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第15回① 宋 美玄先生 女性の「性」でバズる産科医、日本の「誤った認識」に挑む

「医師100人カイギ」について

【毎月第2土曜日 20時~開催中!】(一部第3土曜日に開催)
「様々な場所で活動する、医師の『想い』を伝える」をテーマに、医師100人のトーク・ディスカッションを通じ、「これからの医師キャリア」を考える継続イベント。
本連載では登壇者の「想い」「活動」を、医学生などがインタビューし、伝えていきます。是非イベントの参加もお待ちしております!
申込みはこちら:https://100ninkaigi.com/area/doctor

発起人:やまと診療所武蔵小杉 木村一貴
記事編集責任者:産業医/産婦人科医/医療ライター 平野翔大

女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』を書いた、産婦人科医。
 そう言われた時、皆さんはどんな医師を想像するだろうか。ミステリアスなイメージを抱く方も少なくないかもしれない。

 既に多数のメディアなどで情報発信している宋美玄先生のことをご存知の方も多いとは思うが、筆者の初印象は「関西弁でチャキチャキ、はっきり話す、元気な先生」だった。

 軽快な語り口で「性」について語る宋先生は、実は「手術がしたくて産婦人科を選んだ」という。そこから多くの社会問題に取り組むようになっていったきっかけを伺った。

宋 美玄先生
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業後、同大学産婦人科入局。2010年に発売した『女医が教える 本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計100万部突破の大ヒット、大きな注目を集める。現在、TBS「Nスタ」金曜日コメンテーターとして出演中。二児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立、メディアなどへの積極的露出で“カリスマ産婦人科医”としてさまざまな女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて、女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。

全国の産科医を震撼させたあの「事件」

 「女性の身体」を主に対象とする産婦人科。その対象は、婦人科腫瘍から性行為までと幅広く、メディアで話題にされることも多い。その中で、性の問題から、HPVワクチン、そして医療制度。さまざまな媒体で幅広く発信を続けるのが宋美玄先生だ。

 2001年に大阪大学医学部を卒業し、同年、同大学の産婦人科に入局。当時は勤務医として外来・手術・病棟などに携わっていたが、婦人科の良性疾患や悪性疾患の手術を日々行うような産婦人科像をイメージしていたという。

 そんな宋先生が「発信」に重きを置くようになったのは、産婦人科界を震撼させた、2004年の「福島県立大野病院産科医逮捕事件」だった。

 帝王切開手術を受けた産婦が死亡したことを機に、執刀した産婦人科医が逮捕(※)されたという事件だったが、宋先生はその裏に「現代の医療をもって救えない妊婦さん、赤ちゃんはいない」という「誤った認識」があると感じた。

 「妊娠出産にはリスクがあることを世間の常識にしなくてはならない。そんな思いが湧き上がってきました。」と当時の抱負を語る。

 (※後に無罪判決が確定したが、実名で全国に報道されるなどの問題が見られた。宋先生の解説記事はこちら

女性の「性科学」本が累計100万部突破

 2008年、大野病院の医師に無罪判決が下された年に、産婦人科医としてブログでの発信活動を始めた。決してお堅い、社会問題だけを論じるだけではなく、時には私生活、そして性の話題など、幅広いテーマを取り上げた親しみやすいブログはたちまち話題となり、講演会、書籍の発行依頼が舞い込むようになった。

 産婦人科医としての発信を続けるうち、「誤った認識」は決して「お産は安全」という思い込みだけではないことに気づく。最近もHPVワクチン・低用量ピルや経口中絶薬・中絶手術など、産婦人科医療だけでも多くの問題があるが、産婦人科が関わるのは医療の話題だけではない。

 「性科学」の分野は、特に日本では医療者の関心が届いておらず、そもそも「セックス」というところから、多くの誤った認識、思い込み、スティグマが溢れていた。自身の興味もあり発信を続けていたところ、想像以上に世の中の反響を得ることが増え、これが活動の中心になっていく。

 「ブログがバズったり、そこから講演をするうちに、出版関係の方と出会うことも増え、本を出す流れになっていきました。」

 このような機会から執筆したのが、代表著書である『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社・2010年)であり、現在ではシリーズ累計100万部を突破した話題の本である。

 その後もさまざまな形・媒体で「性」の問題について発信し、多くの人にわかりやすく情報を届けてきた。

SDGs「ジェンダー平等」に含まれる
“SRHR”普及進めるプロジェクト発足

 そんな宋先生がずっと取り組んできたテーマであり、今後さらに力を入れていきたいと語るのが、「“SRHR”=Sexual & Reproductive Health & Rights・性と生殖に関する健康と権利」である。

 1994年にエジプト・カイロで開かれた国際人口開発会議(ICPD)で提唱された概念で、今では国連SDGs(Sustainable Development Goals)にも含まれている。

 まだまだSRHRは、概念の認知も、社会課題の取り組みも進んでいない。これを広めるべく2022年7月に、同じ産婦人科医の稲葉可奈子先生(第2回登壇)・重見大介先生(第5回登壇)と「みんリプ!みんなで知ろうSRHR」というプロジェクトを発足させ、現在5つの目標を掲げ活動を進めている。

 「SRHRにはさまざまな項目がありますが、特に日本では実現していない事柄が多くあります。産婦人科医として普及、推進していきたいのですが、産婦人科医がそのサポーターではなく仮想敵と見られることも残念ながら多くあります。だからこそ、『産婦人科医がそのお手伝いを担う』という意気込みを、この活動を通じて伝えたいと思っています。」

 遅れながらも女性の社会進出が進み、性に関する自己決定が重要になる時代だからこそ、「正しい知識」と「社会的な取り組み」が重要だと、宋先生は語る。

発信で重要なのは「興味」と「仲間」

 当初はブログから始めた発信。テレビなどにも出演すると同時に、SNSが普及した現代では、Twitterなどでも多くの人に情報を届けられる立場となった。

 より気軽に情報が届けられる時代になったからこそ、気をつけていることがあるという。

 1つは自分の興味を突き詰めて、発信すること。
 「世の中にはたくさんの問題がありますが、自分の興味のないことを無理に発信する必要はありません。自分が本心で発言すること、知ったかぶりはしないこと。そのために自分の興味を大切にしています。」

 そしてもう1つが、仲間と連携すること。
 「最近は情報発信をする医師も増えてきました。その人たちと協力することも重要です。矢面に立つのは1人でやらないほうがいい。」

 取材者も含め、多くの「伝え手」が出てくる中で、web発信をする医師としてはもはやベテランになりつつある宋先生。わかりやすいトークで魅了してきた宋先生だが、あくまで自然体であるという。

 「私は目立たずに生きる方法が正直わかりません(笑)。言いたいことを言っていたら今の形になりました。バズりたい、という気持ちはないですが、ずっと発言できる場所にいたいなとは思っています。」

 産婦人科医を志した時から、その時の興味・そして世の中の需要に対して自然体で挑み続けた宋先生。その一つの形として、多くの社会的テーマを伝える姿、そして多くの仲間と共に歩もうとする姿は、後に続く者として、大変な心強さと、面白さを感じるものであった。

取材・文:平野 翔大(産業医・産婦人科医・医療ジャーナリスト)

本記事は、「m3.comの新コンテンツ、医療従事者の経験・スキルをシェアするメンバーズメディア」にて連載の記事を転載しております。 医療職の方は、こちらからも是非ご覧ください。


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