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第13回④ 秋山 真美先生 女性医師は「金の卵」。幸福度世界一の国めざす脳外科医

「医師100人カイギ」について

【毎月第2土曜日 20時~開催中!】(一部第3土曜日に開催)
「様々な場所で活動する、医師の『想い』を伝える」をテーマに、医師100人のトーク・ディスカッションを通じ、「これからの医師キャリア」を考える継続イベント。
本連載では登壇者の「想い」「活動」を、医学生などがインタビューし、伝えていきます。是非イベントの参加もお待ちしております!
申込みはこちら:https://100ninkaigi.com/area/doctor

発起人:やまと診療所武蔵小杉 木村一貴
記事編集責任者:産業医/産婦人科医/医療ライター 平野翔大

 ママさん医師を中心としたワークライフバランスや、ダイバーシティが急速に進む中、SDGsにも謳われているWell-being(満足度や幸福度)向上への貢献から、日本をより良い社会に変えていくための活動を行っている秋山真美先生。二児の母ながら、脳神経外科医として手術もこなす秋山先生のバイタリティを探る。

秋山 真美先生
東京都出身。兵庫県の自然に囲まれのびのび育つ。親友から教えられた医師という仕事の素晴らしさに感銘し医学部を志す。産業医科大学卒業後、多くの病院で臨床経験を積み、脳神経外科の専門医資格を取得。結婚し2児の母となる。経験から働く女性のキャリア形成に多くの課題があることに気づき、『Dr.Mammy(ドクターマミー)』を発足。子ども達の未来のために書いた自著『AI時代の育脳』は、Amazon売れ筋ランキング1位を獲得した。

医療現場でのWell-being
向上を目指して

 「私の行っている活動を説明するにあたり、まず背景となるものを知っていただきたいと思います。」と秋山先生は語り始めた。

 2019年4月からスタートした安倍内閣下での働き方改革により、企業はさまざまなバックグラウンドや価値観を持つ従業員が働きやすい環境を整備することを求められることとなった。

 また近年では、SDGs(持続可能な開発目標)が多くの場で言われるようになっている。SDGsの目標の一つに「GOOD HEALTH AND WELL-BEING」がある。Well-beingとは、WHO憲章で身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」と翻訳されることも多い言葉だ。

 「私の行っている活動は、このWell-beingを底上げすることで得られる生産性の向上に注目し、医療現場でまず私にできることから始めたい、という思いからスタートしています。そこまでに至る経過を今回お話しさせていただきたいと思います。」

友人の熱い想いに突き動かされ
医学の道へ

 社会のWell-being=幸福のために尽力されている秋山先生だが、高校生の頃は有数の進学校に通っていながら、やりたいことが見つからず、明確な進路も決められなかったという。進路を決めないといけない時期に差し掛かり、友人が話してくれたことがきっかけで、医師を目指すことになった。

 「友人が、『私は医者になりたい』と夢と想いを熱く語ってくれました。なんて素晴らしい仕事なんだ!面白そう!と感銘を受けましたが、受験勉強に本腰を入れてなかったので、無理だと思い込んでいました。しかし、その子は真っ直ぐ私をみて『なれるよ』と言ってくれたのです。その言葉を疑いもなくポジティブ思考だけで受け止めて、頑張ろうと決意し、志望をその日から医学部にしちゃいました。その瞬間、今思うと私のWell-beingはあがりましたね。」

 常に幸福度を考えながら話をしている秋山先生。どんな状況でも、幸せであると思えること=幸福度こそがWell-beingの根幹であり、今後の社会に求められることだと説く。

 ただその幸福度とは裏腹に、受験的には残念ながら医学部には届かず、現実を知ることになったそうだ。改めて受験勉強をし直し、そして念願の医学部に合格し、医師としてのキャリアに進んでいく。

キャリアを積み上げながらぶつかった
「女性」という壁

 「学生の頃からポリクリで回った際に見た、キラキラ輝く髄液の中に光る神経。息をのむ脳の美しさに魅せられました。生死に直結するエキサイティングさと、学問的な奥深さ、そして機能的に完璧なシステムを構築する脳そのものが最高に魅力的でした。そんな脳をこの目で見て、触れられるのは脳外科だけ。その学生の時からの想いは変わらず、脳神経外科の道に進むことを決めました。」

 脳神経外科の道に進み、毎日数多くの手術をこなしながら、確実にキャリアを積み上げていった秋山先生。その際のWell-beingは最高ランクだったという。しかし、結婚、出産というライフイベントを転機に、少しずつ仕事に変化が見られるようになる。

 「複数の専門医資格を取って、脳外科医として第一線で働いてきましたが、子どもを産むとなると、できないことが出てきました。妊娠した時点でカテーテル治療ができなくなり、自分が担当していた患者さんの治療ができないという寂しさに襲われました。他の男の先生は変わらず手術をしている一方で、自分の体は思い通りにいかず、長時間のオペもつらい。今まで積み上げてきたものがいつかは無に帰すか、キャリア自体がマイナススタートになるのではないかという不安や焦燥感を味わいました。今思うと、妊娠に伴うホルモンに左右されていただけなのかもしれませんが(笑)。」

