 次の魔法に導くのだった

少女が一晩過ごす森には するどい牙をもつ獣が
あちらこちらで飢えている

魔女はとくべつな力を 少女のかがり火に与えた
火を絶やさずにいられるならば けして獣は寄りつかない
命のやりとりや暴力を 教えたいのではないのだから

初めて夜の内側に触れて ようやく少女は孤独に気付く
「だれかに求める温もりを わたしはだれかに返せるだろうか」
少女の内でゆれる炎は 燃え上がることで強くなり
それが過ぎると 相手にさえも火をつけてしまう

魔女は遠くでかがり火を見守っている それ以上でも以下でもない

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