【元祖経口糖尿病治療薬】スルホニル尿素薬(SU薬)の特徴【今では悪役】

初の経口血糖降下薬であるスルホニル尿素薬(SU薬).

1956年に実用化されてから,1990年代初めまでは,ほぼSU薬のみが経口血糖降下薬でした.細小血管合併症のエビデンスがあり,安価であったため,その後もしばらくは使用頻度の高い薬剤でした.

※注意
この「細小血管合併症のエビデンス」というは,”SU薬特有"というわけでなく,血糖コントロール自体で得られるエビデンスのことです.SU薬に,血糖降下作用と独立したエビデンスはありません

その後,DPP4阻害薬の登場やビグアナイドの効果が再評価されると,SU薬は経口血糖降下薬としての推奨度が下がっていきました

これは,大血管合併症の増加や,高齢者の増加を背景に,重症低血糖や,心血管イベントの増加の懸念膵二次無効などの考えを根に,専門医の中ですら使用することが敬遠されることが多くなったからです.

むしろ,その後の新規糖尿病薬は,SU薬の欠点を補完していることが最低条件なのではないかと思えるほど,SU薬は現在の糖尿病薬の中で悪役ポジションです.

そんなSU薬の特徴を今回はまとめていきます.

現代における使用機会や実際の使用法にも言及します.

作用機序

SU薬の主な作用は,膵β細胞のSU受容体に作用し,インスリン分泌を促進します.

同様に,膵β細胞からのインスリン分泌を促進するグリニドとの違いは,作用が24時間持続性に働くことです.

基本的には,SU受容体に直接作用することで作用を発揮しますが,種類によっては,インクレチンの増幅経路であるEPAC2/RAP1に作用し,DPP4阻害薬の作用を増強することがあります.

インクレチン
血糖値依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモンで,DPP4阻害薬やGLP-1アナログは,インクレチン関連薬です.

また,SU受容体の中には膵β細胞のSUR1と,膵β細胞以外のSUR2があり,SUR2Aは心筋にも分布しています.

SUR2Aが抑制されると,Ischemic Preconditioning(IPC)が消失するとされ,心筋虚血の存在が示唆される症例では大きなデメリットとなります.

Ischemic Preconditioning(IPC)
冠動脈のトラブルがあり,心筋が虚血にさらされるとき,心収縮力を抑えて虚血による障害を最小限に抑えようとする作用.(心臓を休ませるイメージ)

特徴➀:低血糖のリスクが高い.

元々作用時間が長く,多くが腎代謝されるので,ベースの腎機能が悪かったり,高齢者だったりすると,夜間低血糖遷延性低血糖のリスクが高くなるからである.

このため,GFR30未満の症例では禁忌となっている.

特徴➁:肥満があると使いにくい

高インスリン血症によって,食欲亢進や細胞の糖取り込みの促進が起こり,体重増加を引き起こす.

特徴➂:膵二次無効

長期使用していくことで膵β細胞が疲弊し,効果がどんどん減弱していく.

実用的なポイント

できるだけ少量で使用するのが基本.

「できるだけ少量」
グリメピリド(アマリール®)であれば0.5mgから開始
グリクラジド(グリミクロン®)は20mgから開始
(詳細後述)

グリベンクラミド(オイグルコン®,ダオニール®)は使用を避ける

・空腹時高血糖の併用薬として最終手段であり,第一選択となるような状況は基本的にない

※食後高血糖の改善は期待できない.インスリン追加分泌の欠如は補完できないから.

・腎機能が悪いなど,リスクが高いと感じた場合は,無理に使用・増量はせず,インスリン皮下注も含めた他剤を検討したり,HbA1cの許容することも検討する.

・加齢や糖尿病性腎臓病DKDの進行は,時の流れで必然であり,コントロールが悪くないのであれば減量中止を積極的に検討する.

・そもそも,高齢者には極力使用しないようにし,腎機能障害例も同様(GFR30未満は禁忌).


種類

・グリクラジド(グリミクロン®)

作用時間が比較的短い(6-12時間).SUR1選択性が高く,IPCは消失しない.EPAC2/RAP1にも作用しない.
現在,ほぼ併用薬でしか使用されることのないSU薬の立場を考えると使用しやすい薬剤といえる.

・グリメピリド(アマリール®)

作用時間が比較的短い(6-12時間).
膵β細胞への作用はグリクラジドに劣るとされるも,膵外作用を多少有しているらしく,血糖降下作用としてはグリクラジドと同等.
と,成書に書いてある.(「ここが知りたい! 糖尿病診療ハンドブック」より)
発売当初言われていた「インスリン抵抗性を改善させる」という効果は現在否定的な見方をされている.

SUR2も作用するが,心筋に分布するSUR2Aには作用せず,IPCは消失しないといわれる.

とはいえ,後述するグリベンクラミドと同様に心血管系死亡を増加させた報告もあるので,虚血性心疾患例には使用しない方が無難かもしれない.

・グリベンクラミド(オイグルコン®,ダオニール®)

最強のSU薬である一方,SUR2Aに作用することでIPCを消失させる.

元来,虚血性心疾患を起こしやすい糖尿病症例に,この薬剤を選択するメリットは全くないと個人的には考えており,絶対に使わなくていい薬剤


各SU薬のまとめ

グリベンクラミド(オイグルコン®,ダオニール®)は使わずグリクラジド(グリミクロン®)かグリメピリド(アマリール®)を少量で使用する.

少量とは,グリメピリド(アマリール®)であれば0.5mgから開始し,最大でも2mgとする.
3mg以上で有意に低血糖の頻度が増加する.

グリクラジド(グリミクロン®)20mgから使用し,最大80mgで留めるべき.(添付文書上の上限は160mg/日)

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