 ところが一転して、出産、育児のために医療現場から離れ一般社会に身を置くと、今まで働いていた医師の世界が「すごい特殊だと勝手に思い込んでいただけで、一般社会と何も変わらない」と感じるようにもなったと言う。そして医療業界のWell-beingについてもよく考えるようになった。

「私は医師免許を持った普通のママ」
女性医師たちが訴える現実とは

 そんな中で育休が明け、再度医療現場に復帰した直後、コロナ禍に見舞われた。子どもを通わせていた保育園は突然休園。仕事そのものもままならなくなる。このままでは仕事ができない。完全にキャリアが閉ざされてしまうのではないかという絶望感を覚えることになる。この時Well-beingは一瞬だけ最低ランクまで下がったかもしれないという。

 「ですが、そのうちに思いがけず二人目を妊娠し、毎日を追われるように過ごすうちに脳外科医としてのプライドみたいなものはいつのまにか無くなり、『医師免許を持ったごく普通のママ』だと感じるようになりました。毎日それなりに楽しいのですが、なんだかとても物足りない。医師としてもうちょっと貢献したい、と欲が出てきました。私にできることは何かないのかと、周りの女性の脳外科医の先生に相談しました。

 すると『出産したから医局やめろって言われたんです』『手術させてもらえず、医局でずっとサマリー書いてます』『私何のために脳外科やってるのって思います』といった、思った以上に悲惨な声を拾いました。え、こんなに有能な方たちなのに。なんかこの状態の幸福度って低いんじゃないだろうか。」

 Well-beingに反している。幸福度が足りない。これでは使われていない能力がもったいない。みんなで幸せになりたい。そう思った秋山先生。

 専門医資格まで持つ女性医師がうまく現場で活用されていない。この現状に対する危機感から、患者さんに還元できる女性活躍推進活動として「Dr.Mammy」(Mami+Mommy)を立ち上げた。

どんな医師も“金の卵”

 「一人で生涯を通じて何千人もの患者さんが救われるポテンシャルとキャパシティがある医師は性別問わず“金の卵”であるはずです。」

 一般社会では働き方改革が当たり前のように始まっているにも関わらず、なぜか医療現場はその感覚が浸透しきっていない。これは『医者は替えが効かない特別なもの』『フルタイムで働かないと使えない』という考え方が、いまだに医療現場に根付いているからではないだろうか。

 「この固定概念への意識改革を行っていきたいと考え、さまざまな活動をしています。」と活動の意義を語る。

 例えばDr.Mammyでは、ヘルスプロモーションの一環として、病気になる前の「未病」の段階でアプローチできる健康相談業務を行っている。フルタイムでは働きづらい女性医師が、短時間であっても直接相談者を相手にする業務を行え、活躍できる場を提供しているのだ。未病の段階でアプローチできるため、その効果と満足度は非常に高く、意義がある。

 労働者という観点では、医師は患者さんを救うためのマンパワーの一つであり、あらゆる医師が金の卵であると秋山先生は語る。その金の卵の生み出す恩恵を社会全体が最大限受けられるようにしたいと考える中で、将来の展望を次のように語った。

 「将来的には、働く時間に制約のある先生たちだけでも成り立つ病院を作ることができたらと思います。性別に関わらず、出産や育児などの家庭環境に非常に理解がある病院も、実際にもう存在します。

 ただこのような病院はまだまだ一握りです。業務に携われるのがたとえ短時間でも、生産性の上がるシステムを多く作っていくことで、より多くの患者様を治療し、うまく病院を機能させることも可能だと考えています。さらに、そこで少しでも空けられる時間を、研究開発や高度医療にも活用できます。そうすることで、社会全体の発展にもつながると思っています。」

幸福度世界一の国を目指して

 2021年に国連が発表した日本の幸福度ランキングは、世界56位。先進国の中では最低ランクだ。そして、先進諸国と日本との間に生まれている生産性の差45%は、女性の生産性の差と言われている。

 世の中に眠る金の卵を拾い上げ、また皆が金の卵であると発信し続けている秋山先生。最後に、キャリアに悩む人たちへのアドバイスを伺った。

 「今がどんな社会情勢であったとしても、あなた自身はまごうことなき金の卵なのです。その自覚を持って、まずは挑戦することを怖がらないでほしいです。国連の調査において、日本は、健康寿命は世界トップレベルであるものの、幸福度ランキングではかなり遅れをとっています。自分が幸せであることで生産性は上がり、社会が回っていくことはデータでも証明されています。

 この幸せを実現するためにも、自分の志をしっかり持ってほしいと思います。幸福度世界一を目指していくことが、おのずと一人一人の生活の質も上げていくのです。あなたが幸せと感じることをどんどん行っていってほしいです。」

 熱い想いと同時に、「もっとポジティブに」という言葉を再三繰り返していた秋山先生。その情熱と困難をもポジティブに跳ね返す強さは、これからの日本社会を大きく変えていくのだろうと確信した瞬間だった。

取材・文:下越病院 初期研修医 千手孝太郎

本記事は、「m3.comの新コンテンツ、医療従事者の経験・スキルをシェアするメンバーズメディア」にて連載の記事を転載しております。 医療職の方は、こちらからも是非ご覧ください。

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