【PCIの歴史➀】PCIでステントを入れる理由,知ってる?【急性冠閉塞と再狭窄】

経カテーテル的な冠動脈治療PCIを知ってますか?

PCIは,現在では,冠動脈疾患の治療法としてごく一般的に行われており,2019年度の集計では全国で約27万件のPCI(経皮的冠動脈インターベンション)が行われています.

「循環器疾患診療実態調査(JROAD)報告書(2019 年度実施・公表)」より

この集計によると,23万件弱でステントを使用しており,実に80%以上の症例でステントが用いられているわけです.

しかし,以下のようにツイートしたように,”PCI=ステント治療”ではありません

では,なぜそもそもステントを入れるのか?知っていますか?

今回は,PCIの多くの症例でステント使用される目的を解説します.


結論:急性冠閉塞の予防が最大の目的

いきなり答えですが,ステントを入れる最大の目的は,「急性冠閉塞の予防」です.

急性冠閉塞とはなんぞや?


急性冠閉塞:バルーン拡張術時代の最大問題点

まず,冠動脈血行再建の歴史は,以下のようになります.(読み飛ばし可能)

狭心症(冠動脈狭窄)に対する血行再建としては,1969年にFavaloro(アルゼンチン)が冠動脈バイパス手術(CABG)を世界で初めて発表し,その後,全世界へと広まりました.
そして,CABG に約10年遅れた1977年,世界初のカテーテルを用いた冠動脈血行再建術を,Andreas Gruentzig(スイス)が報告したのが,カテーテル冠動脈治療の始まりです.

Gruentzigが世界で初めて行い始めたカテーテル治療はバルーン拡張術(POBA)です.

アテロームプラークがつき,内腔小さくなった冠動脈に,バルーン(風船)を通し,広げる治療です.

イメージはこんな感じ.(外側から外膜→中-内膜→プラーク→血管内腔)

POBAのイメージ ぷーオリジナル

POBAの効果とは,➀アテロームプラークの圧縮と,➁血管内膜~中膜に至る鈍的な裂開です.

➀のプラーク圧縮だけで内腔が確保できれば最も安全なのですが,プラークが溶けて消えるわけではないので,現実的には無理です.

よって,多少血管にキズを入れてでも血管を広げる必要がありました.これが➁です.

なので,初期の(POBAのみ時代の)カテーテル治療とは,「血流は安定して確保しつつ,それでいてやりすぎて血管にキズをつけすぎないように」という微妙なさじ加減が必要でした.

この「キズがつきすぎたとき」に起こるのが急性冠閉塞です.

冠動脈解離を起こした状態と変わらないため,フラップによる血流の悪化や血栓形成によって閉塞します.

発生率は5%程度とされていたので,頻度は大したことなかったのですが,一度起こればほぼ間違いなく急性心筋梗塞になります.

大問題です.

血流を良くしようとしていたのに,心筋梗塞が起きてしまっては,心臓にとってはマイナスです.

急性冠閉塞はPOBA時代のアキレス腱でした.


もう一つの問題点:POBA後再狭窄

POBAの大きな問題点として急性冠閉塞を説明しましたが,再狭窄率の高さも問題となりました.

数字的には,POBA後3-6か月後の再狭窄率が40%以上だったので,今では考えられない低成績です.

再狭窄の機序には,バルーン拡張による冠動脈のキズを治癒しようとする生体の反応が関わりました.

POBA後再狭窄の機序 ぷーオリジナル

再狭窄の機序
i) elastic recoil:1時間以内
  中膜弾性線維の受動的なrecoil
ii)negative remodeling収縮性リモデリング:1-6ヶ月
  細胞外マトリックス中のコラーゲン増加と外膜肥厚
iii)Neointima formation新生内膜:1-6ヶ月
  血管平滑筋細胞が内膜へ遊走⇒新生内膜を形成


冠動脈ステントの登場!:急性冠閉塞と再狭窄に対する救世主

これらのバルーン拡張術の問題点(急性冠閉塞と高い再狭窄率)を解決しようと色々な試みがあったようですが,1990 年代初めに冠動脈ステント(bare metal stent: BMS)が臨床応用され始めました.

ステントによって解離腔やフラップを抑え込むことで,急性冠閉塞の発生を激減させ,また,上述した再狭窄の機序の内,elastic recoilとnegative remodelingも減少させることができました.


まとめ

PCIでステントを入れる理由をまとめると

➀急性冠閉塞の予防
➁再狭窄率の低下

となります.

いずでもPOBA時代のアキレス腱ですね.

ステントの必要性を語る上では,この歴史は語らずにはいられませんでした.



残された問題点:亜急性ステント血栓症SATと,それでも低くない再狭窄率

ステントが必要となった経緯は説明しました.

しかし,カテーテル治療の歴史はここで終わりません.

ベアメタルステントの登場後も残された問題が2つありました.

それは

➀亜急性ステント血栓症SAT(subacute stent thrombosis)10%前後

➁それでも低くない再狭窄率:6カ月以内20-30%前後I

です.


それぞれ答えが出ていますが,それはまた違う機会に解説します.

☞➀の答え

☞➁の答え


超余談:ステントレス治療

最近,ステントレス治療といって,PCIでもステントを入れない選択肢があります.

今回の内容を参考にすればステントレス治療に必要な要件は2つ

➀深すぎない血管解離

➁再狭窄を下げないような処置

これらを達成するために,スコアリングバルーン・カッティングバルーンなどの悪性解離を起こしにくい特殊なバルーンや,ローターブレーターやエキシマレーザー,DCAなどのプラークデバルキングデバイス,再狭窄を予防する薬剤溶出性バルーン(DEB),さらには,OCTなどの解像度の高いイメージングデバイスの進化が関わりますが,これは専門的すぎるので,知りたい人はTwitterでDMでもください笑


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