『4マナの見て見ぬふりをしている問題』の見て見ぬふりをしている問題

本記事は、マジック:ザ・ギャザリング(以下、MTG)のスタンダード・フォーマットへの批判です。ゲームプレイに役立つものはありません。コントロール好きな筆者の、WotCへの愚痴の羅列です。お酒でも飲みながら読み流す程度がちょうどいいでしょう。

1.《神の怒り/Wrath of God》

『すべてのクリーチャーを破壊する。それらは再生できない。』

神の怒り》はMTGを代表する名カードの1つであり、全体除去呪文の元祖である。全体除去呪文と言えばコレ、という人は多いだろう。4マナでクリーチャーを一掃する呪文は、多くのコントロールデッキを支えてきた。

しかし、《神の怒り》はスタンダード落ちして久しい。調整版の《審判の日》さえ、最後に収録されたのは基本セット2012だ。それ以降の10年間に登場した4マナ全体除去は《至高の評決》《ケイヤの怒り》《空の粉砕》の3種類のみで再録は一度もない。この10年間のうち半分は、4マナ全体除去が存在しないスタンダードだったのだ。
これについて、WotCが公式に触れた記事がある。

6年前の古い記事だが、これ以降に4マナ全体除去について触れた公式記事が見当たらなかったので、現時点ではこれがWotCの最新の見解ということになる。もし他に新しい記事があればぜひ教えていただきたい。
『スタンダードの多様性』では、スタンダードに《神の怒り》を再録しない理由について明確に書かれている。詳細はリンク先を読んでほしいが、要点は以下の通りだ。

  • アグロとのゲームが4ターン目に「ラス持ってるか持ってないか」で決まるようになる

2.脅威の多様化

Sam Stoddardがどのようにスタンダードを見ていたのか、私には分からない。だが『アグロとのゲームが4ターン目に「ラス持ってるか持ってないか」で決まる』などということは、ほとんど暴論であるということは知っている。もちろんそういったゲームが皆無だとは言わないし、4ターン目に《神の怒り》を撃つ/撃たれるかは重要な要素の一つだろう。だが《神の怒り》の手が届かない領域が、多様化したMTGには存在する。

2-1.破壊不能クリーチャー

再生から置き換えられた能力である破壊不能は、全体除去を持つデッキへの安定したクロックとなる。追放やマイナス修正などの追加の除去がなければ対応しきれない。

2-2.自己蘇生クリーチャー

破壊されても墓地から戻ってくるクリーチャー。何度除去を撃たれようが、追放されない限り何度でも帰ってくる。

2-3.気前のいい「比率」クリーチャー

いわゆるETB能力でアドバンテージを稼ぐクリーチャーたち。クリーチャーのパワーインフレが叫ばれて久しい近年では、P/Tも優秀なものが多い。

2-4.速攻クリーチャー

速攻はコントロールデッキへの一種の耐性である。使い捨てになるかもしれないが、勝利できるなら安いものだろう。

2-5.ミシュラランド

クリーチャーになれる土地、いわゆるミシュラランドは、打ち消されず、テンポ損せず、全体除去では破壊できない。あまり言及されないが、現スタンダードにはミシュラランドが7種類存在し、そのいずれもが単色デッキでも扱えるようになっている。

2-6.プレインズウォーカー

プレインズウォーカーはクリーチャーに頼らない勝ち手段として機能する。当然アグロデッキでは使用できないなどというルールはない。単体でアドバンテージを稼ぎ、勝利にまで到達しうるプレインズウォーカーは、コントロールデッキとって大きな脅威となる。

2-7.トークン生成エンチャント・アーティファクト

クリーチャーを生み出す置物。高マナ域になりがちだが、その分安定したフィニッシャーとなる。

2-8.機体

機体は、ミシュラランドに似た性質を持っている。乗るクリーチャーさえ温存していれば、毎ターン全体除去を撃たれようがクロックは継続し、中にはアドバンテージを稼ぐものさえ存在する。

他にもまだまだ存在するが、代表的なものはこのあたりだろう。脅威がクリーチャーに依存していた時代はもはや過ぎ去り、コントロールデッキは多様化した脅威に対処することを迫られている。追放やマイナス修正、インスタント除去、プレインズウォーカー対策、置物対策、土地対策…。アドバンテージを稼ぎつつ自分のライフを守ることも忘れてはならない。コントロールデッキは多様化、強大化する脅威に対処することを迫られながら、かつて持っていた強力な武器を取り上げられたままになっているのだ。

3.見て見ぬふりをするな

ここまで読んでいただいた方の中には、こう思われた方もいるだろう。「ただ《神の怒り》で対処できない脅威を列挙しただけじゃないか」と。それは正しい。そして、同時に見落としがある。『スタンダードの多様性』で、Sam Stoddardは私が挙げた脅威に対して一言も触れていない。彼、ひいてはWotCは、《神の怒り》がどれほど強力であるかを力説するが、スタンダード環境がどうなっているかを見ようとしてしない。このような環境で、4ターン目に《神の怒り》を撃つだけで勝利がもたらされるというのなら、ぜひともやってみていただきたい。カルドハイムでは先に2マナ支払うことで3ターン目にも撃てる全体除去《ドゥームスカール》が登場した。ではコントロールデッキはアグロデッキに勝利し、環境を制したのか?

答えは否だ。
日本選手権20ファイナルでも、『カルドハイム』チャンピオンシップでも、日本選手権21でも、《ドゥームスカール》はメタゲームに参加さえできていない。現在のスタンダードでも、緑単アグロ、白単アグロ、イゼットターンの3つがトップTierに君臨している。全体除去を4ターン目どころか3ターン目に撃てようが、アグロデッキがそれだけで負けるなどということはありえないのだ。

脅威と回答の振り子が、脅威に振れすぎているのは明らかである。《神の怒り》が強力すぎる、などという幻想は捨て、スタンダード環境を直視して、脅威と回答の歪んだバランスが一刻も早く修正されることを願うばかりである。

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